リニアに運転士が乗らない理由
リニアモーターカーは普通のくるくる回るモーターを開いたものと説明されます(もう少し正確にいうと交流誘導電動機または交流同期電動機を開いて引き延ばしたもの)。下の写真は山梨県立リニア見学センターにある説明用の展示です。
ガラスが光ってよくわからない部分もあるので図解すると・・・
普通のモーターはケース側についているコイルに電流を流しています。モーターは台車に固定してあって歯車で車輪を回します。台車の上に車体が載っていて、運転士も乗客も車体に乗っています。モーターに流す電流の量を調整して速度を変えることができます。止まるときにはブレーキを使います。それらは運転士の仕事です。
見学センターの展示を逆に考えて、リニアモーターを丸めたのが普通のモーターと考えると。運転士も乗客もモーターの中でくるくる回っていることになります。運転士は何もできません。だから運転士は乗りません。
『海底二万里』を書いたフランスの小説家ジュール・ベルヌが『月世界旅行』という本を書いています。非常に大きな大砲で中に人間ののった砲弾を月に向けて発射して月まで行くという話です。実際にそんなことをしたら砲弾の中の人間は死んでしまいます。現在の宇宙ロケットは逆に大砲に人間が乗って、砲弾を次々に発射しながら反動で進むような仕組みです。
リニア新幹線は、大砲の砲弾の中に乗って打ち出されるようなもの。モーターの回転部分に乗せられているようなもの。私はそんな乗り物には乗りたくありません。
リニア新幹線は、安全ということを基本的に無視していると思います。
リニアメトロというのがあります。東京都営地下鉄の大江戸線がそうです。リニアモーターカーです。しかし、モーターの開き方が違っています。コイルの部分は、いってみれば、一回り分だけ開いています。回転部分の代わりにレールの間にアルミニウムの板がずっと置いてあって、コイルとの間の電磁作用で動きます。乗った感じは普通の地下鉄です。リニアモーターカーだとは思わない人も多いと思います。運転士もちゃんと乗っています。
都営地下鉄、大江戸線。レールの間に金属板がおいてあります。
JR東海のリニアはより複雑なコイルの側を開いて、しかも路線全体にずっと並べるというのも、無駄だといえます。リニアメトロはレールを使っていますが、レールとアルミニウムの板の組み合わせでもJR東海のリニアよりシンプルな構造です。リニアメトロは、それでもコイルと回転部分にあたるアルミニウム板との間隔がモーターのコイルと回転部分の隙間(1o以下)に比べてどうしても大きく(12o)なってしまうので、電力の消費は約2割くらい悪いようですが、リニア新幹線は新幹線の3倍から4.5倍といわれるのでけた外れに無駄。
参考:学問図鑑3 鉄道工学への誘い 「リニアモータで鉄道の新技術を開発」安藤正博(社団法人日本地下鉄協会 リニアメトロ推進本部 主席調査役)
(2015/11/24)
補足 窪園豪平著『リニアモーターカー 新交通システムがスピードと快適さを創造!』(一ツ橋書店、1997年7月10日)の34ページでは「東京―大阪を平板状のモーターを駆動装置とする鉄道で結ぶということは、東京―大阪の距離に匹敵する、円周数百キロという超巨大な円筒状の回転形誘導モーターを切り開いて平板状にし、モーターの回転子を車両にして、直線的に押したり、引っ張ったりして推進させることと同じなのです」と説明しています。
(2015/12/23)