リニア新幹線と景観
対岸からみた喬木村の風景
リニア新幹線計画が環境に与える影響の調査、環境アセスメントでは景観に与える影響も調査されました。
長野県内では調査地点として18ヶ所が選ばれました。どこを調べるかについてはJR東海と有識者が決めています。2種類の場所、景色の良い場所(主要な眺望点)、日常生活の中で目にする風景(日常的な視点場)があります。
影響の評価のやり方として、現在の風景の写真と、完成後の風景と構造物を重ね合わせた写真(フォトモンタージュ)を並べて示す方法が使われました。準備書、評価書の大きさはA4です。写真のサイズはサービス判程度のものでした。
評価書 |
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以下、16ヶ所のフォトモンタージュ(構造物を合成した写真)を示します。
豊丘村の林公園から
喬木村アルプスの丘公園から(手前は阿島)
高森町、親水公園 高森南小学校 高森、松岡城址 高森、月夜平展望台 飯田市、妙琴原 風越山(かざこしやま)中腹 虚空蔵山山頂 喬木村阿島、県道18号(竜東線) 豊丘村、小園こども広場 喬木村、竜東一貫道路 天竜川右岸堤防(座光寺) 飯田市北部農免道路(座光寺) 飯田市座光寺、中河原 飯田市座光寺、県道251号線
去年秋の準備書説明会で、ある参加者は質問の中で次のようにいっています。
「イメージ図等からみて、非常に遠くの人たちは大変景観もいいじゃないか、というような、上手な作り方をしておるかと思いますが、そのほんと直接、工事によってかかわる近所の人たちについては非常に、私も、8月29日の、丁度、実験線の延長のときに、地元へいってみせていただいたんですが、やはり、付近の皆さんは、集落が分断ということ、イメージはありませんでしたけれども、やはりその構造物等で非常に哀れといいますか、気の毒なそんな姿をみてまいりました。」
JR東海の示したフォトモンタージュ写真を拡大して見ると、高架橋などリニアの施設が元の大きさで見るのとは違って、随分大きく見える印象があります。このことは、写真の見え方の原理からいって当然のことです。
喬木村、アルプスの丘公園から見た阿島地区
喬木村阿島の県道18号線
豊丘村、小園こども広場
喬木村、竜東一貫道路
先の説明会での質問者のいうように構造物は遠目で見るより実際は大きな圧迫感があるのはあたりまえだと思います。飯田下伊那でいえば、阿智村駒場の中央自動車道の高架部分と橋梁のある景観が、新たにできるということです。
18か所のうちフォトモンタージュを示さなかった2ヶ所については・・・
大西公園から赤石岳方向を見た景観について、JR東海はリニアの変電施設が上蔵地区にできるが、手前の山に隠れて見えないから景観に影響は与えないという評価をしました。この評価については大鹿村の人々はあきれた様子でした。
小渋川にそって少し東に行くと、変電所予定地の全体と赤石岳、小渋川の谷、赤なぎの末端部など独特の景観が見渡せます。変電所は誰でもが簡単にいける場所から見えるのです。
赤石岳公園線も景観の影響予測の対象になっています。日向休という場所は視界が開けて、景色の良い場所です。ここについて、JR東海は、工事車両が通過するとしても景色を眺めている人の背後を通ることになるので影響はないといっています。背後を残土を積んだダンプカーが頻繁に通る状態で安心して景色を眺められるとは思えません。
約20箇所のリニア関連施設はどれも目に付くはずです。また大きな構造物はいろいろな場所から見えるはずです。しかし、環境影響評価で調べたのは18か所だけでした。
たとえば、高森と座光寺の境付近の堤防から対岸の喬木村の阿島、小川の町並みと村全体が見えます。環境影響評価ではこの場所は検討していません。リニアができると、町並みの部分の全体がルートの後に隠れることになり景観は大いに変化します。
喬木村の阿島、小川地区の町並みが見えます
リニアが出来ると
全部に防音フードがかかる場合
調査された地点についても、カメラの位置、レンズの画角が違うとまったく印象が変ってきます。
たとえば、下市田の親水公園は画面左右の範囲が65度(「画角」)になる「28mmレンズ」で天竜の水面に近い高さから撮影されています。橋梁の存在はほとんどわかりません。
堤防の上に立って、人間が注意して見るときの視角に近い左右の範囲が約23度になる「90mmレンズ」で撮影した写真を元にしたフォトモンタージュだと存在感が非常にはっきするはずです。
このように、16ヶ所のフォトモンタージュで示された景観の変化予測については、その場所が飯田下伊那の景観の全体を代表するものでもないし、調査した同じ場所でも写真の撮り方で印象がかなり違ってきます。
フォトモンタージュの作成のルール
そういうことがあるので、環境省が推薦する『自然環境アセスメント技術マニュアル』では環境影響評価で提示する写真については「画角」を明記すべきであるといっています。
JR東海はこのマニュアルにしたがったといっています。しかし、全地域とも、「準備書」段階では「画角」を記載していませんでした。本年4月の「評価書」になると、長野県以外の地区は「画角」を記載しました。長野県分は8月の「補正版評価書」になってようやく「画角」を記載しました。しかし、この長野県分の「画角」を含む撮影条件のデータは実は実際とはまったく違っていたのでした。JR東海は「補正版評価書」の「画角」と撮影機種(カメラの種類)を含む撮影条件の記述を16ヶ所にわたって訂正しました。「親水公園」と「妙琴原」の訂正前と後を参考に示しました。
「35mm換算○○mm」という書き方は画面をトリミングせずに使った場合に成り立ちます。JR東海は左右で25パーセント(左12.5+右12.5パーセント)もトリミングしていますから、「35mm換算○○mm」という書き方は意味がありません。画角をレンズの焦点距離で示すつもりならカットすべきではありません。これも、アセスメント・マニュアルの要点を押さえていないからだと思います。
このような、単純な間違いに長い間気づかなかったわけです。おそらく実際にフォトモンタージュを作成したのはアセスメント業者だと思います。景観の影響評価の作業内容を調査を依頼したJR東海自身がきちんと把握していなかった結果だと推定できます。
「補正版評価書」の縦覧場所での縦覧期間は9月29日に終わっていたのですが、JR東海がホームページにある「PDFファイル」を訂正をしたのは、10月2日でした。
ホームページにある「PDFファイル」を訂正しても、訂正したという事実はその画面を見ただけではわかりません。電子書類は見た目では修整の痕がまったく残らないからです。こういう重要な書類は、たとえ誤字脱字であっても訂正には、「正誤表」で対応するのが普通だと思います。
国土交通省の担当者はこのような部分ではこういう修整方法でも差し支えないといっていましたが、環境省の担当者は正誤表が普通だろうといっていました。
JR東海はもちろん、関係自治体や国土交通省や長野県には連絡したといっていますが、ある自治体で確かめたところそのような訂正があったことを明確に把握できていない様子でした。国土交通省も即座に訂正があったといえる状態ではありませんでした。
◇ JR東海の環境対策への取り組みは疑問
リニア新幹線の環境アセスメントについては希少生物、水、騒音、電磁波、残土などいろいろな分野で調査が適切でないという批判があります。景観については、世間一般に重視していないからという面もを差し引いても、JR東海の態度は杜撰としかいえません。他の分野でもこうしたことがなかったといえるかどうかはわかりません。
14日行われた飯田市の事業説明会において韓国の平昌で行われた生物多様性会議に参加した若者が質問をしました。世界ではこういう会議に企業として参加している例もあるが、そういうことを知っているかという問いに対して、JR東海は知らないと答えていました。JR東海という会社の環境への取り組みの本気の度合いの問題です。これでは、JR東海の環境保全に注意して事業を進めるという言葉に全幅の信頼を寄せることはできないと思います。
景観というと、たんなる景色、風景の問題で重要ではないと思いがちですが、守るべきものということは法律でも明確にされているほど重要なものなのだと思います。環境アセスメントに「景観」の項目があるのがその証拠です。景観の問題はわれわれ住民でも「わかる」問題だと思います。いくらデザインを工夫したところで、高さが20mもある橋脚はたんなるコンクリートの塊だというような、抵抗感を表現した言葉は意外に重要なのではないかと思います。
◇ 不便は人の来ない理由にならない
飯田市が2013年12月開いたリニア関連のイベントで、東京から招いた講師は、「不便なことが人が来ない理由にはならない」といいました。優れた自然環境や歴史環境が残されているから来る人々がいるとすれば、リニアで環境が破壊が進めば、元も子もなくす状態になるのではないかと思います。
鬼面山
≪ おしまい ≫
2014年11月15~16日に、高森町まるごと収穫祭・文化祭で高森リニア学習会が展示したスライドをウェブ版にしました。