自治体首長の住民にたいする責任は重い

 飯田下伊那は太平洋戦争では空襲など直接的な被害は受けませんでした。しかし、全国各地と同様に兵士を送り出し戦死者も多数あったほかに、他地方に比べ非常に多数の住民を満蒙開拓に送り出しました。そんなことから、今参議院で審議中の戦争法案に対して危惧し反対する声も強いと思います。9日の飯田駅前の反対集会でも満蒙開拓に言及して反対の意見を述べた方がいました。

 『中日新聞』は8月8日に「移民拒否 勇気学べ 信念の村長 長野で脚光」という見だしの記事を掲載しました。現在は阿南町ですが、当時の大下条村の村長の佐々木忠綱氏が、現地視察の結果、実態は開拓ではなく事実上日本人が現地の人々の土地を奪って配分している姿を見て疑問をもち、分村移民をしなかったので周辺の他村に比べ犠牲者がほとんどなかったという話です(参考:『信毎』社説「敗戦の日に 『動員の構造』に抗する」、2013年8月15日)。

 千葉商科大学の橋山禮治郎さんは、リニア計画は失敗すると指摘しています。橋山禮治郎さんは日本開発銀行調査部長の経験があります。飯田市長の牧野光朗氏も日本開発銀行の出身で富山事務所調査役、企画部調査役、フランクフルト首席駐在員(事務所長)など歴任されています。つまり、牧野さんも、橋山さん同様に、リニア計画についてその成否を見極める見識があるのではないかと思います。

 ところが、このお二人は表向きでは、リニア計画について全く逆の評価をしているように思います。

 牧野光朗市長がリニア計画の基本的な欠陥を知りながら推進の立場をとっているとすれば、私はこれは非常に大きな問題だと思います。

 しかし、ひょっとすると橋山さんの指摘には、論理や事実認識において間違ったところがあって、橋山さんが誤解してリニアに否定的な見解を示しているのかも知れません。しかし、橋山さんの指摘をきちんと批判している意見はいまのところ見当たりません。

 南信のリニア建設促進期成同盟会のトップでもある牧野市長は、飯田市民、下伊那住民にたいして、橋山さんの指摘について具体的に批判するか、リニア計画はそもそも無謀すぎる計画で進めるべきものでないと認めるかして、市民、住民の不安を払拭する義務があると思います。

 内心では事業が失敗すると思いつつ、リニアの推進に努めているとすれば、それは飯田市民に対する背任行為ではないかと思います。リニアによって、移転を余儀なくされる住民も多数います。環境悪化にさらされる周辺住民も多数います。工事中の環境悪化や観光業への影響も心配です。犠牲は必ずあるのです。

 いまのところ、戦前の佐々木村長の在任した全体主義の時代の社会的、政治的な環境とは違います。憲法により、本来は、地方自治体の発言権も強くなっているはず。リニアにノーといえるはず。

 「考えない」、「議論しない」で済む時代ではない。あるいは住民、国民に「考えさせない」、「議論させない」で済む時代でもない。なぜ、牧野市長は正々堂々と橋山氏の指摘を批判しないのか?


 南信のリニア建設促進期成同盟会というリンクの説明をします。飯田商工会議所の地域事業というページの「リニア中央エクスプレス」という項目の "[関連サイト]" の「リニア中央エクスプレス建設促進期成同盟会」です。このアドレス(URL)のページを Wayback で調べると、2011年8月8日はリニア関連の情報があります。しかし、2013年4月13日になると「バイク買取で絶対得する情報」に変っています。それでも飯田商工会議所はこれをリニア関連情報としてリンクしているのです。リニア推進側は何についても不注意、無責任。

(2015/08/11)

 ここに書いたようなこと、市長の内心にグサリと刺さるようなことを言わなければというと、商工会議所の人たちとか、周囲がウルサイから市長は本当のことが言えないんだと、だからそんなことを言っては気の毒だと、市長に生ぬるい思いやりを示す方々がいます。そんねに遠慮する必要はないと思います。リニアの立退き問題がもとで健康を害した人がいるんですから。

(2015/08/24)