トランスラピッドの足回り
下の図は、 "交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会、「中央新幹線の営業主体及び建設主体の指名並びに整備計画の決定について」 答申、平成23年5月12日" の参考資料のp8にのっています。リニアと上海のトランスラピッドを比べています。
こういう図面というのは、奥行きがなくて、これをもとに話をしても、話の奥行きもありません。リニアについては「機密事項」が多くよくわからないので、とりあえず、右側の図の、上海で営業運転をしているトランスラピッドについて調べてみました。
まず、トランスラピッドを開発した会社の作ったこの動画、Maglev - Hightech for Flying on the Groundの中から、浮上するための仕組みを見ます。
(1分57秒)立体的に見るとこんな仕組みになっているようです。
www.monorailsaustralia.com.auにあった図解も参考に。
(1分8秒)これは、実験線の整備工場だろうと思います。車体の下部のカバーを外してあって、車体の下に上の図の仕組みのものがいくつも並んでいるのが分かります。
(7分7秒)こちらは、走行している状態の図解。
( TR06 vehicle structure sketch. (1) car body; (2) secondary... - Figure 1 of 23 より)これは、上や下の TR-08型より前のTR-06型のものですが、最初の図で示した仕組みが車体の下に4組あるのが分かります。「ボギー」と説明があります。台車のことです。各台車はサスペンションを介して車体に取り付けてあります。列車の下全体にこの台車が着いているわけです。
(ウィキペディアより)上海のリニアです。黄色い線より下のカバーの中に台車があります。
この動画、Shanghai Maglev 2015 は、多分アマチュアの方が撮影したものだと思います。上の写真の黄色い線より下の部分は、車体とは別の動きをします。このビデオでそれが分かります。
(1分59秒)車庫から駅までの間のようですが、S字カーブを通過するところ。
拡大画像。赤と青の矢印部分に注目。カーブの内側になったとき(赤)と外側になったとき(青)で車体上部と食い違う場所が違います。
このビデオでは、普通の電車のような音をたててトランスラピッドは走っています。時速80㎞以下では、車内で使う電力をガイドウェイにある架線から接触集電しているそうなのでその音かもしれません。最新のTR-09型では完全に非接触の集電方式に改良されたようです。
(1分37秒)S字カーブの前に急傾斜から平たん部にかわる部分もあります。ほぼ直線の部分ですが上下方向でも食い違いが起きているのが分かります。先に示したTR-06型の図解は実は縦方向の動きについて説明しているもの。この動画、Transrapid - Promotional Film of the German Maglev Train (1985) の冒頭のTR-06型の走行場面でも車体と台車が別々の動きをしていることが分かります。
つまり、詳しいメカニズムは分かりませんが、4つの台車が車体とは別の動きをして、カーブを滑らかに通過する仕組みになっているようです。台車の数が多いのは、通常の電磁石の能力からいって、荷重を分散する意味もあるのでしょう。
リニアの場合は車体の前後に1つずつ台車があって、台車は車体に対してある程度は動くようです。なんとなく工夫が足りないような。デザインでも、負けてるような・・・。
蒸気機関車は動輪が一直線上に並んでいます。それで、大型の蒸気機関車はカーブのきついローカル線では走れません。のに、飯田市には中津川から来たD51が展示保存してあります。全長は19.73m。動輪の直径が1.4mで動輪部分の長さは4.2m以上。直線上に並んでいます。
現在飯田線で走っているのは主にこの2種類の電車です。全長はどちらも約20m。車軸の間隔(黄色い矢印)は2.1m。D51蒸気機関車に比べはるかに短いです。
ところで、鉄道の列車の車輪は、走るときは、こんな風な動きをしているそうです(参考:ウィキペディア)。これは自励振動を起こしている極端な状態ですが、右によれば左に押し返す力が働く。ともかく車輪の幅とレールの幅に余裕がとってあるのです。余裕がとってなければ「よれ」ません。リニアの磁気反発方式も、これと非常によく似ています(⇒山梨県立リニア見学センターのHPの「リニアの仕組み」)。
カーブを通過するには、さらに「遊び」(隙間)が必要だそうです。カーブでは内側のレールを規定より少しだけ広めに取り付けるのだそうです。車体の重量を支えるには最低2本の車軸が必要ですが、それは一直線上に並んでいます。カーブを通る場合は四角いものが曲線部分を通るのですからぴったりの幅では通れません。隙間が必要です。また、同じ隙間でも、車軸の間隔が短いほどカーブは通過しやすいはずです(参考)。
ところでリニアはU字型のガイドウェイの中を走るので、大型の蒸気機関車と同じようにカーブには弱いということもあるんじゃないかと思うのです。車輪だけでなく車体も考えに入れなくてはならない。一直線状になる部分の長さが、リニアは従来の鉄道に比べて非常に長いのではないかということなんです。
そこで、リニアの超電導磁石と浮上用コイルとの隙間の問題です。10㎝なのか4㎝なのかわかりませんが、最少回転半径が8000mというのも、その10㎝だか4㎝で決まって来るんじゃないでしょうか。磁力は隙間の二乗に反比例するので、カーブのことだけを考えて隙間を決めるわけにはいきません。カーブごとに隙間の大きさをかえることはできないはずです。また、浮上する力は速度にも関係するのでカーブでスピードを落とすことも容易じゃないはずです。調整代が非常に小さいのでほとんど直線の路線しか設計、計画できない。それでは、交通機関としてはね・・・。
忘れていました。分岐器(ポイント)にも曲線部分があって、それは本線よりかなりきついカーブです。もっともこの部分ではリニアは浮上して走行しない(※)ので条件は少し違ってくるでしょうが。(リニアは分岐器ではコンクリート製の直線状の短いガイドウェイを蛇腹式につないで「カクカク」とした曲線を作ります。トランスラピッドは一体構造の鉄製のガイドウェイを曲げて滑らかな曲線を作ります。分岐側への通過速度は、リニアは100㎞/h以下、トランスラピッドは200㎞/h。リニアでは基本的に普通の鉄は使えません。)
トランスラピッドではガイドウェイの幅が車体の幅より小さいです。従来の鉄道も車体の幅よりレール幅が小さいです。リニアは逆に台車部分の幅の方が車体幅より広い上に、25m以上の長さの車体全体がガイドウェイの内側を走ります。トランスラピッドは多数のボギー台車を使って、いわば車軸の間隔を短くする工夫もしている。
技術的には比較検討しなくてはならない問題が数多くあるはずなのに、「10㎝浮上だから地震に強い」なんていう「誤解しやすい」ことだけで説明して片付けている。こういう「印象操作」がまかり通っている。
日本向きでないリニア方式
ちょっと長い説明をすると忘れてしまう人がいるので、書いておきますが、実は私も忘れてたんですが、トランスラピッドも時速500㎞/hの運転は可能です。そのうえで、小回りもきき(最少曲線半径1950m)、登坂力も大きいのです(100パーミル)。この二つでトンネルを少なく、また短くもできます。日本向きです。そして、電力消費も少ない(時速300㎞/hでドイツ国鉄ICE3の約70%)。窓も大きく、室内も広い。デザインも良い。しかし、ドイツでは採用されなかった。さてさて、トランスラピッドより日本向きでないリニア方式。このリニアの工事計画を国土交通省が認可してしまったのは非常にまずかったと思います。
鉄道総合技術研究所は、『ここまで来た! 超伝導リニアモーターカー』(2006年)のp119 で、リニアの「案内特性」という項目でつぎのように説明しています。
- 曲線には、内側に傾斜をつけている
- 時速400㎞/hで走るときに中心を通過するように設計
(遠心力と均衡するように) - 時速約130/hで約15㎜内側に、550km/hで約10㎜外側にぶれる(実測値)
- ぶれる限度は40㎜
- 浮上開始速度は、直線では135㎞/h、曲線では150km/hと決定
ぶれる限度が40㎜ということは、40㎜ぶれると支障があるということでしょうから、「ストッパー車輪の突出量」と「若干のゆとり」(無いかもしれない)と「40㎜」を加えたのが、超電導磁石の表面と、浮上コイル(またはストッパー車輪が接触する部分)との間隔だろうと思います。普通に考えれば、最少の半径8000mのカーブでは、ということで、直線部分ではどうなのか、緩和曲線部分ではどうなのかは、多分「機密事項」なのでしょう。
(補足)最初の図解が何にのっているのかの説明を補足していて気が付きました。備考欄の、リニアの方に「ガイドウェイ構造を有する」と書いてあって、右のトランスラピッドの方は空白です。トランスラピッドもガイドウェイを走っているのになぜでしょうか? 多分、ガイドウェイがあるから脱線しない、地震に強いと言いたいからなのでしょう。ちょっとこれは虚偽に近いのではないかと思いますね。これが、「国土交通省」の「交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会」のやることなんでしょうか? 政治不信を招くと思います。
(2017/09/03)