中電の新設変電所 〜 JR東海がまたアセスメント逃れ

違法性がないにしても馬鹿にした話

 3日の『南信州』、『信毎』、『中日』は豊丘村にリニア関連で変電所が出来ると伝えました。中部電力がリニア新幹線に電力を供給するために豊丘村の佐原地区に設置するもので、高圧線の南信幹線から大鹿村上蔵と豊丘村柏原のJR東海の電力変換所に送電するための変電所です。2日の大鹿村での説明会でも、中部電力は新設変電所から15万4千ボルト、延長11kmの送電線で送電すると説明していました。ただし、大鹿村での説明会ですから豊丘村のどこにという説明はなかったと記憶しています。

 『南信州』はリニア中央新幹線の建設で、電力を供給する中部電力(中電)が豊丘村に変電所の建設を計画していることが2日分かったと書いています。記事によれば、中電は先月中旬から地元を対象にした説明会を順次開いていたそうです。この変電所で近くを通る50万ボルトの「南信幹線」の電気を15万4千ボルトに落として大鹿の上蔵と豊丘の柏原のJR東海の電力変換所に送電する計画。位置は言われてみれば実に簡単な話で、上蔵(11km)と柏原(4km)を結ぶ直線と「南信幹線」の交わる地点ということなのでしょう。


(画面をクリックすると拡大)

 『南信州』は2日の豊丘村議会のあいさつで下平村長は「南信幹線から電気をリニアに配給するための変電所が大規模に必要との認識は持ち合わせていなかった」と語り、その上で当初から懸念される問題と、突然発生する新たな問題を村としてきっちり対応し「村民生活や自然環境への影響を可能な限り軽減していく」と述べたそうです。

 トンネル廃土の処理方法の問題が環境アセスメントの対象になっていなかったことは前々から指摘されているところです。その残土の受け入れに自ら手をあげるような自治体の首長らしい迂闊さをよく示していると思います。リニアは電気で走るのです。

 上蔵や柏原の「変電所」は「変電所」ではありません。JR東海だって正式には電力変換所といっています。電力会社から送られてきた交流電気を直流に直して、さらにそれを周波数と電圧の変化する三相交流に変換して出力する設備です。だから電源回路は別に必要。電圧を変えて整流するだけの山吹や伊那八幡にある変電所ともちがうし、中電の変電所とも働きがぜんぜんちがいます。しかし、一般的には「変電所」といっています。この電力変換設備は普通の三相交流電源では容量が間に合わないので別に高圧線で送電しなくてはならないわけです。

 大鹿村の2日の説明会では送電線の景観への影響について質問が出ていましたが、鳥類の棲息への影響を心配する声もありました。しかし、中電の工程表を見る限り、環境影響調査をする予定はないようです。トンネル廃土を建設資材といいくるめてアセス逃れをしたも同然なのですが、送電線と付随する変電所も環境に多大の影響を生じるのですから、これもアセス逃れといわれても仕方ないと思います。『南信州』によればすでに中電は動き始めているのです。

 リニアを活かして、悪影響を極力抑えるなどという甘い考えでいる場合ではないと思います。悪影響をなくすためリニアはやめとけというべきです。

 さて『信毎』によれば豊丘村にこの「変電所」の計画が知らされたのは5月11日。村長は「住民への影響を極力減らすためにも、リニアに関して迅速な情報共有をできるようにしてほしい」といっているようです。また一方、JR東海は中電のこの「変電所」について「鉄道施設としての設備ではなく、電力の供給方法やそれに伴う設備に関しては説明できる立場にない」といっているようです。つまり、住民を代表し、住民を守るべき立場の首長、公務員がリニアがどのようなものか自主的に学び正確な知識を持って臨んで、常に問う気持ちを持っていないからこういうことが起きるのではないか。

 JR東海に関していえば、廃土問題にしても送電線と変電所の問題にしても明らかにアセスメント逃れといえるもので、こんな計画は少なくとも一時中止させなくてはならないと思います。区分地上権の設定をサボってることも問題にするべきだと思います。これからも、ほかに何が出てくるか分かりません。

 規模の問題ですが新聞は8〜9万平方メートルとしています。ヘクタールに直すと、10,000m2が1ヘクタールですから、8〜9ヘクタールです。柏原の電力変換設備が約4ヘクタールですからなんと倍の広さ。景観資源である竜東の河岸段丘にもう2つ「変電所」ができるという事実、そして路線は稜線に沿ったものではなく斜に横切るはず。リニアは地中を走りますが、その代わりにリニアを走らせるための送電線が伊那山地の地上部を15kmに渡って張られて、8ヘクタール以上の変電所もできる。

※ 送電線や変電所についてはアセスメントの対象にはなっていないようです。しかし、変電所については、予定地付近は明らかに「山」ですから、平坦な土地を必要とするので切り土や盛土工事を行う可能性が高く、災害対策の面でも問題を生じる可能性もあると思います。

中部電力飯田変電所(座光寺中河原)は約15,430m2

(2015/06/03)

 補足すると、豊丘村内のリニア関連の地上にできる施設が占める面積は、中電の工事する分を入れると本来の計画の約2倍になるわけです。豊丘村の住民という立場からすれば、新設の変電所も送電線もリニア計画のアセスメントに含まれて当然のはす。大鹿も事情は同じだと思います。大鹿では以前から住民によって上蔵の変電所(小渋川右岸)まで引っ張る送電線の景観への悪影響について指摘がされてきています。

 かって風越山の山麓に送電線が引かれるとき景観問題が起きました。新設変電所は豊丘村の日影山周辺の上佐原地区になるようです。日影山の南側にかって水田が耕作されていたやや平坦な場所がある(※1)そうなのでおそらくそのあたりに変電所はできると思います。この場所は天竜川沿いの谷底からは見えないと思いますが、竜西の上段では見えると思います。日影山の山頂の送電線『南信幹線』やその西側を走る『南信泰阜線』の鉄塔は天竜川沿いでも見えるので、新設の送電線は見えるはずです。


画面中央の細い道が坂島峠への道。坂島峠の左手に平坦部があるようです。中央に見える鉄塔は日影山山頂の鉄塔の南隣の鉄塔。


豊丘村長沢から見た日影山方面。中央の鉄塔は日影山の山頂付近のものだと思います。「かって水田が耕作されていた・・・」という話はこの写真を撮影しているときに通りかかったお爺さんから聞きました。

※1 国土地理院の2万5千分の一地図には水田の記号がありますが、googleマップの航空写真でも長細く水田の痕跡のようなものが見えます。


googleマップ

(2015/06/05)

参考

 変電所の役割や種類について中部電力が解説しているページ。上佐原に計画されているのは種類としては「超高圧変電所」にあてはまるようです。

 超電導リニアモーターカーを研究開発している鉄道総合技術研究所が編集した『ここまで来た! 超電導リニアモーターカー』(交通新聞社)は「電力変換所は、電力会社からの三相交流電源をいちど直流電力に変換するコンバーターと、この直流を車両の速度に応じた周波数の三相交流に変換するためのインバーターで構成される」(p93)と説明しています。車両が走行するガイドウェイの推進コイルには車両の速度に応じた電圧と周波数の電気を流さなければなりません。このように常に変化する電力はパルス幅変調方式(PWM制御)により作り出しているそうですが、これは直流を一種のスイッチで細切れに切り刻んで交流的な電力として出力する方式(p94)。電力会社の変電所は交流の電圧を変えるだけです。飯田線の山吹や伊那八幡の変電所は中電の供給する交流を直流の1500ボルトに変換するだけです。リニアの「変電所(電力変換所)」は従来の「変電所」とは随分違っています。

パルス幅変調制御についてはやや専門的ですが、日本大百科全書(ニッポニカ)に解説があります。

(2015/06/06)

新聞の書いている豊丘村長の言動からは、村長自身がそんなこと知らなかった、驚いているという印象を受けますが、それは村長のページを見ても分かります。


画面クリックで拡大

(2015/06/07)

(補足 2015/06/19) 豊丘村6月議会の冒頭の下平村長のあいさつが豊丘村のHPにありました。

 平成27年はいよいよリニアの測量も始まり、中心線の杭も打たれ始めました。また中部電力からの変電所建設の計画並びに鉄塔の建設などの申し入れが、村を始め関係地区へ始まっています。
 村としましてもJR東海がリニアに電力を供給するための変電所を大柏に建設したいむねの情報は共有していたわけですが、中電が南信幹線から電気をリニアに配給するための変電所が大規模に必要だという認識は持ち合わせていませんでした。
 落ち着いて考えてみれば、当たり前のことかもしれませんが、誰もが最初から気づいていたわけではありません。
 これに似たような様々な問題点が工事の進捗によって、具体的な問題として次ぎつぎと起こってくることと思われます。
 当初から懸念される問題と、突然発生してくる新たな問題を、村当局として、しっかりとした対応を行い、村民生活、自然環境に与える影響を可能な限り軽減していかなくてはなりません。
 政府に於いては、日本の人口減の最大の原因を東京をはじめとした、都市部への人口、特に若い人たちの一極集中にあるとし、地方に雇用を創出し、住みやすく、豊かで、活力のある田舎を実現することによって、日本再生を図ろうとしています。
 私たちが住む伊那谷、豊丘村は、リニア中央新幹線の開業や、三遠南信道の開通により、まさに地方創生のフロントランナーとなるべく、積極的にこの地域の可能性を信じ、豊かで活力のある豊丘村を追い求めて行かなくてはなりません。

(補足 2015/06/19) 「東濃リニア通信」(6月18日)に恵那市議会で配布されたリニア向けの変電所と送電線の中電の資料が掲載されています。恵那市に計画中の変電所は11〜12ヘクタールで、変電所の「イメージ」の写真もあります。ただし、写真で灰色(砂利かコンクリート)の平坦な部分は11ヘクタールもないようなので周囲の山林部分も含まれると思います。南信変電所(超高圧、中沢)は灰色の部分が約27900平米。東部変電所(豊田市)は約44200平米。関連 ⇒ 日本共産党恵那市議団


(2015/07/15) 覚えとして

南信変電所は駒ケ根市に位置し、設備は、主要変圧器(500/154kV 400MVA)が2台、送電線は500kV送電線4回線、154kV送電線4回線で,調相設備として電力用コンデンサ(70kV 50MVA)が4群設置される予定です。(「伊那谷で建設進む南信変電所」(J.IEE Japan,Vol.117,No .1、p50))