パノラマ画面と35mmの画角の違い 山梨編

 景観への影響の評価のモンタージュ写真にパノラマ画面が多用されている山梨県分と岐阜県分について、パノラマ画面と35mmレンズの画面を比較してみました。

 まず山梨県から。山梨県分の評価書(PDF版)の景観の予測結果の部分は下の写真のようになっています。


 山梨県では35mmレンズの画面は縦横が 2:3 の比率です。これは原版の比率そのままということでしょう。縦を1 とすれば 横は1.5です。パノラマ画面のほうは場所により縦横の比率が違います。35mmレンズを使用して縦方向のトリミングはせずに横方向だけをつなぎ合わせて作成されたと仮定しました。

 評価書のPDFはアドビリーダーで、ページ欄を左側に表示して本文は基本的に85.4%の拡大率で閲覧しています。この状態からスクリーンショットを取ると、パノラマ画面の縦のピクセル数は280前後になります。2:3の画面は横が615、縦が411になります。

 パノラマ画面について、アドビリーダーの拡大率を125%程度(411÷280×85.4≒125.4)にしてスクリーンショットを取ると縦が411ピクセルになります。この画面から615ピクセル分を切り出して35mmの画角相当としました(実際には 130~150%の拡大率でスクリーンショットを取って縦幅を411ピクセルに縮小調整した場合が多いです)。 つまり、環境省の推薦するマニュアル(※)に従った表現に直したものをパノラマ画面から切り出してもとのパノラマ画面と並べてみました。小数点以下の処理と手作業の不正確さにより最下位の数字がそろっていない場合があります。

※ 『自然環境アセスメント技術マニュアル』(財団法人自然環境研究センター)。ハンドブックと書いていましたが訂正しました。(2014/05/17)

このページは、11.6型 1366 x 768 ピクセルの画面のパソコンで作成しています。この程度の小さい画面でもパノラマと35mm画角を上下に並べて表示できるようにやや小さい画像を使っています。11.6型の場合ブラウザは全画面表示でみるとよいかと思います。

 先に結論をいえば、環境省の推薦するマニュアルのフォトモンタージュの作成方法にはパノラマ画面で表示するという方法はないと思われるので(※)、山梨県分と岐阜県分のパノラマを使ったフォトモンタージュは評価書の内容として適切とはいえないだろうということです。

※ 東京都、神奈川県、静岡県、愛知県は、35mmレンズ(か50mmレンズ)で撮影してトレミングせずに掲載しています。長野県も35mmを使うつもりはあったようですし、パノラマは使っていません。60度程度(あるいはそれ以下)の視野になるレンズを使うというのがJR東海内部では大勢だったと思われます。撮影を35mmレンズで行ってもパノラマにすれば画角は非常に短い焦点距離のレンズで撮影した場合と同様になって、35mmレンズを使用する意味がありません。(2014/05/17 補足)

八代(やつしろ)ふるさと公園

 この場所のパノラマ写真の縦横の比率は、1:3.27 です。桜の花や桃の花でしょうか、桃源郷というにふさわしい景色をうまく表現できていると思います。35mm画角のほうはあまりぱっとしない感じですが、環境省のマニュアルに従えばこうなるはずです。マニュアルは四つ切サイズで鑑賞しなさいといっているので、パソコンの場合、画像のみを15インチディスプレーいっぱいに拡大して30cm程度はなれて見るとほぼ同じ条件になります。JR東海は準備書でこういう説明を付け加えるべきだったと思いますが、やっていません。長野県のガイドラインではそうしないと過小に見えることを明示するようにといっています。


913 x 283


615 x 411

 ブラウザで拡大してもパノラマでは高架橋の様子は良くわかりませんが、35mm画角では橋脚まではっきり見えます。パノラマで見せるということは、全体の風景は大きいのだからちょっとくらい改変したって気にならないよといっていることと同じです。JR東海は予測結果として「現在の景観に構造物が加わるが、眺望景観の変化の程度は小さいため、供用時における眺望資源に与える影響は小さいと予測する」と書いています。見方を変えると、この説明に合うようにパノラマ写真を示したといったら意地悪でしょうか? あるいは、パノラマ写真を説明したことで影響評価のかわりにしたといったら。

境川PA

 違いは歴然。予測結果の説明文では、「煩雑性の軽減を図ったディテールの工夫や橋梁と高架橋のデザイン的統合とにより」に続いて使われそうな「圧迫感が軽減され」という言葉はさすがに使われていません。 カタログ写真で見た感じと実物は違うという例じゃないでしょうか。もっと右にカメラを向けたらどんな感じになるのでしょうか?


869 x 277


615 x 411

曽根丘陵公園

 パノラマ画面では目がまず左側の南アルプス山系に行くと思います。35mm画角では、右側手前の木が遠方の景色を小さく見せているのですが、じっくり見ると八ヶ岳との対比で鉄道施設が意外に大きく感じられるのではないでしょうか。


869 x 279


615 x 411

ふるさと公園 釜無川左岸堤防上

 印象が少しは違って見えませんか?


772 x 274


615 x 411

釜無川右岸堤防上

 パノラマでは路線が富士山の眺望をそれほど邪魔していないように見えるのに、35mm場面では路線が富士山の眺めを邪魔しているという印象があります。


869 x 276


615 x 411


615 x 411

 釜無川右岸では路線までの距離は400m。似たフォトモンタージュがあります。この写真(天竜川右岸=長野県)は300m。

塚原山フルーツ公園

 パノラマでは路線の見える範囲すべてが写っているのですが、意外に路線の存在感がありません。35mm画角のほうが構造物の横の広がりを強く感じると思います。


942 x 238


615 x 411

森林総合研究所 芝生公園

 左端から切り取ったものを示します。見たとおりの結果です。35mm画角では、さらに左のほうがどうなっているのか気になります。


618 x 275


615 x 411

殿原スポーツ公園

 パノラマ画像は前景の左右に桜があって全体にバランスのとれた美しい写真だと思います。しかし、リニア路線は矢印があってやっとわかる程度、全体の眺めに対してほんのちょっとしか変化はないと思います。だから「納得できる」のではないでしょうか? 何が?


795 x 283


615 x 411

大法師(おおぼし)公園

 パノラマでは前景の桜に目がいってしまいがちです。35mm画角のほうが路線がはっきり確認できます。


815 x 280


615 x 411

ダイヤモンド富士撮影ポイント

 パノラマではまず右側の富士山に視線がいくと思います。35mm画角ではパノラマより富士山の印象が弱まっているようです。路線の曲がり具合に注目。半径8000mの曲線はほとんど直線に見えるはずですが、随分急に曲がっているように見えるのはなぜでしょうか。

 森林総合研究所とダイヤモンド富士撮影ポイントはパノラマ画面と35mm画角が評価書の紙面では横幅がほとんど同じになります。パノラマ手法が24mmとか20mmといったより広角レンズを使ったのと同じ効果のあることを示していると思います。同じ画面幅で被写体がより小さく写るという効果です。


610 x 281


615 x 411

三椚(みつくぬぎ)、石橋集落内

 予測結果の説明文、「視認される鉄道施設(高架橋)はコントラストを持つ水平線を構成することで、圧迫感の軽減や地域景観との調和が図られている」。これは、グランドのフェンスが前景にあることも功を奏しているかも知れません。パノラマ写真は、右の体育館のような建物がアクセントになっているので写真としてよい構図になっているといえると思います。しかし、人間の視覚に近いのは下の写真だといっているのは環境省の推薦するマニュアルです。35mm画角だと手前の地面が随分大きく写っているという感じもします。照明塔の少し右、土管の曲がり具合が少し変なのは写真のつなぎ目でしょうか。


769 x 281


615 x 411

中道橋(なかみちばし)

 これも超広角レンズの替わりにパノラマ化したようなものです。


617 x 282


615 x 411

笛吹ライン

 パノラマは橋のデザインの特徴がよく表現されていて美しいと感じるかも知れません。カタログ写真的です。その点は35mmレンズの画角では表現できていないと思いますが、現実としてはこう見えるはずです。少なくとも前方を注視して運転している運転者にはこう見えるでしょう。


716 x 279


615 x 411

小曲町(おまがりちょう)集落内

 ほぼ中央部分を切り出しました。


906 x 278


615 x 411

上成島(かみなるしま)区公会堂

 いろいろな施設が写っているので左、中、右と切り出しました。左には背景に保守基地が見えています。撮影位置を道路の左側にすれば保守基地と本線を結ぶスロープがよりはっきり見えるはずです。中央の電柱の左側に見えます。右側部分を見るとさらに右はどんな様子か気になります。


895 x 281


615 x 411


615 x 411


615 x 411

(補足 2014/05/16) 3つ目の写真の中央付近に玉穂中央ランプ交差点の青い道路標示板が見えます。そのすぐ後ろに見えるのは新山梨環状道路。撮影位置はここ(緑のマーク)だと思います。フォトモンタージュにも青い道路標示は残っているので、この写真の道路から左側が保守基地になるということなのでしょう。撮影位置はこの写真では右側になるはずです。

県道3号(昭和通り)

 中央部を切り出しました。


734 x 283


615 x 411

若草田園地帯

 パノラマ画面ではこの視点場で見える範囲の構造物がすべて表現されているという印象がします。しかし、35mm画角では、この右側はどうなっているのかなという気持ちがおきるかも知れません。これも超広角レンズの代わりといった感じです。


574 x 283


615 x 410

田島集落内

 ほぼ中央部を切り出しました。35mm画角のほうが存在感があると思います。


652 x 281


615 x 411

荊沢(ばらざわ)集落内

 当たり前ですが35mm画角のほうが高架橋がずっと近い感じに見えます。


794 x 279


615 x 411

 安藤家住宅は構造物が見えないということなので取り上げませんでした。

(2014/05/15)