10㎝浮上のリニアは地震に強いってホント?

 日本のリニアは10㎝浮上するので地震などで多少段差ができても大丈夫だそうです。ちなみに中国ですでに運転しているリニアは1㎝しか浮上しないそうです。どうして中国に先を越されてるんだろうって思ってたけど、地震の多い日本では1㎝しか浮上しない方式では危険ということで10㎝浮上する超伝導方式をとっているそうです。(防災と減災を one more plan!:リニア、地震の時は大丈夫?)

 リニアと地震についてこんなふうに思っている人が結構いるんじゃないですか?

 まず、中国の上海のリニア、トランスラピッドのことですが、どのくらい浮くのか調べてみたのが次の図。


トランスラピッドのHPを参考にしました

 実際には1㎝浮くというよりは、ガイドウェイとの隙間を上下、左右ともに常に1㎝(8㎜~12㎜)の間に保つというのが正しいようです。

 JR東海のリニアは10㎝浮くというのですが、実際はどうなのか?


 図で「超電導磁石と浮上コイルの隙間は機密事項」と書きました。最近、ガイドウェイ組立ヤードの説明会でJR東海に質問しましたが、高森町の経営企画課を通じてJR東海から回答をもらいました。「技術部門」から機密事項と言われたのでお教えできないとのこと。先端技術だからまあしょうがないか・・・。

 で、もう一つ、図で赤い矢印の隙間。リニアは超電導磁石のある台車部分が車体より外側に飛び出しています。リニア見学センターのギャラリーのリニアの写真、2-3.jpg1-10.jpgで確認してください。だから、車体の本体とガイドウェイのコイルの表面までの隙間が何センチなのかという問題。

 リニアは10㎝以外の数字はよくわからないというのが本当のところかもしれません。さて、しかし、この10㎝、トランスラピッドでこの10㎝に当たるのは15㎝です。車で言えばロードクリアランスです。実はガイドウエイと車体下部との間隔はトランスラピッドの方が大きいんです。

これって、ほとんどウソに近い間違い

      というか、印象操作

 最初に紹介した、10㎝浮上するから1㎝浮上の中国のリニアより・・・という話。なにか根拠があるのかと探してみました。国土交通省の鉄道問題小委員会の資料の中にこんなものがありました。


[画面クリックで拡大] "交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会、「中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定について」 答申、平成23年5月12日" の参考資料のp8

 しかし、この資料の右のトランスラピッドで「約1㎝」と書いてあるところは、トランスラピッドの開発元の説明では15㎝です。この図は間違っています。審議過程で示されたものを答申の資料にもそのまま使ったのでしょう。

 審議委員の皆さんはこういう資料でもってリニア計画について答申したんですが、きちんと審議したといえるのでしょうか? これをもとに地震に強いとかいうのはどうなのでしょうか?

 トランスラピッドは上下左右の隙間、ガイドウェイと車体との間隔すべての数字を公開しています。JR東海が機密事項だという理由はないと思います。10㎝浮上というのに、左右はこんなに狭いのと言われたらまずいという、「技術部門」ではなくて「広報担当」の判断かもね。

 それから、例えば左右がそれぞれ10㎝あいていたとしても、その中を時速500㎞で走るというのは怖いと思います。

ほっておけば物体は直進運動する

 トランスラピッドのカーブを通過する能力は、時速500㎞で半径4500m、時速370kmで半径2000m(下図)だそうです。トランスラピッドのHPでは最少半径は1950mといっています。JR東海のリニアは全線にわたって8000mより長い半径のカーブしか走れません。半径8000mといえば、ほとんど直線です。


トランスラピッドのカーブの半径と通過速度の関係(MONORAILS AUSTRALIA - INTERCITY MAGLEV MONORAILS)

 直線しか走れないのは、左右の隙間の大きさとの関係もあるのかも知れません。直進だけしている限りは左右のことはあまり考えなくてよいはずです。雪道や凍結路で車がスリップするときは必ずまっすぐに進みます。なぜなら慣性の法則は、ほっておけば物体は等速直線運動をする。列車も直進している限りは考えなくてはならないことも多少は少なくて済むのではないでしょうか。トランスラピッドは比較的ありきたりの技術を組み合わせたのに、どうして、より急カーブの路線を設定できるのか。トランスラピッドとリニアの技術をきちんと比較してみるとリニアの意外な面が分かるのではないかと思います。

 さて、「超電導磁石と浮上コイルの隙間」はいったい何cmなのでしょうか?

 リニアに批判的な立場の西川榮一さんの『リニア中央新幹線に未来はあるか』では、「浮上高さは10㎝、また側面の地上コイル装置と車上コイル装置との間のすき間も10㎝程度」と涌井一(1990)「超電導磁気浮上式鉄道のガイドウェイ構造」、『コンクリート工学』、Vol.28、No.12、4-13頁を参照していっています。原文 ⇒ 「本方式は,超電導磁石を利用した誘導浮上方式であり,車両とガイドウェイ構造との間隙が約10cmと大きくとれることが特徴である。ただし,浮上するためには,補助車輪による助走(約100km/h程度まで)が必要である。案内も浮上と同様な方式で行い,左右方向にも10cm程度の間隙が確保される。」。涌井さんは、鉄道総合技術研究所の職員だったようです。論文は1990年のものですが、なんでこれらの数値が機密事項なのでしょうか?

 もしかして、この辺りに、リニアの技術の致命的な欠点があるのかも知れません。

トランスラピッドのHPが見れなくなっていますので、以前内容の一部を紹介した当サイトのページを参考にしてください。こちらはWaybackmachneのアーカイブです。プロモーションビデオでは車体をガイドウェイに対して約1㎝の間隔になるまで持ち上げているのが分かる場面があります(浮上させるのは実は1㎝より大きい)。Transrapid Historyは開発の歴史。これらの動画では浮上方式というよりは「非接触式レール技術」といっています。カルマン・ガブリエリ線図でもトランスラピッドは「鉄道」の延長線上にありエネルギー効率の高い交通機関と言えます。でも、いってみれば、従来の鉄道の方がというか、従来の鉄道で十分というのがドイツの判断で、ドイツ国内での採用は中止になったとさ。2 / 2 Lost Place - Transrapid Versuchsanlage Emsland 21.01.2016 (TVE)は、開発の終わったトランスラピッドの実験線の2016年冬の様子。ガイドウェイの構造が分かります。上の方で説明したような単純な構造ではありません。一歩先をいった比較対象があるのですから、ちゃんと調べるべきだと思います。おそらく総合的には葛西リニアより優れていたのに遂にドイツでは採用されなかったことも含めて。

(2017/08/12)

 忘れていました。中国も結構地震は多かったと思いますよ。で、より急なカーブを曲がれるということは、横方向の力に対する車体やガイドウェイの強さが無くては実現できないはず。モノレールのような跨座式でガイドウェイにしがみつく格好のトランスラピッド。一方、側溝のようなU字の溝の中を走るJR東海のリニア。トランスラピッドは一体構造のT字型のガイドウェイ、一方リニアのガイドウェイは床部分に側壁を後で取り付ける方式。取り付け部の強度の問題はどうなのでしょうか? ただまっすぐに走るだけの「葛西リニア」とカーブに強いトランスラピッドとどっちが本当に地震の時に「安全」なのでしょうか?

(2017/08/13)

 ★「東濃リニア通信」が「8月15日付け」でリンクを張って下さいました。冒頭で"ガイドウェイの推進・浮上コイルとリニア車両の間隔は狭い方がエネルギー効率が良くなるそうです。しかしガイドウェイの建築技術の問題や寒暖差の膨張・収縮の問題もあり狭くするのは難しく、そのためにエネルギーが悪く、膨大な電力消費となるという事らしいです。"と書いておられます。このあたりにものすごい問題があるので「機密事項」なのでしょう。★「東濃リニア通信」に「リニア新幹線は地震に強い? 本当ですか!(2013年06月11日)」という記事があります。この中で、2013年2月の阿部修二さんの講演の中での言葉が紹介されています。「浮上しているから安心という事に関しては、リニア車両は上下方向には10㎝程度浮上していますが、左右のガイドウェイと案内ストッパー輪との間は4㎝しかありません。路面が4㎝振動すればぶつかるわけです。」。★また「早期地震警報システムは地震が遠い海溝型地震の場合は有効ですが、活断層の地震には有効でない。リニアの線路は活断層を突っ切り、主要な活断層をなでるようにルートが選ばれています。」ということであれば、トランスラピッドに対して「葛西リニア」が格段に地震に強いというわけでもなさそうです。

(2017/08/15)