― 超電導リニアは21世紀の戦艦大和 ―
トランスラピッド(上海リニア)の特長
JR東海のリニアに関連して、ドイツが開発したトランスラピッド(上海リニア)について語られる点は:
- 超電導ではなく常電導
- 1㎝しか浮上しないので地震に弱い
- 最高速度が遅い=約430㎞
- ドイツ国内での建設は中止になった(コストがかかりすぎる・他の鉄道と連携が難しい)
- 上海で営業路線ができているが、計画通りに延長できていない(採算が採れない・住民の反対がある)
などです。超電導リニアは新幹線の3倍の電力を必要とする(JR東海発表の数字)と言われますが、トランスラピッドのエネルギー消費はどの程度なのでしょうか。またそのほかの特長はどんなものがあるのか、トランスラピッドを開発していたトランスラピッドのHPに書いてあることを紹介します。
エネルギー消費
新世代の自動車のエンジンと同じように、高速鉄道と同じ高速を実現しながらも、トランスラピッドはより少ないエネルギーしか消費しない。裏を返せば、トランスラピッドはより少ないエネルギーで確実により高速を実現する。
注:ICEはドイツの高速鉄道。右端の比較ではICEでは400㎞/hは達成されていないと書いてあります。
理由は:非接触技術により摩擦による損失がないこと、延長の長い固定子のリニアモーターの効果、重量が軽い車両、低い空気抵抗。高速道路を走る自動車や飛行機に比べるとトランスラピッドのエネルギー消費の少なさは3~5倍である。
下表に、3か所の中間駅のある300㎞区間を3種類の最高速度で運行した場合の1座席当たりのトランスラピッドのエネルギー消費の例を示す
速度 出力/㎞ 100㎞で消費するガソリンの量(L)にすると 200km/h 32 Wh/km 1.1 L 300km/h 47 Wh/km 1.6 L 400km/h 66 Wh/km 2.2 L
二酸化炭素の排出量の比較
右から2つ目は自動車、右端は短時間の飛行機
登坂力と最小曲線半径
登坂力は、ドイツの高速鉄道のICEの40パーミル(1㎞で40mの高度差を登れる)に対して100パーミル。
最小曲線半径は、時速300㎞のとき半径1950m。普通の高速鉄道では同じ条件では3200m。
高架橋
地面のレベルでは土台の上にのせて高さ1.45m~3.5mの位置にガイドウェイが来るようです。土台には隙間があって小動物の行き来を邪魔しないとうたっています。
高架橋の高さは、2.2~20mで橋脚の間隔は12.4m~25m。桁下は放牧地や農地として使用可能といっています。
=拡大可能
注:窓も大きいですね。
分岐装置
分岐装置は鋼鉄製の連続した箱型断面の桁を曲げる方式で、全長は78~148m。写真で見ると非常に滑らかな曲線で曲がっています。直線になる側では速度は本線と同じ、曲がって分かれていく側では高速分岐器では200㎞、低速分岐器では100㎞。
=拡大可能 http://www.ft.dk/samling/20061/almdel/tru/bilag/361/363482.pdfより
磁力線の影響
磁力線(電磁波)の影響については、非常に少ないと主張しています。トランスラピッドのリニアモーターの構造は磁力線の漏れが少ない構造ですから、まあ納得できると思います。
騒音
Sバーン(S-Bahn,ドイツの国鉄)、ICE、TGV(フランスの高速鉄道) など他の鉄道や交通機関と比較しています。他の鉄道よりちょっとだけうるさくないという程度。
注:上から、ジェット機、削岩機、電動丸鋸、車の警笛、トラックの騒音、通常交通状況の道路騒音、普通の会話、ラジオから流れる静かな音楽、ささやき、時計のチクタク音、コンピュータの音
超電導リニアと比べると
以上、トランスラピッドの言う通りであるなら、最高速度は約80㎞ほど遅いのですが、他の点では、特に登坂力、曲線半径で圧倒的に優れている、トランスラピッド方式の方が狭い日本の国土にあっていると思います。
技術的なことで一番大きな違いは、トランスラピッドは停車中も常に浮上していること=推進と浮上を分離していること=車輪が不要ということ。
ドイツのリニアでは、ほとんどが既存の技術を組み合わせたもの。超電導磁石を使わないのでガイドウェイや構造物に鋼鉄が自由に使えること。
JR東海のリニアがガイドウェイの浮上コイルを飛行機に対する空気のように見立て、超電導磁石を主翼のようにして、推進力の一部を揚力(浮上力)に変換する「ちょっと気の利いた」方式よりは、在来の技術を組み合わせ浮上と推進を分けたトランスラピッド方式の方が堅実だったといえるのではないかと思います。(名古屋にあるリニモはトランスラピッドに近いHSST方式)
浮上式鉄道で一番のネックの分岐器は明らかにトランスラピッドに軍配が上がると思いますが、従来の鉄道はもっとはるかに効率的です。JRリニアの分岐器は問題外だと思います。
すでに営業路線があること。
これらを考えると、総合的にはトランスラピッド方式の方が優れていると思います。なぜ、「中央新幹線」の方式の候補としてトランスラピッドが上がらなかったのか。日本が地震国であるからといわれるのですが、コンクリートの構造物と鉄の構造物とどちらが地震に強いでしょうか。また従来の新幹線は鉄のレールに鉄の車輪が接触する状態で走っているのですから(脱線しても慣性があるのでしばらくはまっすぐ走る/カーブの場合は飛び出しますが)、浮上する距離が1㎝であっても10㎝であってもそんなに安全性に差はないと思います。またリニアの場合は上に10㎝浮上するのですが、左右、ガイドウェイの側面との隙間は片側4㎝です。震源が直下であれば地面は主に上下に動くかもしれませんが、震源から離れると水平方向に揺れる成分が大きくなるはず。その場合は10㎝ではなく4㎝が問題じゃないかと思います。10㎝浮いているから安全/地震に強いという言葉はちょっとマユツバ。
まっすぐにしか走れないなんていう超電導リニアは、まさに、21世紀の戦艦大和。
(2016/02/29)
補足
西川榮一さんが書かれた『リニア中央新幹線に未来はあるか 鉄道の高速化を考える』の37ページに「カルマン・ガブリエリ線図」という図表があります。リニアの動力性能を他の乗り物と比べています。乗り物自体の支え方として、浮力、反力(車輪、そり、足など)、揚力で支える3つがあります。効率から考えて、支え方それぞれに最適な速度の範囲があることが示されています。「カルマン・ガブリエリの限界線(1950年)」より下、効率(動力性能)の良いものとして大型タンカー、鉄道、高速鉄道、MAGLEV、ボーイング767型機、ボーイング747型機などがあります。「MAGLEV」というのは何でしょうか。本文に説明がないようです。
ネット上でこれとほとんど同じ図表を見つけました。「MAGLEV」と同じ場所に「Transrapid 08」と書いてありました。この「MAGLEV」にはおそらくトランスラピッドが含まれていると思われます。トランスラピッドのHPでも高速鉄道より少し効率が良いといっていることからもそうではないかと思います。
"SUPERBUS: USING AEROSPACE TECHNOLOGY TO MAKE HIGH SPEED TRANSPORT MORE SUSTAINABLE",J.A. Melkert,Faculty of Aerospace Engineering, Delft University of Technology,The Netherlands より(PDF、7ページ、)
(2016/03/03)