リニアメリットデメリット」(2016年高森町公民館文化祭、展示解説)

 2016年11月19・20日に行われた「高森まるごと収穫祭」と同時開催の「高森町公民館文化祭」で行った展示発表会場で配布したパンフレット(PDF)にいくつかの注釈と図版を追加したものを掲載します。(2016/11/22)

 展示したパネルの内容はこちら


リニア学習会 展示の解説 (2016年11月 高森町公民館文化祭)

◎リニアは本当に世界に誇れる先端技術?


 買物のとき買物カゴとショッピングカートとどちらが楽ですか。車輪があるショッピングカートの方が楽です。浮いて走るときリニアは車輪を使いません。推進力の一部を浮力に変えています。電力を使っています。

 鉄道も車体の重さをを支える車輪の転がり摩擦のほか機械的な抵抗があります(※)。これに打ち勝つ電力が必要です。リニアを浮かせる電力と鉄道の機械的な抵抗に打ち勝つ電力とどちらが大きいか? 買物カゴとショッピングカートの比較からすればリニアを浮かす方が余計に電力がいるんじゃないかと思いませんか?

※:機械抵抗と磁気抗力。新幹線では、車輪の転がり摩擦などの機械抵抗は時速300㎞で 38kN。リニアでは、浮上に伴うもの、また構造物の金属に生じる渦電流によるものなどの磁気抗力が時速300㎞で 77kN。(阿部修治「エネルギー問題としてのリニア新幹線」、岩波書店『科学』2014年11月による)

 産業技術総合研究所の阿部修治さんによると、同じ速度300㎞/hで走ったとすると、東海道新幹線は28Wh/座㎞(※1)、リニアは54Wh/座km。上海のリニアでも34Wh/座㎞と、磁気浮上方式はやはり余計に電気を使うのです。浮上方式は現実には車輪以上の効率は達成できていない。長年の技術開発はまさしく「車輪の再発明」(※2)の努力。「超電導」は「魔法のじゅうたん」じゃない。

※1 乗客1人を1㎞運ぶのに必要な電力
※2 車輪を題材にした「たとえ」。広く受け入れられ確立されている技術や解決法を知らずに、または意図的に無視して、同様のものを再び一から作ること。浮かんで高速で移動するなら、すでに飛行機がある。

 鉄道は車体を車輪内側の幅と高さ約4㎝の縁(フランジ)でレールからはずれないようにしています(図1)。リニアは幅約3m、深さ約1.3mの側溝のようなガイドウェイの中を走ります(図2)。鉄道では列車がとなりの線路に移るとき、レールをまたぐには約4㎝の隙間さえあればOK(図3)。しかしリニアはそうはいきません。リニアが進路をかえるには高さ1.3mの壁を越えなければなりません。したがって、分岐装置(図4)が複雑で巨大でコストがかかるので、多数の分岐装置を設置するのは現実的ではありません。よって鉄道のようなネットワークをつくれません。この欠点は数十年前から指摘(※)されてきたことです。鉄道にとってかわれる技術ではありません。

※ "数組の車両を、あるいは数本の線路を用いて運転するということになると、たちまち車両をある線路から他の線路に移すという問題が生じるのである。このために必要な分岐装置がきわめて複雑で高価であることを思えば、磁気浮上方式が高速鉄道に取って変ることが決してないだろうということを理解する一助となろう。" (マレー・ヒューズ著/菅健彦訳『レール300 世界の高速列車大競争』山海堂、1991年[原著は1987年]、100~101ページ)

 リニアは直線に走らせるためトンネル工事の費用がかさみます。そのほかに、他の新幹線は電気工事費がキロ当たり6~7億円であるのに対して62億円と1桁も違います(※)。リニアモーターは回転式のモーターを広げて延ばしたものと言われます。リニアでは286kmの全線にわたって、コイルが配置され、またコイルまでの配線もあります。鉄道であればレールと架線だけです。電線の量だけでも破格に多いことが予想できます。超巨大なインバータも必要(図5図6)。だから電気工事費が大きいのです。これも時速500㎞/hのため。

※ 西川榮一『リニア中央新幹線に未来はあるか 鉄道の高速化を考える』(自治研究所、2016年2月)、p42

 リニアの輸送力はかなり低い。1日17時間(※)、1時間当たりの列車本数を、リニア5本(JRの予想)、新幹線8本(現行)とすると、定員1323人の新幹線は1日に179,928人を運びますが、定員1000人のリニアは85,000人と輸送力は新幹線の半分。高速走行のため新幹線に比べ定員が25%も少ない。地上一次式リニアのためダイヤの自由度が限られているので、1時間当たりの本数は新幹線ほどには増やせません。1編成の車両数も自由になりません。

※ 会場で配布したパンフレットの「1日7時間」は入力ミスでした。「1日17時間」が正しい数字です。

 気になる運賃を予測。東海道新幹線で距離の似通った東京・静岡、東京・熱海の料金を参考にすると、飯田・品川が約6700円、飯田・名古屋が約4900円 (現在のバス代が、4000円と2650円)(※)。運賃は高くなる。

※ JR東海は現在の新幹線の料金に700~1000円プラスと言っています。東京・静岡、東京・熱海の料金に700円をプラス。

 これらの欠点は時速500㎞を実現するためのもので、スピード以外の点ではすべてが鉄道より劣ります。さて、世界の次世代の高速列車(図7)は、すべて最高速度は250㎞以下。線路や架線、車体の維持管理などのコストの点で事業者が現在実現している300㎞以上、320㎞といったスピードは求めなくなってきているのです。したがってリニアは世界に売れない。リニアは時代遅れの前世紀の発想。

◎ リニアって本当にできるの? よーく考えてみよう。

 東日本大震災の後、国交省の中央新幹線小員会が答申を発表する直前のパブリックコメントでは、72.9%が「中央新幹線整備に反対、計画を中止又は再検討すべき」という内容。しかし、最終回、2011年5月12日の会合では、この結果について委員会はなにも話し合わず。環境アセスメントの結果について環境大臣が国交大臣に宛てた意見書。「本事業は、その事業規模の大きさから、本事業の工事及び供用時に生じる環境影響を、最大限、回避、低減するとしても、なお、相当な環境負荷が生じることは否めない。」、「技術の発展の歴史を俯瞰すれば、環境の保全を内部化しない技術に未来はない。・・・環境保全について十全の取組を行うことが、本事業の前提である。」、「なお、言うまでも無く、本事業は関係する地方公共団体及び住民の理解なしに実施することは不可能である。」など、異例と言える厳しい内容にも関わらず国交大臣は工事の認可をしました。財投活用についての国会審議でも与党が数で押し切り、本当に真剣な論議は行われていません。

  

  飯田市の「リニア駅周辺整備基本構想検討会議 」のなかで信南交通の社長は「交通事業者の立場からみて、1 日の乗降客数が 6,800 人という設定には疑問を感じている。塩尻駅や岡谷駅相当というが、これらは JR 中央線を使う通勤通学客も含んだ値で、実質的に『あずさ』を使う人の値ではなく、リニア単独での飯田の状況と異なる。」と疑問を出しています。現在、高速バスの名古屋方面が年間の利用者数は19万人、新宿方面が55万人(上伊那分24万、飯田分31万)。2015年8月6日に飯田・名古屋間の高速バスの利用者の累計が800万人達成。これらから計算すると、現在の利用者は約1650人ですから、非常に過大な予測または目標数字です。

(補足 2017/04/27) 南信州広域連合事務局が作成した「平成 24年度 南信州広域連合市町村長 議員研修視察」という文書によれば、平成22年度の飯田からの高速バスの1日あたりの利用者は新宿線が905人、名古屋線が514人、年度が不明ですが、JR飯田線は971人。東京・名古屋方面の高速バス利用者は1419人です。この数字を南信州広域連合の市町村長さんや、議員さんたちはご存知のはずです。

 この秋行われた飯田法人会のアンケートによれば、「リニア新幹線開通後は貴社にどのような影響が出ると思いますか」の問いに「自社に影響ない」という回答が64.7%に達し、法人会の宮島会長は「大きな変化が予想される地域にありながら、どこか他人事のような考えが多いように感じられ危惧している。ぜひ皆さんにハッパを掛けていってもらいたい 」と語り(『南信州』10月18日)、事業主たちもリニアにあまり期待していないといえます。

 はじめJR東海は中間駅の建設費用は地元負担と言っていました。リニアの目的は東京、名古屋、大阪を短時間で結ぶことです。中間駅へ列車を止めると離着陸をしますから車体が消耗し維持管理にコストがかさむし電力も余計に必要、さらに退避線のための分岐器も必要になるなどマイナスが多いのに、乗客数は期待できないから本来JR東海にとっては中間駅はお荷物。東京が良くなれば地方もよくなると、トリクルダウンを信じるなら中間駅を希望すべきではなかった。

 リニアに地域の未来を託すのは、なにか思い違いのような気がします。JR東海の担当者は大鹿や南木曽の説明会で、地元へのメリットは思い浮かばないと発言しています。

さて、リニア建設の進捗はどうでしょう。大量のトンネル残土の問題。実際に残土の処分場所はほとんど決まっていません。今候補地にあがっている場所は、谷や沢であって、ほとんどの場合下流域に人家や集落があって、将来の土石流災害の懸念があるからです。高森町ではかって小学校と中学校の間の唐沢洞の埋めたて計画が住民の反対で取りやめにりましたが同じことです。豊丘村の源道地の沢は下流の小園地区の住民の反対でJR東海は置場を断念しました。松川町生田でも寺沢川下流の福与のリニア対策委員会が町に候補地取り下げを要望しています。下久堅小林も龍江の番入寺の西の沢も同じような条件です。残土の処分地については土地収用の適用はありません。トンネル部が86%、残土を大量に出すリニア計画は机上の空論と言えます。

  それでも始まるトンネル工事、大鹿に置かれる残土は仮置きのはず。残土のすべてを大鹿に押し付けてしまっていいのか、悪いのか。

  起工式の時点でも工事業者が「掘って見なければ分からない」といっている南アルプストンネルは大変な難工事になりそうです。2027年完成と区切った工期。この計画は本当にできるものなのかどうなのか。突貫工事でできたトンネルの安全性はどうなのか?

  以前からリニア計画の中止・再検討を訴えてきた橋山禮治郎さんは日本開発銀行OB。最近、国会で参考人として意見を述べています。リニア計画を進める立場の牧野飯田市長も日本開発銀行OBで、投資対象事業の成否判断の専門家です。同様の経歴、知識・経験をもつ専門家の意見が正反対なのはなぜか?リニア推進派だって気になりませんか?飯田市長は説明すべきじゃないでしょうか。

 飯田市が分譲したのに移転対象になった住宅地(図8)や地域が分断される駅周辺。「JR東海はお殿様、そこのけそこのけお馬が通るで、仕方ない」、「何の相談もなしに・・・」、「招集礼状が来たようなもの」。こんな声も聞かれます。今は21世紀、戦前や江戸時代じゃありません。個人の運の問題でしょうか? お互い様のことですよ。

「リニアに乗って孫に会いに行きたい」というお年寄りの言葉。額面通りにとっちゃだめです。「リニアができるのはずっと先。それまで生きとれるかわからん。生きとっても、孫は小生意気になっとって会いたくもないらで。それよりなにより、若い衆を遠くに出したのは失敗だった。リニアなんかいらんし、期待なんかしとらんに。」という意味。

  2013年、当時のJR東海の社長山田佳臣氏はリニアはペイしないと言いました。リニア建設でJR東海は赤字路線をもう一つ抱えることになります。本当の民間企業であればできないこと。しかし、目を日本経済全体に向けると、リニアのおかげでゼネコンの仕事は倍になるはず。政府がリニアを進める理由はこんなところにあるのかも。必要かどうかではなく、「つくることに意味がある」。

  リニア沿線の反対グループは5月20日に、国土交通省のリニアの工事認可の取り消しを求める行政訴訟を起こしました。これとは別に、大鹿村の住民有志15人による『大鹿村にリニアは必要ない!有志の会』が大鹿村内でのリニア関連工事の禁止を求める仮処分を申し立てています。山梨県富士川町では、住民が申し合わせて測量をさせていない地区があります。山梨県中央市では立ち木トラストが、神奈川県相模原市では土地トラストが行われています。豊丘村の源道地では住民の団結で残土の埋め立てが出来なくなりました。住民自らの生活と命は結局は住民自身が自分たちで守らなくてはならないのです。松川町の福与地区リニア工事対策委が残土処分地の候補地の取り下げの要望を出しました。

◎ リニアを見据えた景観づくり? わざわざつくらんたって・・・

  高森町はリニアのガイドウェイ組立ヤード用の用地の候補地、2か所を長野県に申請しました。場所は下市田河原と山吹地区の2か所。JR東海が必要としているのは合計12ヘクタール(Ha)。喬木村がすでに申請しているのが堰下地区の5Haで、高森町の分は下市田河原13.4Haと山吹4.18Ha。

 候補地の一つ下市田河原は、天竜川に近い水田地帯。近くには親水公園もあり、景観の良い場所です。堤防上でのウォーキング、野鳥観察、マレットゴルフなど、周辺住民にとっては格好の憩いの場でもあります。


 現在の堤防は1961年の三六災害で流失した惣兵衛堤防にかわって築かれたものです。惣兵衛堤防は流失するまでの約200年間、下市田河原の100ヘクタールの美田を護り続けた歴史ある堤防でした。現在の堤防は旧堤防より約50mほど引っ込んで造られましたが、堤防で水田を護ってきた姿が今でもはっきりと見てとれる歴史的景観、文化的景観です。周辺には旧惣兵衛堤防の北端部分のほか、新旧の堤防に関わる石碑類ほかの遺物が残されています。


 喬木村の堰下もですが、リニアの賛否に関係なく、これだけの優良農地を潰してしまうのはもったいないことと思います。

 リニアのガイドウェイは鉄道のレールに相当します(図9)。コンクリート製の桁状のものやパネルにコイルを取り付けたものです(図10)。普通の鉄道ではレールは製鋼所の圧延工程で造って、必要な場所まで鉄道で運び枕木に取り付けるので、広大なガイドウェイ組立ヤードのような施設などは必要ありません。トンネルから出る残土の処分場、リニア専用の中電の佐原の超高圧変電所と送電線、そしてガイドウェイ組立ヤードと次から次へと余計な土地を必要とするリニアは本当に無駄の多い交通機関だと思います。しかもそれを初めから言わないずるさがある。

 新聞記事をみてビックリした町議さんも多い。町議会の総務民生委員会で報告しておいて箝口令をしくなど、ともかくリニアのことになると行政はヒソヒソ話になってしまうようです。

 JR東海は8年使ったらあとはいらんといっているそうです。残土置場の沢や谷について、運び込む間は土地は借りるけれど、そのあとは知らんと言っているのと同じです。勝手なものです。後始末は、結局は村や町がすることになるでしょう。喬木村は跡地を商業施設にするといっています。高森町は工業団地にするつもりのようですが、いまから約10年後にそんな需要があるでしょうか。

[文責:出砂原・春日]




参考書

◎橋山禮治郎著『リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』(集英社新書、2014年)

◎橋山禮治郎著『必要か、リニア新幹線』(岩波書店、2011年)

・樫田秀樹著『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社、2014年)

・樫田秀樹著『<増補> “悪夢の超特急"リニア中央新幹線 ~建設中止を求めて訴訟へ』(旬報社、2016年)

・西川榮一著『リニア中央新幹線に未来はあるか─鉄道の高速化を考える』(自治体研究社、2016年)

◎リニア・市民ネット『危ないリニア新幹線』(緑風出版、2013年)
  ※ 第2章「南海トラフ巨大地震とリニア中央新幹線」 松島信幸

・曽根悟『新幹線50年の技術史』(講談社ブルーバックス、2014年)

×鉄道総合技術研究所『ここまで来た!超電導リニアモーターカー』(交通新聞社、2006年)

×マレー・ヒューズ著、菅健彦訳『レール300 世界の高速列車大競争』(山海堂、1991年)

・村上雅人『SUPERサイエンス 超電導リニアの謎を解く』(シー&アール研究所、2015年)

◎上岡直見『鉄道は誰のものか』(緑風出版、2016年)

☆岩波書店『科学』2013年11月号、阿部修治「エネルギー問題としてのリニア新幹線」
( http://web-asao.jp/hp/linear/阿部論文(科学).pdf または論文タイトルで検索 )

△豊丘史学会『豊丘風土記』第23号「リニア中央新幹線」特集(2015年)
  ※ 松島信幸「リニア新幹線を受け入れてはいけない ~地質的な立場から~」所収

◎高森図書館にあり ☆ネットで可読 △豊丘図書館か公民館に問合 無印は飯伊の他の図書館にあり ×近隣の図書館になし

インターネット

『飯田リニア通信』(飯田リニアを考える会)
http://www.nolineariida.sakura.ne.jp/index.html

『NO!リニア』(NO! リニア連絡会)
http://tobigas.wixsite.com/nolinear

『大鹿の100年先を育む会・リニア検証部』(大鹿の100年先を育む会)
http://umanojou.com/oosikamura/oosika100/linear/linear.html

『「美しい村」の議員日記』(ブログ)
http://blog.goo.ne.jp/akimtl1984

『東濃リニア通信』(東濃リニアを考える会)
http://blog.goo.ne.jp/ookute3435

ストップ・リニア!訴訟原告団&リニア新幹線沿線住民ネットワーク
http://linearstop.wixsite.com/mysite

『記事の裏だって伝えたい』(ブログ)
http://shuzaikoara.blog39.fc2.com/

『南信リニア通信』
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/npp/index.html

(2016年11月19-20日 高森町公民館文化祭 リニア学習会・展示解説)