続・住民を代表した意見とは
11月23日に飯田市で行なわれたリニア中央新幹線の環境影響評価準備書に関する公聴会で、上郷の方が、地区の自治会を代表して意見を述べたことにはすでにふれました。この方は、上郷まちづくり委員会の会長で、合併して飯田市となるまえの下伊那郡上郷町にあたる地域の自治会の代表です。この上郷まちづくり委員会は、ルートの公表をうけて「上郷地域リニア対策特別委員会」を発足させています。また、11月1日に環境影響評価準備書にたいする13項目の意見書をJR東海に出しています。上郷の地域内には10の地区があって各地区ごとに自治会長(地区会長)がいます。駅の予定地は北条という地区です。次のように冒頭で話しておられます。
私は飯田市の上郷地籍でございます。上郷地籍はご存知のようにリニア新幹線の駅が設置される場所でございます。そういう立場で、また、地域の自治会を、自治組織を代表する立場でもございまして、そういう立場から環境影響評価書にたいする意見を述べさせていただきます。いままで12人の方が意見を述べられましたけれども、ちょっと異質の意見になるかと思います。私どもの立場は、やはり住民自治組織、やはり三、四十年も前から、この地域には新幹線が欲しいなということでそれを進めてきた、誘致を進めてきた、そういう立場でございます。ですので1年でも早く早期の開通を望む立場でもあります。・・・
ここで素朴な疑問として思いうかぶことは、駅の予定地の北条地区の住民はすべての人が「1年でも早く早期の開通を望む立場」なのかということです。各地の準備書の説明会での住民の方々の発言を聞くと「立ち退き」ということに関してはかなわないなという気持ちがあること、そして近隣に大きな構造物ができることについても不安感があることがあらわれていたように思いました。たとえば、飯沼、おそらく北条に住んでおられる方は次のようにいっています。
・・・私達の地域の皆さんは、多くの皆さんが、家(うち)を移転しなければならない。いきなりふってわいたようなことで不安で仕方ないというのが、すべての皆さんの意見であります。そういう点で、2年前に発表されたのは、下市田の駅のところへ行くと、それが、どうもだんだんいって、恒川清水を守らんならんで、ちょっと移動すると、猿庫の泉を守らんならんで、ちょっとそれも考えると、ということで、とうとう飯沼まで来てしまったんですね。遺跡も大事です、猿庫の泉も大事ですが、私達の部落には多くの皆さんが、人類が生存しておるんです。ここの皆さんの環境を破壊するようなことは本当はしてもらいたかないというのが私どもの意見であります。・・・
誘致運動がかなりまえから行なわれていきたことは事実です。しかし、それは本当に下伊那や飯田地域全体の住民の意見を代表していたとはいえません。明確に住民投票をしたとかそういう性格のものではない。建設促進期成同盟会という奇妙な組織や議会も含めた自治体幹部の恣意的で継続的な宣伝活動の結果、住民が乗せられているというのが実際の姿だとおもいます。だから、立ち退くのが嫌な人は、当然ながら、そのことを言い張る権利があるし、いわなければならないと思います。近所に迷惑なものができると思う人も同様だと思います。これらの気持ちや事実、生活環境の破壊はまさに実に具体的なことです。それに対してリニアでこの地域や、立ち退く人、迷惑を受ける人が受ける恩恵について具体的な説明などなされたことはない。
もうひとついうべきことは、お互い様ということ。駅が下市田(高森町)にいけば問題ないかといえば、下市田でも同じような問題はおこるはずです。路線からはずれた町村や地区でもリニアから受けるだろう恩恵は具体的にはほとんどわからないという点も同じです。これもお互い様。であれば、すべての問題を解決する簡単で容易な決断は、リニア新幹線の建設を拒否することだと思います。それは地域住民としてだけでなく、国民としても最も賢い選択だと私は思います。
別にこの上郷まちづくり委員会の会長さんを責めるつもりはないです。おそらくこういう立場になれば誰でもがこういう発言をせざるを得ないのだろうと思います。実は彼は次のようにもいっています。
・・・駅および線路ができることによりまして現在ある地域コミュニティー、日常生活あるいは防災上維持するための組織、隣組ですね、いわゆる、それが分断されるケースがある、たくさんありそうなんです。日常生活が乱されるということになります。
「上郷地域リニア対策特別委員会」の組織の概要が上郷まちづくり委員会の広報に報告されています。そのなかに次のような部分があります。
当初、上郷地域にリニア駅が設置されることは想定外だったために、リニアに伴う総合的な考え方を示す基本方針(柱)はなく、地域資源を活かしたまちづくりは「リニア部会」で、コミュニティや人づくりは「住民自治部会」や「人づくり部会」で、また「土地利用計画策定部会」で検討してきたことを基本構想に反映させ、調整するというスタンスをとってきた。
しかし、駅位置が決定したことに伴う総合的な基本方針(柱)が必要となっており、この特別委員会の検討結果を、基本構想に反映していくことにする。
お気楽に構えていたのに晴天の霹靂のごとくおどろいたということが正直に表現されていると思います。つまり、本当のところこういう自治会レベルでも具体的にはほとんど何も考えていなかった。戦争で空襲を受ける可能性よりすっと高いことなのに考えもしなかったことをあらわしているんじゃないかと思います。飯田市は太平洋戦争中、米軍の爆撃目標リストにのっていたのに、遅きに失したとはいえ8月15日までに終戦を迎えたので難を免れた。こういう大規模な事業計画には戦争に似たところもあると思います。
いまから検討しなおして、「リニアに伴う総合的な考え方を示す基本方針(柱)」をたてるというその内容に期待したいと思うのですが、最後に次のような一文が
8.その他
会議は非公開とする。
この特別委員会がすべての住民あっての地域コミュニティを守るという原則に忠実である限りは、誰も気兼ねすることなく公開の場で、あるいは会議の内容はすべて公表して、そういう環境で、リニアの合理性、必要性の再考という根本問題からはじめて検討する必要があると思います。いまからでも、リニアをやめさせることはできる、ゼロから考え直すという立場でやるべきだと思います。これまでの地元のリニア誘致運動には何の正当性も政治的な強制力もないと考えるべきだと思います。
リニアを誘致した結果よりは、不合理極まりないリニアを拒否したということこそが、下伊那や飯田の評価を上げることになると思います。第一それが一番安上がりな方法だと思います。それは長野県という立場でもいえることだと思います。
(2013/12/07)