更新:2020/01/15、2020/01/21 補足

"リニア中央新幹線の工事が壁に直面している"

 1月14日の『信濃毎日新聞』(『信毎』)の社説 "リニアの工事 通過地域の理解なければ" の書き出しは:

JR東海が進めるリニア中央新幹線の工事が壁に直面している。

 「壁」について、静岡県が南アルプストンネルの静岡工区の着工を認めていないこと、と長野県内で出てくる残土約974万立米のうち処分先が20万5千立米しか確定していないことと書いています。

見直すべきは「JR東海の姿勢」ではなく「リニア計画」

 記事の最後は:

…大都市を短時間で結び、一つの「巨大都市圏」をつくるという。
 壮大な計画の一方、通過地域への対応が後回しになっていた面はないか。JRは、これまでの姿勢を見直すべきではないか。

 残念な点は、社説は事実として「壁」に直面していると書いているのに、JRは、これまでの姿勢を見直すべきではないか とあいまいな表現をしていること。「姿勢」じゃなく「計画」と具体的に書くべきだったと思います。言って見れば、「科学的」、「物理的」に無理と書いているのだから!

 ただし、長野県とJR東海と関係市町村の意見交換会の当日の朝の紙面に掲載した点は評価できます。意見交換会の冒頭のあいさつに立った長野県の担当者も南信州広域連合長も新聞を読む習慣のないことがわかりました。JR東海の宇野副社長を前にしながら、静岡の膠着状況について何も触れなかったので。駅周辺整備やアクセス道路の計画をしているのも、用地の移転交渉をしているのも、飯田市と長野県で、事業が中止、頓挫した時、住民や県民に対して責任があるにもかかわらず、計画の行き詰まりについて心配していないのですかと言いたいです。非公開でなかった冒頭を傍聴した限りは。

河川法の許可が必要な行為 (2020/01/21 補足)

 この社説は次のように言っています。

静岡県が着工を認めていない
理解を得る見通しは立っていない

 リニアの工事の実施計画は国交大臣に認可してもらってやっています。静岡県以外では、住民や地域の理解とか同意については、工事の進み具合の段階に応じて何回か説明会を開いただけで、理解は得たということで、次の段階に進めて、いくつかの場所で実際に工事を始めています。静岡県とはだいぶ事情が違うように見えます。

 この社説の主張がなんとなくぼやけているのは、河川の使用許可について明確な説明がないからだと思います。大井川の河口から島田市神座(かんざ)付近までの約25キロと長島ダムの範囲は国が管理していますが、それ以外は、リニアに関係ある範囲を含め、静岡県の管理です。河川管理者は静岡県知事であって、リニアのトンネルは大井川の下を掘削するので、工事をするには河川管理者の許可が必要です。そういう決りになっている。

 長野県内でも、トンネル残土の問題だけでなく、小河内沢では、県企業局の大鹿発電所の取水口のすぐ上で、最大80%の減水の可能性との環境影響評価でした。静岡に比べると、長野県は、「きちんと対策取ってやってね」と助言するだけで済ましたような気がします。

 さて、JR東海の歴代の社長、会長はほとんどが東京大学の法学部の出身者です。そんな企業がなぜ、このような法律上の問題でつまづいたのか?

 1931年9月18日に、中国の奉天(現在は瀋陽)の郊外の柳条湖という場所で、関東軍(日本陸軍)が南満州鉄道の線路を爆破しました。これを皮切りに、関東軍は中国の東北部(満州)全体を約5か月で占領しました。9月21日に、朝鮮軍(日本陸軍)の林司令官は、関東軍を支援するために、天皇の許可のないまま独断で満州に部隊を出動させました。当時の決りでは違法でした。しかし、結局、関東軍や朝鮮軍の行動は通ってしまった。当時は新聞各紙が「陸軍の非を責めず、世論も陸軍を支持した」(※)からともいわれます。

 JR東海は、しっかりした地質調査、工事方法の検討などしないままで、「トンネルは掘ってみないと分からない」みたいなことが許されると思って、計画を進めてきたのではないか。今は、戦前とは違います。静岡県は決りに従って、慎重に確認や検討をしている。実は、他の都県についてだって同じことがいえると思うのですが、「リニア時代を見据えて」ウキウキしているから、原則や決まりを忘れている。

 静岡県の川勝知事は、リニアには賛成だが水の問題は譲れないと言っています。しかも、法律に定めに基づいて言っている。

 満州事変など中国への進出は、日米開戦へと進んで、結局昭和20年(1945年)の敗戦を迎えるのです。「なし崩しにことを進めると失敗するよ」というのも、昭和20年の敗戦からの教訓だと思います。

 JR東海がリニア中央新幹線の路線と駅の位置を発表したのは、2013年9月18日でした。たまたま偶然なのか、関東軍みたいにどんどんやってしまえという気持ちでこの日にしたのかは分かりませんが、9月18日というのは歴史的にはそういう日です。

『産経』 昭和天皇の87年

つまり準備不足

 「必要なもの」と「欲しいもの」を区別しないと金が追い付かない。収入に限りがあるので、「買える」「買えない」ということも考えなくてはなりません。建設計画でも、「できる」のか「できない」のかを見定めなければならないと思います。南アルプスルートが適切なものかどうか、建設が可能かどうかについて、静岡県が今やっているのは「できる」のか「できない」のかという問題で、それは法律上の権限に基づいている。しかし、これは、本来はJR東海が前もって調べておくべきことであり、国交省が慎重に審査すべきだったはずです。そういう、認可に至るまでの各段階できちんとした調査や検討がされていないから、こうなるのは普通に当たり前だといえます。