更新:2019/10/17、補足 2019/10/28
老川慶喜著『日本鉄道史 昭和戦後・平成編』
(「リニア鉄道館」にて)
老川慶喜著『日本鉄道史 昭和戦後・平成編』(中公新書 2530、2019年2月25日)を紹介します。著者は、1950年生まれ、近代日本経済史、経営史、鉄道史が専門。⇒ 「web中公新書」の「著者に聞く」の「『日本鉄道史 昭和戦後・平成篇』/老川慶喜インタビュー」
第7章「JR体制下の鉄道」に「リニア中央新幹線への疑念」(p273)という節があります。著者は、「しかし、リニア中央新幹線の建設には、なおさまざまな疑念がある」として、以下の点を指摘しています。
まず鉄道技術としては完成度が低く、
- 環境への影響が不明
- 事故時の乗客の避難の仕方が不明
- 膨大なトンネル残土の処分先が決まっていない
- 福島原発事故後、電力消費が新幹線の3倍が許されるのか
- 人口減少社会に向かうなか、東京大阪を1時間で結ぶ必要性があるのか
- JR東海の全額自社負担が認可の前提のはずなのに、国が3兆円の支援をしたのは約束違反
- 北陸新幹線が東海道新幹線の代替機能を果たすはず
- JR東海が自己資金と言ってるものは、その原資は国民が払った運賃であるし、一方で地方の公共交通が衰退している。そこに莫大な国費が投入されるのはバランスを欠いている
補足 2019/10/28 以下のような、著者の文章を見つけたので紹介します。JR東海が、JR東日本やJR西日本の領域にわたる「中央新幹線」を「超電導リニア方式」で建設できることになった経緯の実体を説明されている部分があります。
…リニアの開発はもともと国鉄の鉄道技術研究所で進められ、1987年4月の国鉄の分割・民営化後は鉄道総合研究所(JR総研)が一手に引き受け、その成果はJRグループの共有財産とされてきた。それが、いつの間にかJR東海が同社の自己資金で中央新幹線を建設し、みずから経営することになってしまったのである。…
… 民間会社が自己資金でやる事業だから、口をはさむ余地はないという雰囲気が広がり、2011年3月には、東日本大震災の直後であるにもかかわらず、国土交通省の審議会は耐震性には問題がないとして建設計画を認める最終答申案をまとめ、同年5月に大畠章宏国土交通相はJR東海に建設を指示した。しかし、リニア中央新幹線にはさまざまな疑念が提出されている。まず鉄道技術としては完成度が低く、環境にどれだけの影響があるのかもはっきりしていない。…