更新:2019/03/31

リニアと選挙

 長野県議会選挙が告示となりました(『南信州』29日15時42分)。ネット版のこの記事は30日の第1面の記事と同じでした。『南信州』は飯伊の8人の候補の第一声の主張をそれぞれ3行ほどにまとめています。5人が、"リニアの好機を"、"リニア時代を見据えて"、"リニアを踏まえた"、"リニア開業までの"、"リニア時代を見据えた" と。そして、"飯伊区では、阿部県政の評価に加え、8年後に開業が迫るリニア中央新幹線を見据えた地域づくりの指針、深刻化している人口減・少子高齢化対応などが争点になるとみられる" とまとめています。

 さて、政治的な主張にかかわらず、リニアは実現できるか、できないのか、きちんと考える必要があると思います。

リニアの実現可能性は?

 この日の文化放送の「大竹まこと ゴールデンラジオ」では、金子勝立教大学特任教授が、リニアについて、「会計検査院が立法考査局に調査を命じた。南アルプスのトンネルが、中央構造線という断層を通るために崩壊の恐れとか異常出水、水が出るとかあるから、工事は極めて難航を極めるという報告が出てきた。だから辺野古と同じだ。リニアも3兆円の国費を入れているがそんなものでは済まない。10兆円ですまない。」など、太田英明アナウンサーは「(多額の費用を)突っ込んだところで出来るかどうかも定かでない」、室井佑月さんは「最初の計画と違っていて、結局速度が遅くなるかも知れない」など語っていました(ポッドキャスト)。

 これは、たぶん、国会図書館の調査及び立法考査局が2018年10月に「リニア新幹線の整備促進の課題―トンネル工事が抱える開業遅延リスク―」というレポートを出したことについて言っているのだと思います。レポートは、国会図書館の調査及び立法考査局が会計監査院の決算検査報告書を調査した結果で、上越新幹線の中山トンネルの工事が難航したことについて、ルート決定前の事前の地質調査が不十分だったことを指摘、リニア新幹線の南アルプスルート決定前の事前の調査についても十分といえるのか疑問を投げかけています。中山トンネルは新幹線の本線の規格に適合する曲線半径で建設することが出来ず、中山トンネルでは時速160㎞に減速して走行しています。また、1971年着工、開業は1976年の予定でしたが、1982年11月になってやっと開業しました(⇒ 詳細)。

 静岡県では、リニアは、大井川上流部でトンネル工事で大量の水が減少することが予測されるので、静岡県の了解が得られず、着工できていません。静岡県とJR東海の協議の中で分かってきたことの中に、減水が予想される部分について、静岡県内であるにもかかわらず、調査が難しいという理由で、JR東海が、山梨県側の調査資料をもとに減水を予測していたことがあります。静岡県の副知事は調査が困難な場所にトンネルを掘ろうとするJR東海の態度を強く批判しています。

 地元では、第二の中津川線になるのではという声もあります。現在、中津川線は、飯田市山本の二ツ山トンネルとその前後に線路用の盛土、久米川(くめがわ)の橋梁の橋台などの残骸が見れます。高架部や駅など在来線とは比較にならない規模の残骸が各地に残される可能性があります。

消費税増税は?

 『南信州』30日の第2面により詳しく第一声を伝える記事があり、7人の記事に「リニア」というコトバが出ていました。実際には残り1人の候補もリニアについて言及しています。つまり、候補の主な主張を『南信州』がまとめているわけです。6人までが、リニアの時代を肯定的にとらえています。1人はリニアで夢のある地域と言われるが現実は厳しいと指摘しています。『信毎』3面「合区 乱戦挑む8氏」(※)によれば、別の1人は、トンネル残土の処分先が決まるまでは掘削を中止するよう訴えたことになっています。リニアの夢に託すよりもっと大事な問題があると主張している2人以外は、「リニア任せ」「リニア頼り」の訴えをしているわけです。あるいは、リニアの価値について判断を避けているのです。工事が始まって種々の弊害が現実のものとなって来た現在、リニアに肯定的な主張がまだ受け入れられると考えている6人の候補は有権者を馬鹿にしていると思います。

※ 『信毎』の第一声の一覧記事でも、この候補については「リニア」というコトバは出ていません。この候補と共に自民党以外で政党候補と明示している1人についても「リニア」というコトバは使っていません。国交大臣と同じ党派ですから、リニア推進のはずですが、リニアの恩恵から遠い西部地域の出身ということもあるかもしれません。

まず現実の問題があって、夢が来る

 『南信州』30日第2面によれば、第一声で消費税増税について反対を主張したのは、『信毎』がトンネル残土の問題を指摘したと書いている候補者だけです。迫る消費税増税とトンネル残土の安全な処分の問題は現実です。それが解決できなければ夢はあり得ない。