経済性は工学の基本

 図書館で調べものをしていて偶然見つけました。『世界科学大事典』の「鉄道工学」の一節。

 経済性は、すべての工学の基本であるが、特に鉄道工学では最も重要であり、費用を見積もらなければ鉄道計画は完成しない。アメリカにおける鉄道産業の歴史的背景を考慮に入れ、輸送産業が互いに競合している中で、高騰する費用にみあうだけの効率の要請を考えれば、鉄道技術者は何はともあれ経済性の追求にすべての努力を払わなければならない。全般的には、アメリカの鉄道は、鉄道用地を所有し、維持し、税金を支払っている民間企業であるといえる。これに対して、空路、幹線道路、水路による輸送の競合形態は、程度の差はあるが、いずれも公共所有物の非課税の固定施設を利用している。(マグロウヒル・講談社『世界科学大事典 第12巻』項目執筆者 William J. Hedley、1977年)

 アメリカのことを中心に書いているのですが、第一に、「経済性は、すべての工学の基本であるが、特に鉄道工学では最も重要」という点。

 たとえば、『超電導リニアの謎を解く』は、アメリカで超電導磁気浮上方式リニアが実現しなかった理由として、車両に載せても安定して動作する超電導磁石の開発が非常に困難だったこと、自動車文化が強いアメリカでは政治家の関心が薄かったからと説明しています。アメリカでなぜ実現しなかったかという理由はやっぱり考えてみる必要があると思います。

 列車で使える超電導磁石の開発が困難というのは、結局は、開発に時間やお金がかかるという意味だと思います。事実として、日本では相当長い年月と費用をかけたのにやっと国土交通省の工事認可が下りた段階です。アメリカでは鉄道に求められているのはまずは経済性という説明と、アメリカでリニア方式が実現できなかったという事実はぴったり合います。ある程度研究した段階で経済性に見込みがないからそれ以上は開発研究を続けなかったということだと思います。

 次に、「全般的には、アメリカの鉄道は、鉄道用地を所有し、維持し、税金を支払っている民間企業である」のに対して「空路、幹線道路、水路による輸送の競合形態は、程度の差はあるが、いずれも公共所有物の非課税の固定施設を利用している」という点。鉄道は税金を払っているけれど、飛行機、自動車、船は税金から補助を受けているということだと思います。アメリカのような「車中心」の社会で、鉄道は税金を納める民間企業という説明はちょっと意外に思えませんか。

 そういうアメリカでJR東海のリニア方式の鉄道や、テキサス新幹線がすんなりと建設できるでしょうか?

(2016/07/20)