WTCタワー倒壊と原発、そしてリニア

2001年の9月11日、ニューヨークのツインタワーに旅客機が突っ込み、しばらくしてタワーが倒壊してしまったのですが、これをテレビでみていて、旅客機が突っ込んだことには驚いたのですが、タワーが倒壊したことについてはたいしておどろきはしませんでした。どっちかといえば、やっぱりとおもいました。

原子力発電所は巨大技術であって、しかもその技術はまったく不完全なものでした。性能の高いもの規模の大きなものはそれだけアブナイ。これは物理学者の武谷三男さんがずっといってきたことです。武谷さんの本をよんでから「科学技術」とか「先端技術」というものについては、私はずっとそのような「偏見」をもってきました。

参考: 『原子力発電』(岩波新書)、『罪つくりな科学』(青春出版社)など。

原発も超高層ビルも巨大技術です。だから、原発が事故をおこしても、超高層ビルがちょっとしたきっかけで倒壊しても、おなじこと、なんの不思議もない。原発が危ないとおもうなら、タワーの倒壊に不思議はないはずじゃありませんか。ところが、環境保護派とか原発反対を訴える人々が、とくにその中でも声の大きなみなさんがかんたんに9.11事件にはアメリカ政府の陰謀があったんだというトンデモにつかまってしまった。

よくよくかんがえれば、旅客機をハイジャックして自分で操縦してぶっつけるというのも現代「科学技術」のかたまりの飛行機とその運行システムの弱点をねらったものだったわけです。ハイジャック犯はわれわれが考えるような操縦などしていませんでした。じつはコンピュータのボタンをセットしただけでした。そして、それは本物の操縦士たちがいつもやっていることでした。

現代の「科学技術」とか「先端技術」にいくらかでも懐疑的なみかたをすれば、何の不思議もないことを、不思議だと10年近くも騒ぎ続けている環境運動家っていったい何なのか。

大地震と原発事故後、忘れてはいけないとおもうのは、国土交通省交通審中央新幹線小委員会がリニア新幹線建設をみとめる答申をしたこと。答申案に対する「パブリックコメント」では反対意見が大多数だったのに。災害のドサクサにまぎれてと批判されてもしかたない。さて、一直線運行のリニアが通過するという伊那谷には、木曽山脈越えで挫折した中津川線のザンガイがむなしく残っている。リニアは木曽山脈を越えるまえにもっと巨大な赤石山地を越えなければならない。また、長い編成での試験走行はまだ行なわれていない、運転士不在、超伝導磁石のクランチクエンチ現象、エネルギーの大量消費など重大な問題があるし、東海道新幹線の乗客は減っていて建設の第一の目的がなくなっている。原発といい、リニアといい、日本という国が取り返しのつかないことを「考えず」にはじめてしまうということは、何年たってもかわらない。で、この環境運動家はこれについては何かいっていますか? リニアも巨大技術・先端技術です。

参考:地震対策の論議もほとんどされず、4月21日に答申案がでて(「リニア、耐震議論淡々 国交省審 建設へゴーサイン」(朝日新聞、4月21日)(リニア・市民ネット))、答申案に対するパブリックコメントの締め切りが5月5日、そして答申が5月12日(交通政策審議会:中央新幹線小委員会-国土交通省)。パブリックコメントの結果は、「中央新幹線小委員会答申(案)に関するパブリックコメント」結果報告(PDF ファイル)。回答888件のうち「中央新幹線に反対、計画を中止または再検討すべき」という意見が648件だった(平成23年5月12日(木)の委員会記録、「交通政策審議会 陸上交通分科会 鉄道部会 中央新幹線小委員会(第20回)」 PDF、p3 をみよ)。

こんな意見もある「リニアを建設することを目的にしてしまっている。 戦略目的は喪失してしまっているのに完遂しても意味がない作戦が続行されていく。インパール作戦のようだw」(リニア中央新幹線を予測するスレ 41 - ID抽出(zs3b0gzn0))

参考:ウィキペディア − 中津川線

(2011/09/23 記、2012/01/14 掲載)

(補足) 残りの原発が2基となった2012年2月下旬でも新幹線も全国のどの鉄道も減便などしていません。原発とリニアがセットになっているという批判があります。JR東海の葛西敬之会長は多分原発推進派なのでしょう。それで原発の維持のためにリニア新幹線を訴えているにちがいないという意見も当っているかも知れません。しかし、効率のよいガスタービン発電とか他の発電手段も今後利用可能な見込みがあるのですから、原発に反対ならリニアにも反対すべきだというだけの主張では説得力は弱いと思います。

国全体の均整のとれた交通政策や計画(中央集中から分散へ)、冗長性のある防災対策(災害に強いインフラ)と矛盾すること、需要の見込みがないこと、技術的な困難が大きいこと、したがって経済的に合理性がないのでそのツケが結局は国=国民にまわってくる可能性が極めて高いことからリニア新幹線はダメだと思います。(2012/02/25)


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