4mの緩衝帯は狭すぎる 〜メトロリンクの衝突脱線事故
これは今年の2月25日にアメリカ、カリフォルニア州のベンチュラ郡のオクスナードという場所で起きた脱線事故。右上に踏み切りが見えています。
事故の概要。画面の右方から走ってきたトラックが前方の交差点と間違えて右折し線路上をしばらく走って停止。そこへ5両編成のメトロリンクの通勤列車が衝突しました。列車の運転助手が死亡、負傷者が約30名。この列車は機関車を最後尾にして客車4両を押して走っていました。先頭の客車にも運転席があります。先頭車は写真では一番右に進行方向と反対向きになって横倒しになっています。何両目かは分かりませんが画面の左に横向きになっている客車が見えます。一部が道路にかかっています。線路脇の地面に車輪の痕が残っています。
客車の長さは約25mだと思います。左側の客車は衝突のはずみで横向きになったのですが、線路脇の空き地の中にだいたい納まっています。右側の先頭車は車輪の痕を見ると一度は横向きになったことが分かります。やはりだいたい空き地の中で済んでいたようです。塀が一部なくなっているのはこの先頭車が壊したのかも知れません。
この事故現場の前後を googleマップ の航空写真で見ると、線路の左右はだいたいこんなふうに空き地になっています。この事故だけでなく、鉄道事故では車両が横向きになることがあります。簡単に考えただけでも線路の脇は1両の長さ、日本なら片側で約20m程度は緩衝帯として必要なのではないかと思います。メトロリンクの線路の左右に空き地が確保してあるのはそういう意味なのかなと思いました。
事故現場の地図 ⇒ google マップ
リニア新幹線の車両の長さは約26m。ガイドウェイがあったとしても最低でも線路の脇に26mの緩衝帯を確保する必要があるのではないかと思いました。リニアの計画では4mです。JR東海は山梨実験線での実績から4mでも大丈夫といっています。とはいっても衝突実験をしたという話は聞いていません。
JR西の宝塚の事故では、現場はカーブではあったのですが、線路脇に鉄筋コンクリート造りのマンションがありました。メトロリンクの事故では衝突時のスピードは約90km/hだそうです。多少スピードが違いますが、また乗客数も違うでしょうが、死傷者数が随分違うと思います。ただし、メトロリンクの車両は衝突事故は必ず起こる前提で設計されているらしいのでその点も割り引くべきかとは思います。
リニアは時速500kmですから、どう考えても緩衝帯が4mというのは理解できません。実験線では防音フードに積もった雪が落下しただけで4mはなれた場所の自動車を破損したと聞いています。ドイツより狭いと批判を受けた上海リニアでも片側20m以上だったはず。今の計画内容では、リニアは乗客にたいする安全も完全かどうかもわかりませんが、沿線の住民や施設に対しての安全は考えられていないと思います。
十分に安全性が確保できる、たとえば片側30mの緩衝地帯を地上部分全部に設けるとすれば、コストは当然上昇するでしょうし広大な面積も必要です。新幹線や在来線や私鉄でも本来必要なのに緩衝帯が不十分なところがあるはず。日本は国土が狭いのですから、移動の高速化のために、もうこれ以上土地を割く意味はないと思います。リニアは土地の有効利用とはいえません。ゆえにリニアは建設すべきではない。現状の鉄道を有効活用すれば十分だと思います。
参考ページ
- "Metrolink Crash: Truck Driver Arrested on Felony Hit and Run Charge",ABC News,Feb 24, 2015, 8:29 PM ET
- "Metrolink train hits truck in Oxnard; truck's driver arrested",Ventura County STAR, Feb 24, 2015
- Metrolink (Southern California)
- Bombardier BiLevel Coach
(2015/06/24)
(補足 2015/06/26-06/27)
日本では
○下の画像は 福知山線脱線事故現場の現在のようす。googleマップの航空写真です。脱線した列車が衝突したマンションと線路の間隔は5m程度しかありません。
○次は、山梨県笛吹市八代のリニア実験線。防音フードがない高架区間です。住宅と高架橋の間はJR東海のいっている通り4m。
○名古屋市南区の新幹線(右)と東海道本線(左)の沿線のようす。
ドイツ・上海のリニア
○ドイツ、ラーテンのトランスラピッド実験線。最初に表示される画面は住宅街に一番近いところで、一番近いところでも100m程度は離れています。路線全体をたどってみると、近くに住宅と思われる建物がある場所が数箇所あります。それでも最低でも20mは離れています。それ以外の場所はほとんど全体が耕作地か林です。
○上海のリニアの緩衝帯は22.5m ⇒ サーチナ:上海市はリニア反対住民運動にどう対処する?(2008/01/23)
(補足 2015/07/03)
下の写真は、2015年5月12日に米ペンシルバニア州フィラデルフィアで起きた、アムトラックの旅客列車の脱線事故の現場(googleマップ)。メトロリンクとは逆に機関車が牽引する状態で走っていました。矢印が進行方向。ざっといえば、速度超過でカーブを通過したので遠心力で脱線した事故です。事故原因の詳細はともかくとして、列車事故では車両が横向きになる場合があるという例。死者8名、負傷200名以上で、JR西日本の福知山線脱線事故(死者107、負傷562)と似た事故ですが、死者の数が大きく違います。鉄道の周囲にはできるだけ大きな緩衝帯を設けるほうが乗客にとっても沿線住民にとっても利益があるはず。