「中央新幹線は原子力発電を前提としているのですか」

 「中央新幹線は原子力発電を前提としているのですか」という質問に対して、JR東海はつぎのように答えています。


(「平成24年(5月~9月)、平成25年(5月~7月)説明会における主なご質問」(JR東海))

 今の原発の出力は1基で100万kw程度です。(1)と(2)から、リニアの消費電力は原発何基分という言い方は適切とはいえないといえるかもしれません、というのが「科学的」な見方なのでしょう。原発は常に一定の出力で運転しないと危険ですから、鉄道にはむいていません。かならず火力など他の発電所が必要です。こういう点でも原発を前提にしていることは無いはずです。

 しかし、産業社会全体としてみれば最低限の負荷は決まってくるでしょうから、それを「ベースロード」部分と呼んで、原発をその部分でまかなうというのが「ベースロード電源」という言い方だと思います。(4)はその部分の話だと思います。

 「ベースロード電源」という言葉の定義についてはいろいろな意見があるようですが、本当のところは原発が辛うじて安全に使えるのはベースロード電源くらいしかないという意味だろうと思います。それぐらいしか使い道がない。「産業社会全体としてみれば最低限の負荷は決まってくる」と書きましたが、深夜電力温水器というのがあるのを忘れてました。そうそう揚水発電というのもありました。「ベースロード電源」とは本当は必要の無いものなのではないでしょうか。原発を稼動させるために考え出された屁理屈じゃないかと思います。他の電力はたいてい需要に応じて出力を変更できるんじゃないでしょうか。

 原発の再稼動が必要な本当の理由は、金子勝さんなんかが言っているように、やっぱり、電力会社の経営上の問題なのだろうと思います。でもなんでJR東海が(4)のように気を使わなければならないんでしょうか。

 実際、JR東海の葛西会長は福島第一原発の事故直後から、危険を覚悟してでも原発は続けなければならないと主張し続けています。仲よしのアベシンゾウさんも原発は続けるといっています。リニアはアベさんの経済成長戦略の一つにもなっていますから、原発とリニアはセットといえます。原発もリニアもどっちも必要だといっている人たちがいるのが事実なのですから。原発とリニアとを結びつけて、原発を前提にしているリニアに反対という言い方は決して間違っていないはずです。

 原発は重要なベースロード電源という考え方はJR東海の(2)の原発が無くても間に合っているという説明で否定されています。これは少なくとも事実に基づいた見方だろうと思います。

 電気は原発以外で間に合っているのに原発は重要なベースロード電源という言い方のほうが非科学的なはずです。リニアに反対する意見のなかで数字に誤解があったり、前提としているという言い方が変だといえないこともないことを取り上げて「主張が科学的でない」という批判ははずれだと思います。原発は重要なベースロード電源という非科学的な主張をしているのはリニア推進派なのですから。原発を前提としているリニアという言い方はほとんど問題はないはずです。

 (3)の新幹線で省エネルギーに努めてきたということは事実ですが、それは鉄のレールの上を鉄の車輪で走るという非常にエネルギー効率の良い方式が基礎にあったからで、常に電力を用いて列車と乗客を持ち上げていなくてはならないリニア新幹線では新幹線ほどの省エネの見込みはありません。列車の模型が浮揚している子供だましの実験とリニアは原理が違います。JR東海のリニアは飛行機と同じで前に進む力の一部を浮揚する力にかえています。進む力は電力です。超伝導磁石が飛行機の翼、側壁に組み込まれた浮上用コイルが空気の役目をしているわけです。自然にあるものを利用する飛行機のほうがよっぽど合理的だと思います。

 「科学的」という言葉でリニア反対の主張を批判するまえに、リニア推進という考え方のほうが根本的に非科学的なことを知るべきだと思います。

 ところで、葛西名誉会長が委員長を務める首相の諮問機関、宇宙政策委員会は、8月20日に今後の宇宙開発政策は「国家安全保障に資するよう優先順位を付けた予算配分にする必要がある」という提言をまとめました(宇宙政策委員会 基本政策部会 中間取りまとめ(PDF形式:252KB))。われわれがなんだか変だなと思うことが、裏では一つのところでつながっているという感じがします。原発とリニアもその一つです。

(2014/08/24)