更新:2019/05/26
ガイドウェイの数字
飯田線、313系電車、軌道幅1067㎜、車体幅2978㎜
少し前から目次ページの左の欄に「リニアの数字… 3300㎜」というリンクを置いています。リンク先にあるのは、「浮上式鉄道ガイドウェイの研究と技術開発」という題名の橋本渉一さんという方の土木学会論文集No.619(1999年4月)に掲載された論文です。図面に「面白い」ものがあったのでリンクをはりました。
軌道の幅が車体幅より大きい
(「浮上式鉄道ガイドウェイの研究と技術開発」より)
3ページの図3。ガイドウェイ両側の向かい合った浮上案内コイル同士の間の長さが3300mmになっています。つまりこれが「軌道の幅」、「軌間」なのでしょう。
ちなみに新幹線は軌間が1435㎜で車体3m36cm(N700系)、座席は5列。軌間1067㎜の在来線では、JR東海の313系が2m97㎝8㎜、座席4列。リニアの場合、エルゼロ系では、車体幅は2m90㎝、座席4列です。
線路幅が3倍もあるのに、リニアの車体の幅は在来線よりも狭いのです。なにか無駄な感じがします。トランスラピッドもリニモも、鉄道ほどではないですが、車体幅の方が軌間より広くなっています。トランスラピッドの車体の幅は3.7m(座席6列)で、ガイドウェイの幅は2800mm、リニモは車体幅が2.6mで、レール中心の間隔が1700mmです(※)。
※ "Dynamic Simulation of the Maglev Guideway Design",by Ren Shibo,p21。正田英介ほか共著『磁気浮上の技術』p119。Ralf Roman Rossberg著『磁気浮上式鉄道の時代が来る?』、p110。
(Wikipedia)軌道の幅が車体より狭いトランスラピッド。リニモについてはこちらの画像がわかりやすいです。
空気抵抗と騒音
リニアは軌間は3m30cm、ガイドウェイと車体の隙間はおそらく10㎝なので、台車の幅は3m10㎝です。車体の幅が2m90㎝ですから、台車部分は車体から左右に10㎝ずつとび出していることになります。これは面倒なことを考えて計算する必要はない。写真を見れば分かりますね。実際そうなっているんだから。
丸で囲んだ部分が凸凹している(山梨県立リニア見学センターのHPのリニアの写真の4段目左端の写真に加工)
ガイドウェイとの間は狭いです。この部分で車体がでこぼこしているので、空気抵抗が増します。エネルギー浪費だけでなく、騒音の原因でもあります。
車輪走行から浮上走行になると車体は沈む
図-3をよく見ると中心線をはさんで左の方が右より少し高い位置に描かれています。左側に「車輪走行」、右側に「浮上走行」と書いてあり、車輪走行から浮上走行に移ると車体が沈むことがわかります。車輪走行から浮上走行に移ると車体が浮き上がると思っている人が多いと思いますが実際は沈みます。
狭いガイドウェイの中を時速500㎞で走る!
ガイドウェイの側面のパネル(ビーム)の高さは1580㎜になっています。ざっといえば、車体の約半分はガイドウェイの中にはまっている感じです。10㎝浮上だから安心だと国交省にいわれても、こんな狭い空間を時速500㎞で走るリニアに乗るのはイヤですね。
常電導のガイドウェイはシンプル
トランスラピッド(上海リニア)とHSST(リニモ)のガイドウェイについても触れています。トランスラピッドについては「非常にスレンダーなPC桁あるいは鋼桁で構成されている」、HSSTについては「非常にシンプルに構成されており」といっています。決して、悪い評価じゃなく、「非常に」がついているあたり、執筆者は、超電導リニアのガイドウェイの「重厚さ」にうんざりしていたのかなって気がします。
「スレンダー」は 「ほっそりしたさま。すらっとしたさま。」、「均整がとれてすらりとしているさま。」(コトバンク)。「シンプル」は 「単純なさま。また、飾り気やむだなところがなく、簡素なさま。」、「むだな点や複雑さなどのないさま。良い意味で、単純なさま。簡素。」(コトバンク)。
12m60㎝?
(「浮上式鉄道ガイドウェイの研究と技術開発」より)
6ページの図9。ガイドウェイの側壁のパネル(ビーム)の全体の長さは「12.600m」、つまり12m60㎝。その下に、「12.580m」と書いてあるのは、いったい何なのでしょうか? 左右の端に「10」という書き込みもあります。この図で見る限りは、コンクリート製品のパネル(ビーム)の実際の長さは12m58㎝で12m60㎝に対して両端で1㎝ずつの「ゆとり」があるのかなと思いました。9mの長さのものもあるみたいなこともいってます。
推進コイルの設置間隔は1796㎜で千鳥に2層になっています。案内浮上用コイルの間隔は898㎜。推進コイルの外側の並びの両端は半分の大きさです。
分岐装置がやっかい
「鉄道システムにおいて複数列車の運行を制御するためには分岐装置が必要不可欠である」ので、山梨実験線では、2種類のトラバーサ分岐(油圧と電動)、側壁移動分岐、「ガイドレール分岐」の4つの方式を配置したといっています。「ガイドレール分岐」の説明はつぎのとおり:
在来方式鉄道分岐器がノーズおよびクロッシングの動作のみで進行方向の振り分けが可能であるのと同様に,ガイドウェイ側壁のない車両基地内で,ガイドレールのみの切替えで進路の振り分け可能な簡易な構造を持ち,低コストを考慮した分岐装置である.
前半の「在来方式鉄道分岐器」の説明では、その構造や動作がちょっとわかりにくいかも知れませんが、この文からは、「在来方式鉄道分岐器」が簡易で低コストだということになりますね。つまり、他の2つの方式はけっこうやっかいな代物だという意味にとれませんか?
また、「ガイドレール分岐」は「簡易な構造を持ち,低コストを考慮した分岐装置」なのですが、「ガイドウェイ側壁のない車両基地内」で使うといっています。超電導リニアは「ガイドウェイ側壁」がない所では自力で走れません。正確に言えば管制室からガイドウェイ側壁の推進コイルに流す電流をコントロールして走らすことができません。なので、車両基地内では専用の、おそらくディーゼルエンジン動力の機関車をつないで走らせることになります。「在来方式鉄道分岐器」は本線上でも駅構内でも車両基地内でもだいたい同じ構造ですむというわけです。
(参考)「数組の車両を、あるいは数本の線路を用いて運転するということになると、たちまち車両をある線路から他の線路に移すという問題が生じるのである。このために必要な分岐装置がきわめて複雑で高価であることを思えば、磁気浮上方式が高速鉄道に取って変ることが決してないだろうということを理解する一助となろう。」(マレー・ヒューズ著/菅健彦訳『レール300 世界の高速列車大競争』山海堂、1991年[原著は1987年]、p100)
超電導磁石の採用そのものに無理がある?
鉄の曲がる(たわむ)性質を利用した「フレックス分岐装置」も検討したようです。参考文献に上がっている、
「超電導磁気浮上式鉄道に用いる鋼製フレックス分岐装置の開発研究」
によれば、ガイドウェイの断面がU型構造であること、超電導磁石の磁力が強力すぎること(磁気抗力)などの点を克服するためにいろいろ工夫をしたようですが、山梨実験線では、コンクリート製の分割したガイドウェイを蛇腹のように曲げるトラバーサ方式が採用されました(※)。トランスラピッドは鉄のガイドウェイをたわませ曲げることで分岐しています。
※ 山梨実験線ではトラバーサ方式の分岐装置で、磁気抗力を減らすような工夫をした桁を一部に試験的に採用したといっています。
考え方がフェールアウト
また、いくら何でも、さすがに採用されなかったようですが、垂直方向に分岐する方式も検討したようです。分岐装置を通過中になにか起これば、最悪の場合には、列車が墜落するという非常に危険(フェールアウト ※)な方式だと思います。これはたぶん執筆者の橋本さんが思いついたことではないと思います。しかし、超電導リニアを開発する人たちの中には、そういう発想をした方々がいたということですから、超電導リニアの安全性についてはちょっと気になるのです。だから、建設は一時やめてとことん検討し直す必要があると思います。
※ 千葉大学の近藤圭一郎さんは、「鉄道車両技術のア・ラ・カルト 16回 :25年前の"25年後の技術"」(『鉄道ジャーナル』2016年11月、p122)に、鉄道総研初代理事長・尾関雅則氏から聞いた話として、超電導磁気浮上方式では「軌道の分岐方式は水平方向のみならず、垂直方向にも可能になる。」と書いています。近藤さんは、故障があれば列車が重力で墜落する基本的にフェールアウトのシステムと評しています。
関連ページ
この文献は1999年のものだし、参考文献も古いのですが、最近のものとして以下もお読みください。ほとんど同じ指摘がありますから…。
- 「リニア新幹線:限界技術のリスク」
2019年2月8日に衆議院第二議員会館で行われた武蔵野大学工学部教授の阿部修治さんの講演の概要。(「ストップ・リニア!訴訟ニュース第15号」、p3~p4に掲載)
なお、『環境と公害』(岩波書店)の夏号のリニア中央新幹線特集のなかで阿部修治さんの最新の論稿が読めるはずです。秋号もリニア特集の予定。