高森町、親水公園からの眺望
「河畔林」は景観資源ではない
下の写真1はリニア新幹線の環境影響評価書の資料編に掲載された高森町の親水公園から天竜川橋梁付近をながめたフォトモンタージュです。基本的には準備書や評価書本編で使われたものと同じです。画像のサイズが大きいのとタテヨコの比率がわずか違います。画角はだいたい28mm相当です(左右で約65度)。写真1には2800m先に出来る予定の高架橋と橋梁が合成されていますが、非常に小さくみえます。
写真1。評価書より、2012年8月撮影。
この景観の予測結果は次のようになっています。
本眺望景観は、カヌーやウォーターチューブで天竜川を下る拠点となっている地点から天竜川下流方向の眺望であり、天竜川の水面と両岸の河畔林を視認できる。
本眺望景観では、鉄道施設(橋梁)を中景として視認することとなるものの、視認性は低く、景観資源である天竜川の水面や河畔林等を阻害することはない。またスカイラインの分断もなく、供用時において眺望景観に与える影響はないと予測する。(評価書・本編より)
この写真の撮影場所は下の写真の赤丸の位置で、天竜川の水面から約60cmです。親水公園はゴムボートやカヌーの川下りの出発点になっています。
写真2。2014年8月撮影。※1
写真2を写真1と比べるとリニアの構造物が出来るあたりの様子が少し変化しているのがわかると思います。まだリニア関係の構造物が出来ていない写真2のほうが白くみえる家並みが右のほうに倍以上伸びています。じつは2年のあいだに河原の樹木が伐採されたからです。写真1ではルートの約半分以上が樹木で隠れる形になっていたのです。予測結果では「河畔林」が景観資源といっているのですが、実は景観資源ではないのです。昔は河原にこんなに木は生えていませんでした。下流にダムができてからといわれています。国土交通省はこれらの河畔林を駆除しています(※2)。右のほうの樹木が伐採されたというのはそういうことです(※4)。ですから、河原の樹木を景観の変化予測の要素として考えるのは問題があります。施設の手前に空き地があって、たまたま大型トラックが駐車してあって施設が見えなかったから景観は変化しないなんていう予測は成り立たないでしょう。河畔林も同じです。
「橋梁」はみえない
評価書の予測でJR東海は「鉄道施設(橋梁)を中景として視認することとなる」と書いています。橋梁は、写真2の赤い矢印より右になるはずで、矢印の位置の二つの林がなかったとしてもすぐ右には堤防があるので多分見えないでしょう。もちろん写真1では見えていません。見えているのは喬木村阿島地区を通る「高架橋」です。どういう構造物が見えているのか正確に把握できていないのに景観の変化の予測をするとはあきれます。(写真6も参照のこと)
前景は背景より常に前にある
予測では「景観資源である天竜川の水面や河畔林等を阻害することはない」と書いています。撮影地点からみて、水面と河畔林と鉄道施設はどういう順序で並んでいるでしょうか。水面、河畔林、鉄道施設という順です。鉄道施設は3つの中では一番の背景ですから「水面や河畔林等を阻害することはない」のは当たり前です。わざわざ書く必要はないです。一方、鉄道施設の背後にある水面や河畔林は隠れてみえないのですから完全にウソを書いていることになります。たぶん、誰も読まないと思って住民を甘く見ているんじゃないでしょうか。まったく馬鹿にした話です。(この項は 2014/08/27 に追記)
視点の高さ
8月24日はカヌー大会でした。見物していて意外なことに気がつきました。それが写真3。
写真3。2014年8月24日撮影。
撮影した場所は、写真1より200mほど上流の堤防の上です。リニアのルートの予定地からは3000m程度になるはずです。写真1や写真2より予定地の家並みが大きくはっきりと見えます。この写真は約90mm相当の画角で撮影しています。写真1や2は28mm相当ですから、当然レンズの焦点距離が違うからですが、85~100m程度のレンズは人が注意深く物を見ようとしたときの視角に近いといわれるので、印象としてはこのほうがぴったりきます。写真1の撮影場所では肉眼でこういう印象はありません。なぜか。たぶん視点の高さの違いだと思いました。そこで写真1の撮影位置のすぐそばの堤防の上にいってみました。
写真4。2014年8月24日撮影。
写真4は、写真1の撮影位置から反対方向をみたところです。階段の上に立て看板がたっているそばで撮影したのが写真5です。写真1より3.5mほど視点が高くなります。写真1のかわりに写真2を並べるので比べてみてください。遠方の家並みが写真5のほうがよりはっきりみえます。
写真5。2014年8月24日撮影。28mm相当画角。
写真2。2014年8月18日撮影。28mm相当画角。
同じ場所から90mm相当画角のレンズで撮影したのが写真6。
写真6。2014年8月24日撮影。90mm相当画角。(画面クリックで拡大します) ※3
ざっとですが、写真6にリニアのルートを書き込んでみました。写真1も並べます。
写真7。2014年8月24日撮影。90mm相当画角。(画面クリックで拡大します)
写真1。評価書より、2012年8月撮影。
高森町の親水公園からの眺望という意味では、JR東海の示したフォトモンタージュは適切とはいえないことが分かると思います。リニアの高架橋が非常にはっきりと視認できるのです。「視認性は低く、・・・眺望景観に与える影響はないと予測する」(評価書)ことはできません。
事業者であるJR東海が選択し示した予測地点について、準備書に基づいて意見を述べるのはもちろん必要です。しかし、各自治体は、自ら予測地点を選んで自分達の手で変化の予測をすべきだと思います。私が示した程度のものであってもよいと思いますが、今の自治体の若手の職員であれば、もっと良いものを示すことも出来ると思います。自分達の自治体がどんな景観(ラントシャフト)をもっているのかということをしっかり把握することも住民を守るということの助けになると思います。大企業や中央のいいなりでは地元の住民としてあまりに情けない話だと思いませんか。たとえば、こちらは喬木村の現在の景観(ラントシャフト)を代表する一つの視角だと思います。
(2014/08/26)
※1 写真2の赤丸のところにある変なものは、灯ろう流しの灯ろうだそうです。麦わらのわら束と桑の枝が材料です。三脚の頂点から石油を浸み込ませた布玉を吊るして8月18日の夜ながすそうです。環境対策のためにここで全部回収するということです。
※2 国土交通省の天竜川上流河川事務所のホームページの天竜川上流河川維持管理計画(PDF)に次のように書いてあります。
河道内の樹木については、洪水時における水位上昇、堤防沿いの高速流の発生等の治水上の支障とならないよう、また良好な河川環境が保全されるように、点検あるいは河川巡視等による状態把握に基づいて、適切に樹木の伐開等の維持管理を行う。
河道内の樹木は、洪水の流勢の緩和等の治水機能、河川の生態系の保全や良好な景観の形成等の重要な機能を有することがある。一方、洪水流下阻害による流下能力の低下、樹木群と堤防間の流速を増加させることによる堤防の損傷、あるいは洪水による樹木の流木化を生じさせることがある。樹木群が土砂の堆積を促進し、河積をさらに狭めてしまう場合もある。また樹木の根は、堤防、護岸等の河川管理施設に損傷を与えることがある。そのため、治水上の影響に係る対策として河道内 の樹木を伐開するものとするが、その際には樹木の有する治水上、環境上の機能を十分踏まえた上で対策する・・・(6-3 樹木の対策)
※3 写真6の説明。家並みの右端(一番手前=川沿い)は豊丘村の伴野工業団地の共栄ダンボール付近になります。中央の赤い看板はコメリ。左には天恵製菓の背後に阿島のマツザワ喬木工場も見えています。マツザワの建物は、こちらでも高架橋の高さの目安に使いました。(2014/09/17 補足)右側にある大きな白い建物は「東京スプレー」右端の壁面(妻)に「スーパーフェルトン」という文字が書かれています。
※4 右岸が伐採されたことは実際に見ていましたが、問題の場所は左岸の河原のようです。確認してみると、周辺の河原には手を入れた形跡がありました(下の写真の黄色い線で囲った部分から下流)。
赤い矢印が予測地点。
補足資料
参考に写真1の中心部の拡大画像と親水公園からルートまでの間の地図を掲載します。(2014/08/28)
写真1の中心部の拡大画像
(画面クリックで拡大)この画像は評価書本編から拡大
親水公園からルートまでの間の地図
(画面クリックで拡大)グーグルマップより
写真7と写真1の比較について補足(2014/09/02)
90mmレンズで撮影した写真7 と 28mmレンズで撮影した写真1 を比較しているのでフェアでないと思う方もいると思います。写真の大きさがサービス判=L判(89×127mm)の大きさに近くなるようにブラウザで調整します(11.6インチ液晶なら120%で 88×132mm)。鉄道施設の長さは写真7では 82mm、写真1では30mm(河原の木に隠れた部分も含む)です。『自然環境アセスメント技術マニュアル』によれば、フォトモンタージュは四つ切程度に引き伸ばして見るのがよいとされています。四つ切版は、254 × 305mmです。サービス判を2.6倍するとだいたい四つ切判と同じになるはずです。画面上のリニア施設の長さは 82mm と 30mmですから、82÷30≒2.7 となります。実は、写真7 は写真1を四つ切に伸ばして中心部分を見ているのと同じなのです。評価書の提示の仕方は画像が小さすぎるのです。(参考:『自然環境アセスメント技術マニュアル』、広角レンズの遠近感描写のメカニズム)
補足 2014/09/06
下の写真は、評価書の「人と自然の触れ合いの場」に使われている写真です。
A と C は写真3の撮影位置の付近で撮影されていて川面からの高さは同じです。B は写真1と同じ高さ、D は写真5とほぼ同じ場所で撮影されているはずです。つまり、JR東海さんはいろいろな視点があることが分かっていて、写真1 の視点を選んだわけです。