「リニアには原発が必要」か?

 リニア新幹線は、新幹線に比べてより大きなエネルギーが必要といわれます。「原発3~5基分の電力が必要」などといわれる場合もあります。また、JR東海の葛西会長は2011年の東日本大震災の直後ですら(※)、声高に原発の必要性を訴えるなど原発推進派としても際立っていると思います。

JR東海会長・葛西敬之 原発継続しか活路はない (産経新聞、2011.5.24)(web.archive.org 。表示に少し時間がかかります。)

 原発は出力を急に変化させると不安定な状態になりやすいので、常に一定の出力で運転されるそうです。昼間と夜の需要の変動に対応するため揚水発電と組み合わせたり、変動する部分を火力発電など他の発電で補うなどします。リニアや、鉄道は火力発電など原子力以外の発電所が分担する部分です。

 リニアのエネルギー問題について論じたものとしては、産業技術総合研究所の阿部 修治さんの 「エネルギー問題としてのリニア新幹線」があります。これは岩波書店の『科学』(Vol.83, No.11 (2013) pp.1290-1299)に掲載されたもので、産業技術総合研究所の阿部さんのHPでPDFファイルとして公開されています。

 しかしこの文書では、原発何基分という話はでてきませんし、葛西会長の発言についても書いていません。なお、この文書では、消費電力のほかに、「モーターという機械を地上の長大インフラとして建設しなければならない」など超伝導リニアが「筋のよい技術」ではないという指摘が重要だと思います。

 上岡直見さんは自らの計算に基づいて、JANJANの記事「リニア新幹線と原発は無関係(web.archive.org のキャッシュ)」の中で次のように言っています。

・・・現新幹線が原発にたとえれば約2分の1基ていどのところ、リニアが全線開通すると約4分の1~3分の1基ていど増えることになる。これは東電管内だけでも夏の最高気温が0.1~0.2度上下しただけで吸収されてしまう程度の変動である。電力消費は少ないに越したことはないが、原発5~6基に相当するというのは工学的常識からみても的外れであり、むしろ推進派の印象操作に逆用されかねない。

 また、続いて上岡さんは次のように書いています。

(独法)産業技術総合研究所の阿部修治氏は、現新幹線とリニアで双方とも定員一杯乗車したという仮定で、1人が同じ距離を移動する電力量で比較すれば約3倍と推定している(参考文献2)。阿部氏もJR東海の推計は概ね妥当としている。葛西会長の原発推進の発言について阿部氏は「リニアのために直ちに原発を必要とするというよりは、電力が安く大量に供給されている社会でなければ、高速大量輸送システムを安価な料金で運営することはできず、商売として成立しなくなるという危機感があるのではないか」と評価している。

 この「参考文献2」というのは、「阿部修治『リニア中央新幹線の消費電力について』2011年7月25日文書」(PDF)で、これはリニア・市民ネットのサイトに掲載されたものです。上岡さんの引用した部分の前後は次のようになります。

(3)原発を必要とするか?
(リニアの)ピーク時の消費電力27 万kWないし74 万kWは、100 万kW級の原発1 基の出力の約4 分の1ないし約4 分の3 に、それぞれ相当する。東京~大阪開業時にほぼ原発1基分相当の電力が必要になるということである(注2)。現在の東海道新幹線全体の消費電力はピーク時で55 万kW 程度という評価がある[6]。これに比べて、リニアの輸送力は東海道新幹線の半分程度なのに74 万kW というのは、相当大きい。なお、JR 東海会長が原発推進を求めているが[7]、この電力自体は自営火力発電等でも賄える範囲なので、リニアのために直ちに原発を必要とするというよりは、電力が安く大量に供給されている社会でなければ、高速大量輸送システムを安価な料金で運営す ることはできず、商売として成立しなくなるという危機感があるのではないか。

(2014/03/03)

 原発については、放射性廃棄物の処理の問題(便所のないマンション)、事故が起きた場合の被害の大きさ(福島原発事故)、放射線の健康への悪影響、地震列島に設置する無謀など現在の科学技術では容易に解決できない決定的な欠点があって実用的な技術では決してないことが廃止すべき理由になると思います。

 リニアについては、環境破壊の問題、事業の経済性の問題、国の財政や地域の経済に与える悪影響、全国的な交通体系の破壊、エネルギー効率の悪い筋の悪い時代遅れの技術であることなど、事業自体に中止すべき理由があります。

 「原発再稼動を想定しているリニアには反対」とわざわざ唱える必要はないと思います。

(2014/03/04)