「着工」とは、これからが山場
東濃リニア通信によれば、『東京新聞』は10月に、『読売新聞』は9月中に、リニア中央新幹線は「着工」されると伝えています。
たとえば『デジタル大辞泉』では「着工」とは「土木・建築などの工事を始めること。」と説明していますが、「着工」とはいっても、いまだにルートの中心線が実際の土地の上でどこになるのかを決める測量(中心線測量)はしていないし、立ち退きの対象になる家屋もわかっていない状態です。関係自治体が立ち退きや日照阻害、騒音、振動などの被害を受ける住民の数も把握できていない理由は中心線測量が出来ていないからでしょう。もちろんおよそでも被害をこうむる住民の数を把握できないような自治体は住民を守るという点で大問題と思うのですが、それはともかく、それらは「着工」してから行われることですから、われわれ素人が思いつく「工事を開始する」という意味ではありません。JR東海自身がそう説明しています(参考)。
『読売新聞』記事も実は次のように書いています。
JR東海は環境影響評価(環境アセスメント)書の最終版を国土交通省や沿線自治体に近日中に示し、工事実施計画の認可を国交省に申請する方針を固めた。国交省は工事方法などを記した計画の妥当性などを審査し、9月中にも認可する見通しだ。
同社は認可後、速やかに各地に工事事務所を設置し、沿線に対する工事計画の説明や用地取得の手続きを始める。(2014.8.18)
『東京新聞』はちょっと違う。具体的な予定について、「JR東海は昨年九月、環境影響評価準備書で具体的なルートや駅の位置を明らかにした。」、「国交相は七月の意見書で住民への丁寧な説明を求めたが、計画自体は事実上、容認した。」、「太田昭宏国交相は七月、計画の遅延につながる大幅な変更要請を求めなかったため、早期着工の環境が整ったと判断した。」と書いて、見出しは「JR東海 リニア10月着工へ」(2014.8.12)。
新聞やテレビが「着工」という言葉を見出しに使ったのを、またテレビなどが報道するのを読んだり聞いて、直接関係のない地域の人、こういう専門的な用語の意味を知らない人はどう理解すればよいでしょうか。たいていの人は見出ししか読まない、最初のリードしか覚えていないということもあります。工事の設計とか用地の手配も済んで、着工の日には地鎮祭を行ってという段取りがもう出来ていていると誤解する人も結構いると思います。しかし、新聞記事やJR東海自身がいっているとおり、たとえばかっての成田空港の工事でもあった土地収用の問題などJR東海にとって非常に困難な問題はこれから出てくるわけです。
こんな、無意味な事業計画のために大切な土地は譲れないという人も出てくるかもしれないし、無駄で地域に利益をもたらさない事業計画に自治体が用地交渉などで協力するべきでないという意見も出てくるかもしれないし、10年以上の長きにわたって近隣町村に迷惑をかけたあげくストロー現象で地域がダメになったじゃ洒落にもならないと思う飯田市民もでてくるかも知れないし、飯田市が20年前に分譲した住宅団地が潰されるというような飯田市政のマヌケさを批判する声も出てくかもしれないし、現飯田市長はリニア中央新幹線の無駄、無意味を知りうる見識と経験があるのになぜ毅然とした姿勢を見せない(リニアのマイナス面についてほとんど具体的な言及がない)のかという声も出てくるかもしれないし・・・・。JR東海、国土交通省のこれまでのやり方をみれば成田空港のような紛争が起きる条件はできてしまったと思います。ボタンの掛け違いはあった。推進側としては本当はこれからが一番の山場のはずです。
これらの記事は、事実を伝えているように見えるのですが、実は工事開始はすでに決定済みというムードを盛り立てるようなものになっているような気がします。読者の立場、読者の言葉で書かれていないからだと思います。この場合、「着工」は事業者と監督官庁だけが正しく理解できて、国民が誤解しやすい言葉だと思います。
(2014/08/20記、08/25掲載)
準備書説明会でのJR東海の工事日程についての説明
◆ 23年5月に建設の指示をうけ、現在環境評価の手続きをしている。本日の説明会は環境評価の準備書の説明。このあと評価書を作成し環境評価の手続きは終了する。終了すると、工事実施計画の申請、認可という手続きにはいる。認可が得られると着工になるが、すぐに工事をはじめるのではない。着工すると、まず地域の皆様に事業説明会をする。そのあと中心線測量をする。関連して必要な用地の幅などを現地で測量する。並行して、用地の地権者にたいして用地説明会などを行なう。このような手続きを進めるとともに工事計画も進めていく。工事着工前の工事説明会で詳細で具体的な工事計画を説明する。来年から工事に入るわけではない。JRの予定としては工事実施計画の申請認可を26年度中に得て着手も26年度中と考えている。26年度に着手できれば、事業説明会、用地説明会と進んでいくことになる。(準備書説明会 2013年10月4日)
◆ 事業認可をうけてから、具体的にそれぞれの工事を進める手続きにはいる。事業説明会とか、用地の関係を進めながら、同時並行で工事の具体化をはかっていきますので、こういったところで設計もしますし、設計に関係する交差道路であったり、交差する河川であったりの協議も含めながら設計も進めて行くことになるので、最終的な決定した形で皆様にご提示できるレベルというと工事説明会の段階ということになる。
着工すると用地の関係の手続きに入っていくが全国新幹線整備法という穂率に基づいて、用地の取得は自治体さんに委託して、用地交渉なども自治体さんが中心となって行っていただくということで今調整を進めているところでございます。(準備書説明会 10月10日)
◆ 今後工事開始までの流れを説明すると。国土交通大臣の建設の指示を平成23年5月にうけ、環境影響評価の手続きにはいっている、本日も準備書の説明会、この手続きは最終的には環境影響評価書にして手続きは完了する。この手続きが完了すると工事実施計画の申請にかかる。ここで国土交通大臣から計画の認可をうけて、着手、着工となる。着工したからといって、すぐに工事が始まるわけではない。皆様の周りを工事用車両が走り始めるわけではない。まずは事業説明会ということで関係する皆様に事業の内容について説明する。それに引き続いて中心線測量、用地測量は現地にはいらせていただいて中心線を現地でおとし、必要な用地を確定する。用地の確定が終わると、用地の取得に関する説明をさせていただく。工事計画にもついても・・・をすすめて、工事説明会で地域の皆様に具体的な工事の内容とか範囲など話す。用地の取得は、事業説明会が終り、現地で用地の測量が終り、用地説明をしたあとで、実際の交渉をさせていただく。順調に手続きに進めば、工事実施計画から約1年後位にはお譲りいただくことができるのではないかと現時点では考えている。(準備書説明会 10月11日)
◆ えー本日もこの準備書の説明会ということになります。えーこの環境影響評価につきましては、今後ですね、この準備書の手続きを経まして、最終的には環境影響評価書というものを作成いたしましてこれを報告するということです。これを報告いたしますと、この環境影響評価の手続きが完了ということになりまして、続きまして工事実施計画の申請認可というものがございますが、これはあのー国土交通大臣のほうに当社が申請をいたしまして認可を受けるというものでございます。この認可を受けましてはじめて着工ということになります。ただ、あのー着工と申しましても、すぐに現地の工事が始まるというものではございません。えー着工いたしますと、まずは事業説明会ということで、地域の皆様に事業の内容などをご説明するということになります。またー。それに引き続きましてですね、こちらのほうで、中心線測量というのがありますが、これはあのー現地、現地にこの中央新幹線の中心線を実際に落としていくという作業です。また、あのー用地測量というのがありますが、これは中心線をベースといたしまして、実際に必要となる用地を現地で落としていくということになります。えーこの時点ではじめて、えー今回の中央新幹線で取得させていただきます用地の具体的なところが決まるということでございます。で、えーそのような、取得する範囲が決まってきますと、用地説明会ということで、関係する地権者の方々に、この中でですね、具体的などのような内容の補償させていただくってことも含めてここで説明をさせていただくということでございます。それから、あのーまこの事業説明会、こういう用地といった作業にあわせましてですね、えーと工事の計画も具体的な(意味不明)ということでございます。でー、実際に工事にはいる前には地元の方々に工事説明会ということで、あのーここでは具体的にどこの工事をどのような形でいつからやるのかといったことがら、細かいお話しをここではさせていただくということになります。でーこの説明会が終わっていよいよ工事の開始という手順になるということでございます。(準備書説明会 10月15日)
補足 2014/09/16
JR東海の、「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価準備書説明会の資料について」というタイトルのページで、準備書説明会で使用された資料と「準備書説明会における主なご質問」にたいする回答が掲載されています。質疑は全地域共通と地域ごとで総計43問あります。用地取得の段取りについて次のように答えています。
Q:用地取得はいつ頃ですか、またどのような手続きになりますか。
・中央新幹線の建設に必要な用地については、他の整備新幹線と同様に、国土交通大臣から工事実施計画の認可を受けたのち、測量による路線中心線の現地への落とし込み、用地幅を明らかにするための杭の建植、土地の境界立会い、用地の測量等を行い、用地取得する範囲を確定後、関係する地権者の方に譲渡に向けた説明をしてまいります。(下図参照)
・順調に進めば工事実施計画認可を経て、1年後ぐらいからお譲り頂くことを考えています。
2014年9月半ばの現在、まだ認可はでていません。「順調に進めば工事実施計画認可を経て、1年後ぐらいからお譲り頂くことを考えています。」というのはJR東海の希望であって、沿線の住民や自治体や都・県がJR東海や建設推進側のいいなり、なされるままになった場合のことです。国全体の交通政策に有害、完成し得ない筋の悪い技術、経済的に成り立たない、エネルギーの浪費、自然環境の破壊、生活環境の破壊と公害発生の可能性、地域の経済と社会を破壊すること(悪いとこばかりで、いいとこなし)などを理由に、住民と、住民を守る立場に立つ自治体ががんばれば10年たっても20年たってもリニアは工事に入れないはずです。一つの地域、地区でも工事が出来なければリニアは完成の見込みはゼロです。事業についての地域住民との「合意形成」という環境アセスメントの本旨すら理解できていないJR東海です、末端の若い社員の応対が丁寧だとしても、補正した評価書は住民に対する宣言であって以後は要望は聞き入れないという(※)非常に高飛車な態度でいますから、中心線測量が何の妨害もなく平穏無事に、順調に行えるとは限らないでしょうね。
※ (『朝日』8月27日) 地元市町村と環境協定の締結を、という長野県独自の要請についても、同社の沢田尚夫・中央新幹線建設部担当部長は記者会見で「評価書が世間や住民に向けた宣言であり、それに加えて特段の協定を結ぶ考えはない」と明言した。
成田空港では大変な紛争がありましたが地域としては限られた範囲でした。全長290kmという規模の事業は多数の地域にわたり、関係する自治体の数ははるかに多いのです。JR東海がもう決まったことのようにいっている「用地の譲渡は認可1年後」という数字は絵空事であって、地域の住民の意思をまったく無視した言葉だと思います。それは住民と自治体の考え方次第でかわるものです。ともかく発言することが大事だと思います。JR東海と地域住民との「合意形成」はまったくできていないといえます。