更新:2019/12/31、2020/01/01 一部修正

リニアは「詰んだ」

 かって、従来の鉄道では300㎞/h以上の高速になると粘着力による推進が難しくなるという認識がありました。また、動力の電気を列車に送ることも困難になります。そこで考案されたのが、磁気浮上式鉄道です。それは、リニアモーターで、磁気の遠隔作用を利用して推進させるということ、リニアモーターの固定子を地上の軌道側に設置して集電の困難を克服するというもの。浮上させるのは、結局のところ機械的な摩擦を無くすのが目的です。非接触であれば良いので、浮上量をできるだけ少なくしてモーターの効率を高めるたほうが良いというのが、磁気浮上式鉄道の開発の歴史から導き出された教訓でした。冷凍機や補助車輪、磁気シールド設備など不要な常電導で十分間に合う。もちろん、いつまでたっても鉄の車輪に近い信頼性が確立できない超電導磁石を使わずに済む。これは、ドイツが、超電導、常電導の双方を実用化に向けて開発した過程で得た知識です。ドイツは、常電導方式のトランスラピッドとして1990年代に技術を完成し、2004年から上海で営業路線を開業させました。

 一方、超電導方式は、磁石の反発力を利用していますが、超電導磁石は磁力は非常に強力なのですが、磁力は一定で、時に応じて変化させることができません。磁界の向きも一定です。つまり超強力な永久磁石として作用しているにすぎません。

 磁石の反発力は、バネの反発力と同じです。車体が受ける外力と反発力が釣り合う位置まで、車体が上下に、また軌道中心から左右にずれます。この作用については、JR東海も「磁気バネ」というコトバで説明をしています。そのずれを見込むと10㎝浮上させないと安全に走れません。

 常電導では、ガイドウェイに設置された鉄のレールに電磁石が吸い付く作用を利用しています。電磁石は流す電流を制御すれば磁力を変化させることができます。レールとの距離を一定に保つ制御をすることで1㎝という狭いスキマ(エアギャップ)を実現しています。車体に加わる外力に対しても、スキマの変化を検出するための1ミリ、2ミリ程度の変化だけで、常にほぼ一定に保ちます。

 超伝導磁気浮上方式は、列車の超電導磁石がガイドウェイのループコイルに対して運動するときに、ループコイルに生じる磁界との反発力を利用しています。ループコイルをガイドウェイの地上面に設置する場合、停止状態から加速する際に非常に抵抗があり電力を大きく消費します。そこでJR東海が考案したのが、8の字型に巻いたコイルをガイドウェイ側壁に設置する方式です。この側壁浮上方式では速度ゼロから150㎞/hまでは、補助車輪で、8の字コイルの中心と、超電導磁石の中心をそろえています。こうしておくと、8の字コイルの上下のループに生じる互いに反対向きの起電力が打ち消しあい、結局8の字コイル全体としては磁力を生じないので、走行抵抗がありません。150㎞/hに達し車輪を引き込むと車体が少し沈み込んだ位置で、8の字コイルに生じる支持力と車体の重量と釣り合います。

 この方式で、低速時、加速時の効率の悪さは解消できましたが、カーブの通過性能に問題が出てしまいました。そのために、常電導のトランスラピッド(上海リニア)の最少カーブ半径400mと比較して、超電導リニアは浮上走行では半径8000mという、ほぼ直線しか走れないという、一般的に言えば、交通機関としては問題のある性能になってしまいました。ただし、速達第一、最短距離を最高速度で走るというコンセプトから見れば気になるものではないかも知れません。

 今、南アルプストンネルの工事について、大井川の減水や山の生態系の変化を心配する静岡県とJR東海の協議が上手く進んでいません。ルートを変更せよという意見まで出ています。やはり開業を急いだ上越新幹線では中山トンネルで湧水を避けるために山の中でトンネルを迂回させました。元の設計では半径6000mの緩やかな曲線だったものが、半径1500mという曲線を取らざるを得ませんでした。その結果、計画では260㎞/h走行の予定だったのに160㎞/hに減速して通過することになりました。リニア新幹線でこのような設計変更はできません。山の中の状況はもっと悪い南アルプス。6000mも1500mも超電導リニアでは、150㎞/h以下の車輪走行。本線の途中でそんな区間ができたら、リニアの意味がないのではないかと思います。技術の敗北です。

 少なくとも、名古屋までの開業時期2027年にJR東海があくまでもこだわるならば、2019年末に、リニア計画は完全に行き詰まった。JR東海の実質上の支配者・葛西敬之さんとお友達の安倍晋三さんが「桜を見る会」で「詰んだ」のと時を同じくしているのが興味深いと思います。

 『FNN PRIME』の "トンネル工事で激しい対立 タイムリミットまで7年の「リニア中央新幹線」は本当に間に合うのか?" という記事が、推進派の困惑を良く表していると思います。


 『FNN PRIME』 "トンネル工事で激しい対立 タイムリミットまで7年の「リニア中央新幹線」は本当に間に合うのか?"。

 記事の書き出しは、日本を、もっと強くする。 これが、JR東海という民間企業のこの事業目的、企業の利益とか存続のためでなく。

鉄道は車輪とレールの摩擦により走行するが、高速だと車輪が空転 してしまうので 「超電導磁石」を利用することで、車体をおよそ10cm浮上させ、この問題点を克服 すると書いています。空転して推進力が伝わらないという欠点を克服するために、超電導磁石を利用することで、浮上させた、という理屈になっています。車輪とレールが接触していても高速だと空転するのに、浮上させたら速度ゼロから空転しっぱなしになってしまうはず。執筆記者の技術についての知識はかなり怪しいと思います。超電導には、不思議で神秘的な能力があるからと信ずる人は、こういう説明にうっかりなっとくしてしまうかもしれません。あるいは、記述の矛盾を見過ごすかもしれません。

 南アルプストンネルについて、大手ゼネコンの幹部の相反するコメント:

トンネル工事は通常の人手、費用だと10年かかる。しかも、この工事は誰も経験したことがない場所。間に合わないだろう

と:

最近の技術進歩は著しく、トンネル工事で懸念されている地層や水量の検査を細かく検査しながら、工事を進めることが出来る。具体的な年数は言えないが、2020年前半に着工できなくても間に合う。だが、金はもっとかかるだろう。

を紹介。金を十分出さなければ無理というのが、共通点。後者では、一滴でも水の流出は許さないという静岡県の条件を考慮すれば、やはり無理ということになるでしょう。つまり、あと7年では無理。しかも、試験走行に2年が必要なら工期の残りは5年。

 利水者や静岡県によると、JR東海が十分かつ丁寧な説明をせずに、事業を進めようとしている姿勢が感じられ、わだかまりを解くことはできていないという。 しかし、JR東海側からすると、静岡県からは『利水者などに直接、説明するのではなくて、まずは静岡県を通して欲しい』と説明されていたとの事で、ここでもボタンの掛け違いが見られる。 JR東海は、環境影響評価準備書の説明会、事業説明会を静岡市内2カ所で行ったのみでした。影響を受けるはずの大井川流域の他の市町では行いませんでした。ボタンの掛け違いを言うのならこの辺りにある。

 この記事の要点は、リニアの駅が出来る周辺では2027年開業を見込んで開発が進められている。開業が間に合わないとすれば、多くの関係者を巻き込み悲惨な事態になることは目に見えている。 そんなことになったら困るから、日本を、もっと強くする(?) ために、静岡県は、JR東海の言い分を聞き入れよということなのかなと思いました。科学的でもなく、論理的でもない記事だと思いました。負けると分かって開戦した太平洋戦争。降伏すべき局面が何度もあったのに、2回の原子爆弾投下、ソビエト参戦まで長引かせ、多大の犠牲を強いた、戦前の政府の時局に対する対処を支えた考え方と共通するところがあると思います。これは変えないとマズイと思います。

 田舎だから、村社会で意見が言えないというのは、イクジナサの言い訳にすぎないと思います。しかも本当はそうじゃないと思う。「田舎だから」は本当は、「今の超快適な生活を守るには」ではないか。フォルクスワーゲンに代表さるように、ナチスの示したドイツ労働者の生活水準は決して悪くはなかった、それを享受し続けようとする国民の気持ちがナチスを支えたのだという人もいます。今のうちなら、発言したところで殺されることなど、あろうはずもないのです。はっきり発言した方が良いです。現に、そういう方たちが日々増えていると思います。