ゆでがえるのハビタット

 「リニア中央新幹線建設促進長野県協議会」という団体があります。リンク先のページはこの団体のホームページですが、長野県のサイト内にあります。このページの役員・会員名簿をみると、「リニア中央新幹線建設促進飯伊地区期成同盟会」という名前があります。これは、リニアが通過する飯田市と下伊那郡、まとめて飯伊(はんい)とよびますが、その地域の団体です。おそらく、飯伊地域の飯田市以外の町村も入っているはずです。確かめようと検索すると、飯田商工会議所の地域事業というページに、「リニア中央エクスプレス」という記事があり、関連サイトとして「リニア中央エクスプレス建設促進期成同盟会」というリンクがあります。改めて飯田商工会議所のページのリンクをクリックして確かめてください。田舎の「何とか建設促進期成同盟会」とはこんなものなのでしょう。ともかく、飯伊地域の経済団体とか、住民の賛同があろうとなかろうと市町村の首長や多くの議員たちが建設促進を長年唱えてきたことは事実です。

 2011年5月に国土交通省交通審中央新幹線小委員会の答申案に対するパブリックコメントの結果は約73% ( 888件中648件 )が「中央新幹線に反対、計画を中止または再検討すべき」でした。ところが、答申はそのまま出されました。一説には、批判的な意見は組織票だからとか(注)。建設促進期成同盟会というのは、結構大きな団体ですから、1000件や2000件のコメントをまとめるのは簡単なはずです。ところが賛成意見は240件。建設促進期成同盟会がパブリックコメントで「勝つための努力」を全くしていなかったか、または、リニア賛成派は声が大きいだけで人数はごく少ないのか。

注: 記事の裏だって伝えたい に詳しい事情が書いてあります。

 地上部分を走る「明かり部分」が通過する予定の、喬木(たかぎ)村、飯田市の飯沼地区、座光寺(ざこうじ)地区の一部は、農地もありますが、密集地ではないにしても住宅や事業所、商店などが多数ある地域です。住民の中には、9月18日の準備書公表から不安感で夜も眠れないという人が少なからずいるようです。実際、説明会でそういう意見がでています。説明会のパンフレットは、動物・植物・生態系への影響について、「地域を特徴づける生態系への影響については、注目種等のハビタット(生息・生育基盤)に変化は生じない、もしくはハビタットに生じる影響の程度はわずかであることから、全体として小さいと予測します。」と書いています。さらに「なお、一部の重要な種(クマタカ等)について、生息生育環境の一部が保全されない可能性があると予測しますが、環境保全措置を実施することにより影響は小さいと予測します。・・・」と続きます。

 われわれは、「人類」自身のハビタットを忘れていたようです。説明会場の質問の中で「人類」という言葉は実際にでています。これは基本的人権にかかわる問題だと思います。もちろん日照疎外や、立ち退きについての補償とか、そういう話題は出ていますが、いわゆる「環境影響」にばかり目がいっていたかもしれません。

 リニア建設をするJR東海は民間企業です。もし基本的人権を守ることが行政の重要な課題であるとするなら、行政は中立の立場に立たなければならないはずです。住民を守らなくてはなりません。リニア中央新幹線建設促進長野県協議会の会長は現在は、長野県知事の阿部守一氏です。少なくとも長野県知事は協議会と距離を置くべきだと思います。

 リニア新幹線については、経済的に失敗しないか、あるいは技術的な面で、安全性の点で、国全体の鉄道体系のなかでの位置付けなど多くの問題があります。ゆえに本当に必要な事業なのかということ。今から15年、30年後の波及効果よりは、こちらの方が現実的には気になる事柄です。

 立ち退かなければならない住民の人権と、リニアの曖昧なプラス面とを秤にかけてどちらが重いのか。

 説明会は飯伊地方の11箇所で開催されます。どの会場も誰が参加しても良いのですが、喬木村の会場で飯田市の方が質問をされました。飯田市が恒川(ごんが)遺跡群を避けるように要望したから、喬木村の一部を通過することになったとしたら、喬木村のこの地区に対しては特に優遇措置をして、他地域より手厚いことをして、1日も早くリニアを開通して欲しい。大体こんな内容でした(参考)。人柱を祀る伝統が今も生きているといったところでしょうか。飯田市の牧野市長はリニア建設促進の旗振りとして目立ちます。現在の飯田市は周囲の町村を合併して大きくなりました。座光寺も、飯沼ももとは飯田市とはべつの自治体でした。元々の飯田は丘の上といわれる旧市街と上飯田ですから、非常口(神社の境内の一部)と短い橋梁がそれぞれ1つ作られる以外は、すべてがかなりの深度のトンネル(入り口は飯沼地区)です。もし、リニアの「ご利益」があるとすれば、「飯田」は「ご利益」だけを享受できる区域となるはずです。ご利益が享受できると妄想している「ゆでがえる」のハビタットと表現したほうが適切かもしれません。

(2013/10/12)

 座光寺や上郷をのぞいた「飯田」だけに限ってみれば、松川の橋梁以外はすべて地下を通過するので、リニアの問題は東京や神奈川や名古屋と同じです。

(2013/11/04)