深度の深いトンネル部分は中心線測量をしない
12月10日上郷公民館の事業説明会
12月10日、飯田市の上郷公民館でJR東海の地区別の事業説明会がありました。内容は、市町村別の事業説明会と基本的には同じでした。説明会の前と後に自治会からの挨拶があった点、原則として質問は上郷地域の住民だけという点でした。それと散開時にぱらぱらとですが拍手があったことです。
深度の深いトンネル部分は中心線測量をしない
質問に対する回答のなかで気になる点がありました。
質問:(1)トンネル部についての質問。長野県駅から段丘のところをトンネルが入っていくが、トンネルへ入るところの地上面からの深さ、それから黒田非常口を経て松川橋梁までの間の深度、先ほど地上権の説明もあったが、40mという話も聞くが、実際のところどうなのか。
(2)8月、9月ころから上郷の黒田地籍で道路上にマーカーがしてあったがそれはトンネルの最大幅を示すものなのか、中心線を決めるというような中で打たれたマーカーなのか。
回答:(1)(土井担当課長)(路線縦断図を示して)こちらは工事実施計画書にある路線縦断図。飯田線から西側のところ正確な位置は測量をしないとまだわからないが、(飯田線の西側のすぐそばから)この付近から西側については40m〜50m以上の土被りがある。(松川橋梁より西の)中央アルプストンネルはかなり深いトンネルになる。完全に土被りの深いところについては、中心線測量は今のところ予定していない。
(2)(太田垣)リニアとは関係ないマーカーだと思う。
30mより深い部分のトンネルについて区分地上権を設定しないという意味がわかったような気がします。中心線測量をしないから誰の土地の下を通過するか確定できないので区分地上権の設定のしようがないということなのでしょう。トンネルは別々の複数の坑口から掘り進めて、見通しの利かない地中でもちゃんとつながります。地上で中心線が出せないなんてことがあるのでしょうか。
飯田周辺は大深度地下の利用の特例の対象地域ではないので、他人の土地の地下に工作物を作るには深さ(土被り)の多少に関係なく区分地上権を設定しなくてはならないはずで、当然として地代を払うとか補償しなくてはならないはず。飯田線から松川橋梁までの間は土被りは大きいですが、地上はほとんどが住宅、商業地か農地です。山林ではない。地下の工作物に障害を及ぼすような建築や井戸などの計画が今後絶対にないとはいえない地域です。
中心線測量をしない理由は何でしょうか。区分地上権を設定しないつもりだからでしょうか。卵が先か鶏が先か。
このリニア計画は土地の利用の法律的な面で国民的な合意ができていないところを上手く突いているようなところがあるような気がします。さすが葛西名誉会長が率いるJR東海です。
駅はもっと人家のすくない場所へ
質問のなかに、上郷の北条は人家が密集したところで、駅用地だけで25戸ほどが立ち退かなくてはならない、周辺整備をすればさらに多くの戸数が立ち退きになると思われるが、駅の位置の設定が技術的理由によるというが、保守基地のできる住宅の少ない農地の多い場所にできなかったのか、というものがありました。
保守基地のできる周辺にも立ち退きになる住宅が20戸ほどはあるはずで、どちらも、お互い様ということを考えるなら、こんなことはいえないだろうなと思いました。それは、大鹿なんか人口1000人の小さな村だから、迷惑をかけてもかまわない、オラー知らんというのにも通じることだと思います。飯田市民が全部というわけじゃありませんが、飯田市民のこういう意見は自分勝手すぎるといいたいですね。
一番わかりやすくて納得できる解決策はリニアに来てもらわないということです。地元にとって利益はないのですから、そういう判断が一番です。ごく一部の好事家は欲しいかも知れないけれど、大半のひとは必要としていないリニアです。あると便利かも知れないが、なくても困らない。あると迷惑だが、なければおかげさま。
トンネルは地震に強い?
東海地震の関連でトンネルの地震に対する安全性について質問がありました。
JR東海の担当課長は、断層との交差部分については、ロックボルトの数を増やしたり、コンクリート自体の厚さを増したり、鉄筋を入れたり、路盤(線路の下の部分)にはインバート工を入れたりして補強すると答えています。普通はトンネルは側面と上部は馬蹄形のアーチで持たせているのですが下部は掘ったそのままに線路や舗装をのせるだけです。インバート工というのは、下部に逆向きのアーチ状の構造物を作る工法だそうです。地質が軟弱な場合はこれで下部の圧力からトンネル空間を守るわけです。
さらに、JR東海の環境保全所長が補足説明をしたのですが、その中で中越沖地震でも上越新幹線のトンネルは多少覆工コンクリートが落下した程度で、トンネルは安全だったと説明しました。
このとき上越新幹線は脱線事故を起こしましたが、脱線現場より約3分前に通過した魚沼トンネルの内部でコンクリートが落下していて、これに列車が衝突したら大惨事になっていたはずです。当時の毎日新聞の記事:
95年の阪神大震災でも大きな被害がなく、地震に強いといわれる「山岳トンネル」で被害が出たことで、全国のトンネルの地震対策を根本的に見直さなければならない可能性も出てきた。・・・被害は長岡側入り口から約6キロ強の地点で幅200メートルにわたっていた。レールの土台の路盤が数十センチ盛り上がり、天井から縦横1メートル以上のコンクリートの塊が落下。側壁も崩れ落ちていた。・・・脱線した「とき325号」はトンネルの破損現場を、揺れを受ける約3分前に通っており、地震の発生時間によっては大惨事になる可能性もあった。(『毎日新聞』2004年10月25日)
土木学会の報告書では:
魚沼トンネル(延長8625m)においては,トンネル中間部の3 箇所で被害が発生したが,このうち195km080m 付近の被害が顕著であり,覆工コンクリートアーチ部の崩落(延長約5m),覆工コンクリートのひび割れ,側壁の押し出し,インバートコンクリートのひび割れと,これに伴う路盤コンクリートの隆起(約250mm),中 央通路側壁傾斜等の被害が発生した(土木学会 トンネル工学委員会 新潟県中越地震特別小委員会 報 告 書、p9)
この報告書は「従来から耐震性に富むと考えられてきたトンネル構造物においても特殊な条件が重なった場合に被害が発生したことを受け,トンネル工学委員会では改訂中のトンネル標準示方書に代表される活動中の分科会,部会への反映方針を検討する目的で新潟県中越地震特別小委員会を時限特別委員会として設立し,早急な対応を図った,」といっており、単純にトンネルは地震に強いなどとはいえないことが中越地震でわかったというのが専門家の考え方のように思います。魚沼トンネルではインバート工がひび割れして線路ののっている路盤コンクリートが盛り上がることまで起きていたのですから、このJR東海の環境保全所長の説明はきわめて「ウソ」に近いといえると思います。
(2014/12/11、2014/12/12 補足)
補足 2015/01/12
『南信州』1月11日付け1面トップに「JR東海 リニア中心線測量着手へ 用地取得に向け、明かり区間で」という記事が掲載されました。そのなかで中心線測量を実施する範囲についてつぎのように書いています。
トンネル部は区分地上権の設定を予定している土被り5〜30メートルの範囲でも行うが、飯伊(飯田市と下伊那郡の意味)ではほぼ全域にわたる、それ以上に深度の深いトンネル部分は行わない。
このページの話題には直接関係ありませんがこの記事によれば、中心線測量の実施についてJR東海と地元の住民の認識が食い違っているようです。
JR東海は、昨年11〜12月に開いた沿線の自治体別、自治会別の事業説明会などで、住民から中心線測量に関する同意を得ており、年末には沢田尚夫中央新幹線建設部担当部長が、年明けから着手する意向を示していた。
地権者に説明した上で着手するが、飯田市上郷飯沼北条地区や喬木村阿島の住民らによると、具体的な連絡はまだないという。
JR東海は事業説明会のなかで中心線測量をしたいので同意願いますとは言っていないはずです。しかし、JR東海は勝手に「住民から中心線測量に関する同意を得て」いると考えているようです。住民の意思とは自治会の意見なのか自治体の意見なのかといった、住民の同意とは具体的に何なのかもすべての地域で明確になっているわけでもない。地権者の同意が必要なのは当たり前でしょうが、個々の地権者の考えが地元住民や国民の考えを代表しているわけでもありません。
まだ、リニアの事業を推進する合理性について十分に地元住民や国民の理解が得られている段階ではないことは明らかです。中心線測量の段階ではないことは明らかです。