やっぱりイワシの頭『遺伝子組み換えルーレット』

更新:2018/03/29

 3月18日は、"最近は、特に、種子法廃止との関連で遺伝子組み換え作物のことが論じられているわけなんですが・・・。" と書きだしたのですが・・・。「日本の種子を守る会」のリーフレット『種子法廃止 タネがあぶない!』(※)と、農文協のブックレット『種子法廃止でどうなる? ~ 種子と品種の歴史と未来』(農文協編、2017年12月)を読んでみました。

※「日本の種子を守る会」は事務局を移転するのでリーフレットの扱いは一時休止するようです。

 遺伝子組み換え食品が健康に悪い、あるいは自閉症やアレルギーの原因であるという説明や、だから種子法の廃止はまずいのだという説明はありませんでした。

 映画『遺伝子組み換えルーレット』は、種子を守る運動の主旨からは随分とはずれた主張ではないかと思いました。組み換え食品の危険性だけを誇大に主張するのははやり無理があると思います。

 遺伝子組み換え生物の危険性は生物の多様性への危険性ということであって、それは、外来の動植物の問題に近いことではないかと思います。


更新:2018/03/18

『遺伝子組み換えルーレット』はイワシの頭

 最近は、特に、種子法廃止との関連で遺伝子組み換え作物のことが論じられているわけなんですが・・・。

 この映画、実は、2度見ました。明るい背景に明るい色の文字、それがまたちょっと小さい字幕。ナレーションや人物の発言が次から次へとまくし立てるので、字幕の表示時間が短い。日本語吹き替えなしでは内容を把握できません。現にこの映画を扱っているアジア太平洋資料センターは、"『遺伝子組み換えルーレット』の中には情報が満載。とても一度見ても、わからない。もう一度、その中身をじっくり勉強したい。そんな人のために字幕テキストを冊子としてアジア太平洋資料センター(PARC)が発行しました" とこの映画の大きな欠点を認めているではないですか(Googleキャッシュ ※)。これをみて遺伝子組み換え作物や食品が危険だと言えるのは、英語が得意でない限りは、「前判断」や先入観があるからだと思います。

※ 検索で出てくる URL は http://geneticroulette.net/textbook なのですが、クリックしても、「このページは動作していません geneticroulette.net では現在このリクエストを処理できません。」(Opera)、または、「HTTP 500 エラー 申し訳ありません。Web サイトはこのページを表示できません このサイトではメンテナンス中であるか、プログラミング エラーが発生している可能性があります。」(エッジ)、「このページは動作していません geneticroulette.net では現在このリクエストを処理できません。 HTTP ERROR 500」(クローム)という表示が出るだけです(2018/03/18)。なにかまずいことでもあるのでしょうか? などと煽ったりして・・・。

 遺伝子組み換え食品を止めたら自閉症が改善した、とか家畜に両方食わせたら、家畜は遺伝子組み換え食品は選ばなかったなど、むしろ信ぴょう性を疑わせるようなエピソードが強く印象に残りました、いや鼻につきました。後者は真実とすれば、インパクトのある映像になるはず。簡単に撮影できるはずなのに、しかし、映像になっていなかったと思いますよ。インチキ臭さを感じないわけにはいきません。

 品種改良とか進化も結果として生物の形質が変化するわけで、当然遺伝子レベルでも変化は生じているわけです。その点では、遺伝子組み換えも同じと、思うし、例えば、『誤解だらけの遺伝子組み換え作物 』(小島正美編、2015年、エネルギーフォーラム)などをパラっと読めば遺伝子組み換え作物やそれを使った食品の危険性を訴える主張は非科学的、あるいは宗教みたいなものという感じを受ける人は多いと思います。

 上映後の感想を述べあう会では、種を越えてやる、植物と動物を掛け合わせるようなこともするのでまずいのだという人もいました。じゃ、大豆に、どの動物の遺伝子を組み合わせたというような、具体的な例を示しての説明もない、ないし分からない。この映画の中で、遺伝子組み換え技術とその危険性がきちんと説明できている、日本人にとってですよ、できているかどうかは極めて疑問です。またこの映画に共感を覚える方々がその点をしっかり理解できてるかも心細い。

イワシの頭も信心から

 今回のことじゃないんですが、ネットで調べると、ところが、こんな風に立派な感想文を書いておられる方々がいっぱいいるわけです。もちろん彼らは英語が完璧に理解できるか、超人的に視力が優れているのかも知れませんが、そんなことあり得るでしょうか。そういうところが怖い、カルト的だと思いませんか。

 科学的に危険性が説明できていないと批判されたときにどう相手を説得できるかが一番肝心なことだと思います。実はこの映画の中にもそのヒントになるようなシーンがないではない。しかし、鑑賞後の話し合いを聞く限りはそのあたりに誰も気づいていないようでした。情報の伝達の仕方、共有の仕方がまずいのだと思います。だいたい登場人物の発言がきちんと追えないのに良い映画と思うことは、念仏を唱えたり、意味もわからずお経を読んで、ありがたがったりすること、信心や宗教に近い。だから市民運動はダメだと言われるのではないか。まあ闘争じゃなからいいのかと納得したりして。

 勉強する、学習するというのは、自分で考えることなんですよ。教わることじゃありません。人が良いと言っているから、悪いと言っているから、良いとか悪いなんてことは、言っちゃダメです。

 触らぬ神に祟りなしなんですが、こんな記事を見つけました。

遺伝子組み換え作物は「安全」 米科学アカデミーが報告書
日本経済新聞 2016/5/18 7:40
 【ワシントン=川合智之】米科学アカデミーは17日、遺伝子組み換え作物は人間や動物が食べても安全だと結論づける報告書をまとめた。過去20年間の約900件におよぶ研究成果をもとに包括的に評価した結果、がんや肥満、胃腸や腎臓の疾患、自閉症、アレルギーなどの増加を引き起こす証拠はないとした。
 報告書によると、遺伝子組み換え作物は収量には影響しないが、害虫や雑草から収穫物を守り、農薬の削減や農家の収入向上などの効果がある。遺伝子組み換え作物と野生種の交配による危険性は確認されなかった。
・・・

 こんな記事が出ていたわけで、この映画を見て納得された方で気持ちがふらつかない人は何人いるでしょうか? というか、本来なら、このニュースにビックリしそうなメディアや組織が、全米科学アカデミーの報告書に反応している様子がない。ヘイト的ネット言論の一部による「それ見たことか」みたいなページは見かけますが。不都合な真実には目をつぶれなのか。ちょっと検索した範囲ではそんな印象です。この映画は 2012年の作品(日本語版は2015年)ですから、全米科学アカデミーの2016年の報告書が出てこないのは当たり前ですが、2018年の今の時点で何の言い訳もなしに推奨できる作品とは思えません。

(補足 2018/03/20) 米科学アカデミーの報告書についての記事を探してみました。『朝日』2016年5月19日にありました。『信毎』は報道しなかったようです。

(補足 2018/03/22) 毎日新聞も共同電として掲載していました。"遺伝子組み換え作物 大豆など「健康被害の心配ない」"


 文句のある人は、goiken@nbbk.sakura.ne.jp へどうぞ。

コメント

0件のコメント


※ 背景画像はWikimedia Commonsによる