更新:2020/06/26、06/28 補足、06/29 補足、06/30 追記

静岡県知事とJR東海社長の会談

 静岡県の川勝知事とJR東海・金子社長が午後1時30分から静岡県庁で会談をしました。会談の模様は県庁のホームページの「ふじのくにネットテレビ」で実況公開されました。詳しい感想は、静岡の方たちが、きっとフェースブックに投稿してくださると思うので、山のこちらの住人としてはざっとの感想を:

欧米ではリニアは不要、輸出もできない

 金子社長が本題に入って、一番初めに話していることは:

 このリニアは、一番の目的は日本経済の中で非常に大きな役割を果たしている東海道新幹線のバイパス、これを作るということが一番大きな役割です。
 東海道新幹線は、いま、このコロナの影響がありますけれども、一昨年までのベースですと1日に48万人の方がご利用いただいている。それから昨年のベースでも1日に378本の電車が動いている。それぞれ1323という座席ですからジャンボ機3個分で50万座席が動いている。世界で見ますと、ニューヨーク・シカゴとか、あるいはロンドン・パリとか、もうみんな一桁違ってずっと下の方の数字になります。まあ、そういうことでですね、新幹線について私たちが話をする時には、こんなに便利になりましたという話をいつもするんですが…

 欧米の諸国にくらべ、東海道新幹線だけでも、ずいぶんと便利すぎるほどの状況だと、金子さんは言ってるわけです。金子社長は、欧米では高速鉄道が発達していないから経済や社会が上手くいっていないとまでは言っていません。金子さんはリニアが必要ないという主張の根拠をまず第一に紹介したといえます。

(2020/06/30 追記) ついでにいうと、『テレビ静岡』の「テープ起こし」は要約した部分があって、「それぞれ1323という座席ですから」という部分は省いています。1323人というのは、現在の新幹線16両編成の定員(座席数)で、超電導リニアの場合は、16両編成なら定員(座席数)1000人、同じく12両編成なら728人です。超電導磁石の強力な磁力(磁界)から乗客を守るため台車の上部に座席を設置できないためです。また空気抵抗や車体の重量を減らすために車体幅が狭いこともあります。輸送力はリニアの方が明らかに少ないです。多分、半分程度になると思います(参考)。災害時などのバイパスにというけれど、ならば、北陸新幹線経由とか、中央線経由というバイパスでも十分なはずです。逆に考えて見ると、現在の新幹線だって12両編成程度で運行してもよいともいえるのではないかと。

 金子さんは、最初、書類を出すのに、ちょっとまごまごしてましたね。面談相手から視線が外れてしまいます。この時点で川勝さんに負けてます。数部の書類なんですから、相手を見ながら、てきぱきと出さなきゃダメです。営業の面談の初歩だと思うんですが。

 秘書(?)の方が、お茶を運んできたときに、その方にお礼の会釈をし、そこで川勝さんとの話のきっかけを作るくらいのゆとりがなきゃと、個人的には思いましたね。

 川勝知事はどうしてもトンネルが掘れない場合にどうするのかと、金子社長に問いました。金子さんは、それに対して全く答えていませんでした。JR東海は本当の危機管理ということを考えていない会社だとわかりました。まあ、だからこそリニアをやろうとするのでしょう。

 最後の方で川勝知事は、水野和夫さんのコメント(*)まで引っ張り出して、今朝の『南信州』のコラムにあった、「オンラインで仕事を済ませればリニアは速いとはいえない。リニアは必要かとの疑問はもっともだ。」みたいなことまで話しています。JR東海の見識の低さと古さがことさら目立ってしまったように思います。

* 『中日・静岡』 2020年6月23日 "リニア 水野和夫・法政大教授に聞く"

 金子さんが今回の会談で最も望んでいた部分、工事再開の細部について、川勝知事に条例で定めのある手続き上の問題だと言われて、金子さんは、きょとんとして、そうなんですかなんて受け答えをしました。即座には何も言えないので担当者に問い合わせさせますなんて言ってました。

 静岡だけが邪魔をしてるみたいなことは言ってもらっては困るという時に、川勝さんは、山口工区の事故だとか、長野県の残土問題とか、各地の工事上のトラブルを細かく取り上げて説明しました。これもJR東海にとってはマイナス。

 川勝さんは、リニアには賛成だといいつつ、リニアに反対している人たちが心配している点のかなりの部分を紹介していました。エコパークの問題とか、南アルプスの地質の特殊性など。

 とにかく、金子さんは、完全に静岡県民と川勝さんのペースに巻き込まれたという印象でした。川勝さんについては評価はそれぞれだと思うのですが、本日の会談を見る限り、器の大きさで金子さんは川勝さんに負けてます。組織でいえば、JR東海は静岡県に負けてます。

 それから、川勝知事は、はじめに、金子さんにしゃべらせてから、後半で自分が話すという形にしてますね。相手の話をまず聞くというのも交渉のやり方の一つ。金子さんは、すんなりはまってしまったと思います。これまで各地の説明会では、JR東海は、自分たちでしゃべりまくって、住民の質問は制限する。JR東海は住民の写真と発言を記録するのに、住民には許さないというやり方でした。そういう形でないと、ことをすすめられない。完全に公開の形でやれば、多くの人々からの納得を得ることができないような計画だとわかってしまう。大義がないのがリニア計画なのではないかと思います。

 フェースブックの静岡の林克さんのコメントをコピーしておきます。

林 克 2020年6月27日 7:39
「リニア 27年開業延期へ」
26日の川勝静岡県知事と金子JR東海社長トップ会談の記事。県との関係性が深い静岡新聞らしく「リニア 27年開業延期へ」と言い切っているのが潔い。確かに6月中の工事スタートはあり得ないから、金子社長のこれまでの言動を前提にすればこうなるか。
論点は多岐にわたるが、これまで言ってきた工事の可否は本体か準備かという論点ではなく、県条例の手続きが必要と法律論で攻めた。ここらのやりとりで静新は27開業は延期と結論づけたのだろう。
川勝「金子社長は静岡県が27年開業の足を引っ張っているかのごとき発言を繰り返している」と他にも問題は山積していると追及したのに対して「静岡のセイだと申し上げているのではない」と歯切れが悪い。
面白かったのは、水の問題など技術的にできないかったらどうするのか?と質すと金子氏は現場を信頼しているとかわしたこと。ここ一番せめてほしくないところか。
もう一つポストコロナでのそもそものリニアの必要性、川勝知事がどこまで言うか注目していた。「反対しているわけではない」との立場は崩さなかった。しかしスーパーメガリージョン(巨大都市圏)構想を実現する必要性がコロナの中で時代遅れ、オンラインの方がリニアより早い。新しい時代に即したものでなければならないと初めて建設の意義に疑義を挟むことを言ったのは評価する。