静岡県批判の愛知県知事に愛知県の市民団体が抗議
長野県の南アルプストンネルの工事区間は、静岡県で問題になっている工事区間と隣合わせです。実は、大井川の減水と同じような問題があります。小河内沢の水量が50%から86%減ると予測されています。このことで、長野県企業局の大鹿発電所は大きな影響を受けるはずです。しかし、長野県知事はこの点についてほとんど何も言っていないように思います。
道路を使って残土が搬出できない大鹿村釜沢地区の残土置場の状況。手前は仮置き場、小河内沢を挟んだ奥は荒川荘あとの恒久的な残土置場。小河内沢を挟む残土が崩壊すれば川をせき止めます。
大鹿村内では、まだ作業用トンネルを掘り始めた段階ですが、すでに、恒久的と仮の残土置場は満杯になりつつあるし、それを村外に搬出しようにも、受け入れる場所がほとんどない状況です。静岡県が大井川の減水問題で科学的で慎重な検討を重ねてくれているうちに、長野県や県内の関係自治体は改めてリニアの環境への影響を再検討するべきだと思います。もともとリニアは非常に無謀な事業だったのです。大鹿の残土の問題以外にもいろいろな問題が現実のものとして現れてきています。
静岡県内でリニアの工事が着工できない状況をめぐる大村県知事の発言について、愛知県内の市民団体が抗議をしました。以下、春日井リニアを考える会の川本さんの報告と申し入れ文書です。どちらも掲載のために整形しています。また報告部分の県側の回答のまえに質問内容を補足しました。(申し入れ原文)
私たちは、JR東海が強行しているリニア中央新幹線工事について、様々な問題点を指摘し、中止を求めている市民・住民団体です。
リニア問題についての大村秀章知事宛に「大村知事のリニア2027年開通を県政の優先課題とされるような言動について」申し入れを行いました。
昨日8月19日11時から12時まで 別添の「大村知事の、リニア2027年開通を県政の最優先課題とされるような言動についての申し入れ」文書について、愛知県リニア推進室と意見交換を行いました。「リニアを問う 愛知市民ネット」「リニアを考える愛知県連絡会」いっせい行動大羽事務局長 8名が参加いたしました
愛知県リニア推進室に対しては 申し入れ事項の性格上、大村知事自身との対話を求めて意見交換行いました。
意見交換に応じたリニア事業推進室の担当者は「県の職員である私の発言が県の見解だと受け止めて誤解されないよう」お願いしたいと前提を付けました。
リニア事業推進室の担当者から 申し入れ文書の中の問1から問6までについての回答
(問1 リニア工事で静岡県民の命の水である大井川が減水しても、リニア開業を優先することのほうが重要であるとお考えでしょうか。そもそも貴職が介入できる問題ではないと思いますが、所見を求めます。)
問1 静岡県大井川の水の件について愛知県は当事者ではないので干渉することはできないリニア事業全体の動きの中で大村知事はそういう観点から発言している
(問2 貴職の言動からは、「国策であるから何を言っても通らない」「県民は生命・健康・財産を棚上げにしても2027年開通を目指すのだ」という気持ちしか伝わってきませんが、そういう理解でよろしいですか。県民の安全、安心に真に向き合ってくださるお気持ちがないのならば、そう明言してください。)
問2 知事は県民の財産、生命を守ることは重要であると述べているので議論の余地はない
(問3 貴職は、リニア事業は「国策である」と言われましたが、現実はJR東海の民間事業であるとの理由で事業にかかわる情報が開示されません。「国策である」ならば開示を行うようJR東海に求めてください。また、愛知県情報公開条例の適用も改善してください。)
問3 情報開示について 工事の安全と環境保全を愛知県としてJR東海に求めてゆく 情報公開について条例に従って適切に対応してゆく
(問4 リニア工事で発生する残土の処理、要対策発生土の処理では、県内でも2014年の認可された環境影響評価書から外れているJR東海の対応がされています。環境アセスをやり直すように国とJR東海に求めてください。)
問4 環境アセスをやり直すように国とJR東海に求める点について JR東海は様々な環境アセスを実施するとアセスの中で謳っているので県は守っていただくことを求めてゆくことが重要と考えている
(問5 貴職が、環境影響評価準備書に対して提出された55項目の意見が、事業者たるJR東海によってどこまで配慮されているのか、されていないのかを、貴職の手によって項目ごとに精査してお示し下さい。)
問5 環境アセスで県が提出した55項目について アセスの制度に則ってJR東海がこれまで工事を進めているので 県としては55項目について個別に審査したり、その結果を公表もしないという対応をしている。
(問6 静岡県が設置した「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」こそが、リニア事業において県民のために愛知県で設置すべき組織だと考えます。静岡県を見習って、有識者、県民による中央新幹線環境保全連絡会議を設置してください。)
問6 中央新幹線環境保全連絡会議の設置について 愛知県内においてはJR東海によって順次工事が進められている所で地域的な課題については名古屋市、春日井市と調整を図りながら進めている。県として新たに環境保全連絡会議を行うことは考えていない
これからもJR東海、自治体、地域の皆さんと連携を図りながら工事の安全と環境の保全をしっかりやってゆくように県としてJR東海に求めてゆきたい。
大村知事との直接の面会、申し入れ文書に対する県からの文書回答については上司に伝えておくとの言明で明確な回答はいただけませんでした。
また、県政記者クラブへも「大村知事のリニア2027年開通を県政の優先課題とされるような言動について」申し入れ文書を届けました
大村知事の、リニア2027年開通を県政の最優先課題とされるような言動についての申し入れ
愛知県知事 大村 秀章殿
2019年8月吉日
リニアを問う愛知市民ネット 小林 収
春日井リニア新幹線を問う会 川本 正彦
リニア新幹線を考える守山の会 臼井 泰紀
リニアを考える西区の会 小川 輝夫
中村・リニアを考える会 鳥居 勝
瀬戸リニアを考える会 花田 英夫
冠省 日頃は愛知県政の推進のためにご奮闘のこと、敬意を表します。
しかしながら、JR東海の金子社長が5月30日の定例記者会見で、静岡県との調整難航を理由にリニア中央新幹線の2027年開通遅れの恐れに言及してからの貴職の言動は、リニア工事に様々な不安や疑問を持っている県民にとっては、まさに常軌を逸している感がありますので、以下その理由を述べ、私たちの疑問に対する貴職の率直な見解の表明を求めるものです。
報道によれば、貴職はこの件につき、リニア中央新幹線建設促進期成同盟会の会長として、「2027年度が遅れるということは到底受け入れることはできない」、「(静岡県は)意見を言ってもできることとできないことがある」「(リニアの)ルートが変わることはあり得ない」、「静岡県知事は事業をやめろと言っているに近い」「科学的な根拠がない」「何を言っているかわからない」等々と、内政干渉のように静岡県知事を非難し、また、「リニアは国策であるから、国交省が静岡県を説得すべきだ」と、全く筋違いの発言を繰り返しています。
リニア問題についての静岡県とJR東海との懸案事項は、JR東海が14年4月の「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書」で、大井川の河川流量は工事完成後に毎秒2トン減少すると発表したことに端を発しています。そこで、静岡県は県民の不安を解消するために、大井川利水団体である10市町の自治体の関係者に、学識経験者や専門家を加えた「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」を設置して、JR東海とそれこそ科学的な議論を始めたのです。連絡会議は平成26年の発足以来8回開かれています。近時では、2018年12月中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び自然環境の保全等に関する質問書、2019年6月6日 中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び自然環境の保全等に関する中間意見書が出され、2019年7月12日 「中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する中間意見書」に対するJR東海の回答案が示され、2019年7月30日に回答案に対する質問がされるなど、JR東海と話し合いが地道に進められているのです。
この議論の過程でJR東海の不誠実な対応が露呈しました。まず、毎秒2トン減少するとした根拠が、山梨県側の調査結果に基づくことが明らかになり、実際は2.6トンものトンネル湧水が出るとの可能性も示唆されました。また、JR東海は2014年の環境影響評価書を認可後に勝手に変更をして、「トンネル湧水1.7トンを導水路で椹島へ導いて対応する」「0.3トンはポンプアップで戻す」という案を提示しましたが、「ポンプアップを50年以後も続けて対応できるのか」との疑問にも答えていません。また、「環境影響評価書」によれば、椹島の導水路より上流の大井川源流域の沢が枯れ、流域の生態系への影響が懸念されているのに対し、JR東海は希少な動植物は移植して保護するといっていますが、南アルプスに生息する希少動植物は多くの異種、動植物の中にあって生きているのであり、切り離して移植して保護できるということにはならないというのが、静岡県の主張です。さらに、大井川燕沢に予定されているトンネル工事発生土360万㎥高さ70m×幅360m×長さ1000mの巨大盛土から、土石流が発生することへの住民の不安もそのままになっています。
JR東海は、こうした諸問題に具体的な対応方法も科学的根拠も示さないで、「工事を進めながら対策をとる」と言っていますが、これまでの不誠実さからして、それでは信用ができないというのが静岡県の立場です。そもそも、愛知県知事が横から口を挟む問題ではありません。
リニア工事に関する住民の不安や心配は、愛知県内においても深刻です。
春日井市で内津川の地下堰堤ダム湧水を農業用水に利用している農家では、湧水が枯渇してしまうのではと懸念しています。この地下堰堤は昭和7年に周辺の農家が総出で3年かけて作られ、85年を経た今も100軒の農家で利水組合を作って管理しています。この地下堰堤の下をリニアトンネル工事が行われることになり、トンネル湧水で堰堤ダムが枯渇すると農業が立ち行かなくなるのではと、関係する農民の間で心配する声が上がっています。
リニア名古屋駅開削工事で120人の地権者住民、防災広場建設で東西合わせて330人の地権者住民は住み慣れた土地を追い出され、生業の廃業を迫られるなどの苦難を強いられています。
JR東海は大深度地下使用法の名のもとに通常使用されることのない地下であるとの理由で、リニア路線の1600人の地権者住民に対して、個別に説明も行わないまま工事を進めています。トンネル上の土地は将来、土地利用に制限が起きて地価の下落を招くことが危惧されます。
こうした愛知県民の不安や心配に対して、貴職は口先で、「JR東海には安全対策をしっかりとって進めてもらう」「住民に理解してもらう」と言うだけで、実際にはJR東海のお先棒を担いでいるだけというのが、愛知県政の実態です。リニア開業を優先して静岡県政に横槍を入れている暇があったら、愛知県民のために、次の諸点について態度を明確にされたく、以下のように申し入れます。
記
問1 リニア工事で静岡県民の命の水である大井川が減水しても、リニア開業を優先することのほうが重要であるとお考えでしょうか。そもそも貴職が介入できる問題ではないと思いますが、所見を求めます。
問2 貴職の言動からは、「国策であるから何を言っても通らない」「県民は生命・健康・財産を棚上げにしても2027年開通を目指すのだ」という気持ちしか伝わってきませんが、そういう理解でよろしいですか。県民の安全、安心に真に向き合ってくださるお気持ちがないのならば、そう明言してください。
問3 貴職は、リニア事業は「国策である」と言われましたが、現実はJR東海の民間事業であるとの理由で事業にかかわる情報が開示されません。「国策である」ならば開示を行うようJR東海に求めてください。また、愛知県情報公開条例の適用も改善してください。
問4 リニア工事で発生する残土の処理、要対策発生土の処理では、県内でも2014年の認可された環境影響評価書から外れているJR東海の対応がされています。環境アセスをやり直すように国とJR東海に求めてください。
問5 貴職が、環境影響評価準備書に対して提出された55項目の意見が、事業者たるJR東海によってどこまで配慮されているのか、されていないのかを、貴職の手によって項目ごとに精査してお示し下さい。
問6 静岡県が設置した「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」こそが、リニア事業において県民のために愛知県で設置すべき組織だと考えます。静岡県を見習って、有識者、県民による中央新幹線環境保全連絡会議を設置してください。
以 上