残土と発生土の違い

 トンネルを掘れば当然、掘り出した土、「残土」が生じます。リニアはほとんどが地下を走るので路線の盛土などとして残土を消化できる可能性がありません。JR東海は、「残土」のことを「発生土」と呼んでいます。環境影響評価の準備書の説明会場で配られたパンフレットには、「残土」という言葉は使われていません。

 13ページからじまる「環境影響評価の結果」のなかの、18ページには次のように書いています。

●廃棄物等
切土工等または既存の工作物の除去、トンネルの工事に係る建設発生土の影響については、環境保全措置を実施することにより低減されていると予測します。また、建設発生土(切土工等または既存の工作物の除去:約24万m3、トンネルの工事:約950万m3)については、本事業内での再利用、他の公共事業などへの有効利用など考えています。(以下略)

 さらに、同じページの「主な環境保全措置」として「廃棄物等」について「分別・再資源化」、「建設発生土の再利用」と書いています。

 説明会で上映されるスライドのナレーションは次のようにいっています。前半はパンフレットとほとんど同じですが、後半の下線部分に注目。

 廃棄物についてご説明します。建設発生土などの影響については、環境保全措置を実施することにより低減されていると予測します。また、建設発生土については、本事業内で再利用、他の公共事業への有効活用などを考えています。建設工事に伴う建設発生土量は、表に示すとおりであり、切土工等または既存の工作物の除去による発生土量は長野県全体で24万立方メートル、うち豊丘村で1万2千立方メートル、喬木村で5万5千立方メートル。トンネル工事による発生土量は、長野県全体で、950万立方メートル、うち豊丘村で222万立方メートル、喬木村で3万立方メートルになります。
 廃棄物の主な環境保全措置として、建設発生土の再利用、副産物の分別再資源化、廃棄物の分別再資源化などを実施します。
 発生土の対応についてご説明します。発生土は本事業内での再利用、または、他の公共事業などで有効に活用していただくことを考えています。重金属などが確認された場合は法令等にのっとり適切に処理します。新たに発生土置場を設ける場合には、事前に調査検討を行い周辺環境への影響をできる限り回避低減するよう努めます。発生土を公共事業等で有効に活用していただくための情報提供や発生土置場の候補地の斡旋などにつきましては、県を窓口として、関係自治体のご協力をいただきながら調整させていただきたいと考えています。

 下線部の「新たに発生土置場を設ける場合」について、新たに設けるのは誰なのか。これは、JR東海が新たに設ける場合ということです (注1)。その場合は、「事前に調査検討を行い周辺環境への影響をできる限り回避低減」しなくてはならないと考えているというわけです。では、県を窓口に関係自治体が公共事業に利用するときは、具体的には、たとえば、谷を埋めてグランドなどを作るとしたら、その場所の生態系への環境影響評価は誰がするんでしょうか。それは、建築資材としての発生土を有効利用させていただいた自治体自身がやることであるし、何かたとえば、崩壊などの災害が起きた場合の責任は自治体にあるということになる。しかし、利用した土は実はリニア工事に伴って体裁よく廃棄された残土です。

注1: 静岡県では、準備書発表の時点に7か所の残土置場がJRにより示されています。

 トンネル掘削工事が計画されているのは、推薦地域の中でも、厳重な自然保護が求められず、観光などの利用ができる地域で、工事残土は約360万立方メートルを想定。計7カ所に残土置き場を設ける予定で、JR東海は「できる限り再利用する」と話しており、県の担当者は「自然への影響や配慮をしっかり見ていきたい」と話した。(毎日新聞・静岡版 2013年09月19日 ― リニア中央新幹線:エコパーク候補地にトンネル、残土処理懸念 環境保全へ県も検証 /静岡)

 JR東海が残土と呼ばずに発生土といかにも価値のある資源のようにいうのはこのあたりに理由がありそうです。再利用するから環境によい、だからその先はJR東海には責任はないということが許されるとは思いません。残土を山間部で埋め立てに使えば環境破壊の原因になる。かといって、遠距離運べばエネルギーが余計にいる。どちらにしても残土は環境に与える影響が心配されるものなのです。

 JR東海は、長野県については、工事にともなって必ず出てくる残土の行く末について環境影響評価をサボっているようです。準備書には、どこの自治体であれ残土の有効活用をする予定の場所や事業の環境影響評価も、JR東海が新たに設ける発生土置場の環境影響評価もありません。現時点において行き先が決まっていないから当然なのです。

 事業の主体にかかわらず、リニアの工事からでる残土の行き場の候補が決まった時点で、それらの場所や事業の環境影響評価をおこなってからでなければ、リニア中央新幹線の環境影響評価は終わらないと思います。

 原発のような、「便所のないマンション」方式ではダメだと思います。

 なお、質疑応答のなかで、JRの説明者はしばしば、発生土は価値のある資源、建築資材のようなことをいっています。しかし、トンネルの掘削の残土はじつはほとんどが岩クズです。すぐに植物が生えるわけもなく、崩れやすくやっかいなもののようです。

(参考) 残土処分を考えると、南アルプスでのトンネル建設は不可能ではありませんか? 

(参考) 国土交通省が引き起こした「東海環状道トンネル掘削残土による水質汚染事件」

 ついでにいえば、われわれは、残土を運ぶダンプカーなどといって、残土の運搬車が多数走ることを心配するのですが、JR東海のパンフレットの本文中では、「資材及び機械の運搬に用いる車両」という表現しか使われてません。トンネル工法の図解のなかで、1箇所だけに、「発生土運搬」ということばと「ダンプトラック」ということばが使われているだけです。

(2013/10/25)

 朝日新聞に専門家のコメントがのっています。

工事で生じると見込まれる残土の扱いも難題だ。南アルプスのトンネル工事だけで、長野五輪の工事で生じた量の約4倍の950万立方メートルと予想されている。
 長野県環境保全研究所の富樫均主任研究員(環境地質学)は「県内に処理できるスペースはない。安全に環境負荷なく処理できるのか。トンネル工事は地上に影響しないというのは大きな間違いだ」と指摘する。(朝日新聞 2013年09月19日 「深層地下トンネル、超伝導… リニア、技術に死角は? リニアが抱える3つの課題」)(このページにコピーがあります。)

(2013/10/29)