※ このページの内容は、"市民のML(CML)" に投稿したメール "[CML 052592] 転載歓迎 カーブが苦手の優等生・リニア" と同じものです。ただし、図解などを補足、また何か所か訂正と加筆をしました。


更新:2018/05/12

カーブが苦手の優等生・リニア

長文で失礼します。リニアの問題点の第4回の要点:リニア技術の核心部分について安全性の検討が十分行われた形跡がない。直ちに建設は中止すべき。

※ 審査請求・国交省にリニア工事の認可取り消しを求めましょう
http://www.nolineariida.sakura.ne.jp/2018-0416.html

 高速の磁気浮上式鉄道ですでに営業しているのが、トランスラピッド方式の上海リニアです。ドイツが開発した方式です。

 「交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会中央新幹線小委員会」の席上で、委員と国交省の間で次のようなやり取りがありました。

[委員].トランスラピッドとJR東海のリニアは技術的にどう違うのか?
[国交省].一番の違いは浮上する高さ。 500㎞/hを目指す場合、常電導の1㎝浮上は不適切。超電導の方が高速安定性が高い。地震が起こったときのようなことも含めて安定的に走るためには10㎝の浮上高さが必要。トランスラピッドは営業最高速度430㎞/h走っているが、500㎞/hは実現できていない。

 多くの皆さんは、リニアとトランスラピッドと比べて、だいたいこんな感じをいだいているのではないでしょうか。

 技術的にどう違うのか。少し違った見方です:リニアは「浮上」、トランスラピッドは「非接触」。リニアは磁石の同極間で生じる反発力を利用して10㎝浮上して走ります。トランスラピッドは鉄のレールを頼りにしながらも、非接触で走行します。言い換えると、鉄のレールとの隙間を常に1㎝に保ちながら走ります。

 リニア:反発力を利用しているのですから、いわばバネの上に浮いている。左右もバネの力で支えている。とすれば、ふわふわゆらゆらと浮いている。そんな状態でカーブに突っ込んだらアブナイとは思いませんか?

 リニアの宮崎実験線、山梨実験線もほとんど直線だけです。一番きついカーブが半径8㎞。しかも列車の方向をわずかに変えるだけのカーブです(曲線部の延長は短い)。(図解の右)

 トランスラピッドの全長31.5kmの実験線には、半径1㎞と1.7kmのループがあります。ざっとの計算でループ部分の延長は約17㎞。実験線の約53パーセントは曲線部分です。(図解の左)

 上海の営業路線も方向を約90度かえるカーブが3つあり、それぞれ半径が2.3km、4.45km、1.25kmです(図解)。

 JR東海は、左右の浮上・案内コイルを結線しているので、たとえば、車体が右に動けば左に自動的に戻るので、車体はガイドウェイの中心を常に走ると説明しています(図解http://linear-chuo-shinkansen.jr-central.co.jp/ より)。しかし、リニアを開発してきた鉄道総合技術研究所は、遠心力の働くカーブで車体は、設計速度より速い場合にはガイドウェイの中心線から外側にずれるといっています。そういう実験データを示しています。


財団法人・鉄道総合技術研究所『ここまで来た! 超伝導リニアモーターカー』(交通新聞社、2006年発行)、119p より

 JR東海の説明にはちょっとウソがある。

 リニアの半径8㎞というカーブの設定は乗客の乗り心地を考えてのことだと言われてます。またルートが直線になるのは、「時速500kmという高速特性」を活かすためとも言われています。だから、日本では長大なトンネル建設が必要になる。

 一方、トランスラピッドは半径4.5kmのカーブを時速500㎞で走行できるといっています。また、半径の小さなカーブが曲がれること、登坂力(100パーミル)が大きなことから、地形に沿って走れるのでトンネル建設の必要が少なくなるといっています。つまり、日本向き。

 リニアのルート選定で、南アルプスをトンネルで通過するルート、伊那谷や木曽谷を通るルートが検討されました。中央本線沿いに来て伊那谷に入るには、半径約8㎞のカーブで90度以上方向を変えなければなりません。南アルプスルートが選ばれたのは、リニアがカーブに弱いからではないかという疑問がわきます。

参考地図:中央線沿いに来て木曽谷へ入るのためのカーブは半径8㎞でも可。伊那谷には8㎞の半径ではかなり厳しい。費用対効果で決まったと言われていますが、説得力がないと思います。

 南アルプスは付加体が隆起してできた若い山塊。地質は非常に複雑で、多量の被圧水も含んでいます。工事も完成後の維持も大変な困難が予想されます。さらに、南アルプス山中の急峻な谷間を橋梁で通過します。谷の斜面が崩壊すれば橋梁はひとたまりもありません。乗客にとっても運行会社の経営にとっても、極めて危険なルートと言えるでしょう。しかし、それでも、伊那谷や木曽谷へ入るための延長の長いカーブを走行するよりは危険が少ない。

 長いカーブを高速走行中に超電導磁石が磁力を失ったら(クエンチ現象)どうなるか? 左右の支えが突然なくなれば、ガイドウエイの側壁に衝突するのは必至です。JR東海は山梨実験線に移ってからはクエンチは起きていないと強調します。クエンチが起きても大丈夫と説明すべきなのにそうは言わない。例えば右の超電導磁石がクエンチを起こしたら対になる反対側の左側の超電導磁石を強制的にクエンチさせて左右のバランスをとるのだそうです。それは直線を常に走るという条件なら有効かも知れません。遠心力が片方に加わるカーブでは・・・。だから、実は、直線ルートを走るのはクエンチ対策かも知れません。

 リニアは、そもそもそんな危険な乗り物なのではないでしょうか?

 リニア技術は安全性についてきちんと検討された形跡がありません。技術検討の委員会の議事録は公開されていません。リニア新幹線は建設を直ちに中止して再検討する必要があります。

 なお、上海では営業前の試験運行期間の2003年11月12日に、時速501㎞で走行しています。車体の営業最高速度は500㎞です。国交省の500㎞は実現していないは明らかにウソの説明です。(参考)

 ドイツは、どのようにして、常電導方式のトランスラピッドを開発したのか(詳細)。ドイツの採用した常電導方式では、電磁石が鉄を吸い付ける作用を利用しています。1935年に、ジーメンスの技術者が一定の隙間を保ったまま重りを吊り下げる実験に成功しています。電磁石は電流を制御して吸引力を調整できるからです。超電導磁石でそれは出来ませんから、反発力を利用します。戦後になって、日本の新幹線に刺激を受けドイツは従来方式も含め鉄道の高速化を目指す中で常電導方式のいくつかの研究開発が行われました。1967年にアメリカのブルックヘブン国立研究所の2人の技術者が超電導磁石の磁気浮上方式鉄道への応用のアイデアを発表します。JRのリニアが採用している誘導反発方式です。これをうけて、ドイツではジーメンスなど3社が共同で超電導方式の研究開発を始めました。エルランゲンのジーメンスの研究施設に「直径300mの環状試験コース」を建設して2種類の車体で走行試験をしています。しかし、1977年に各社の方式を統一するときに超電導は採用されませんでした。理由は:1.渦電流によるエネルギー消費が大きい(金属の建築資材に制限)、2.浮上・着地用の車輪装置、超電導磁石の冷却装置など余分な車上装置が必要、3.乗客や持ち物に対する強力な磁場の影響が不明、4.全ての運転状態での快適な乗り心地を得るための技術が未解決、5.低速時の磁気抵抗の問題、をあげています(詳細)。ジーメンスもトランスラピッドの開発に加わっています。さて、日本は常電導方式をどこまで研究したのでしょう?

 事実上、超電導方式を実用化に向けて開発を続けているのは日本だけです。それを日本の技術レベルの先進性ととらえるか、高速増殖炉(※)の開発に最後までこだわり続けた日本の技術の視野の狭さととらえるのか。

※ もんじゅは2016年12月に廃炉が決まりました。「日本だけ」はちょっと不正確でした。しかし、ドイツと比べるとこだわっていたのは明らか。以下、ウィキペディアによる、世界各国の高速増殖炉の開発状況。

高速増殖炉は1980年代まで、ウラン燃料の有効利用促進のため米国、フランス、ロシア、イギリス、ドイツ、日本などで積極的な開発が進められてきた。しかし1990年代前半に米国の実験炉FFTFとEBR-IIの運転停止、1991年ドイツの原型炉SNR-300の建設中止、1994年英国の原型炉PFR運転中止、1998年にはフランス実証炉スーパーフェニックスの運転中止などが相次ぎ、日本でも「もんじゅ」のナトリウムもれ火災で運転が中止される。1990年代には高速増殖炉の開発は停止状態となり、フランスを除く欧州各国は高速増殖炉の開発を中止した。今なお、日本、ロシア、中国、インドが開発を行っているが、ロシアを除く国では実用化は大幅に先送りされている。ロシアでは、2014年6月に実証炉の臨界が行われた。商用炉の運転は2020年を予定していたが、2025年着工に延期されている。