更新:2020/06/30
"中国リニア、時速600キロ 試験走行、JR記録に迫る" は誤報
6月26日頃、「北京共同」電の "中国リニア、時速600キロ 試験走行、JR記録に迫る" というニュースがありました。結論をいえば、これは誤報です。
【北京共同】中国製のリニアモーターカーが26日までに時速600キロの走行試験に成功した。JR東海が2015年のリニア中央新幹線の試験で記録した最高時速603キロにほぼ追いつき、技術競争が激しくなりそうだ。中国メディアが伝えた。
中国メディアのひとつ『人民網日本語版』の6月22日の記事 "中国、時速600キロのリニア車両がテスト走行に成功" 。もし、600㎞/h で走ったなら、「時速600キロ達成」という見出しになるはず。
時速600キロの高速リニアのテスト車両が21日、上海・同済大学のリニア試験線でテスト走行に成功した。…テスト車両は初の体系的な総合調整を行い、異なる状況(各種軌道桁及びジャンクション、小カーブ、坂道、エリア切り替えなど)における動的運行試験を行った。
と、書いていますから、比較的ゆっくりと走ってカーブや分岐器が上手く通過できるかなどを試験したと言うことです。
試験走行が行われたのは上海の「同済大学」。ウィキペディアには、テストコースの写真やモジュールの実験をしている写真があります。また、中国を代表する磁気浮上式鉄道の開発拠点で構内には総延長1.5kmの実験線が敷設されている
そうです。
『人民網日本語版』に掲載された写真を見ると、走っているのは中間車両です。車体の全部後部ともに平面ですから非常に空気抵抗が大きいはずで、この車体では高速走行は無理です。また、テストコースの全長は1.5kmしかないのですから、600㎞/h で走行するはずはないでしょう。
『人民網日本語版』より。走っているのは、本来先頭や最後尾にはならない中間車両。
『人民網日本語版』より。車体の下部がガイドウェイを抱き込んでいます。
新華社のビデオを見ると、コースにはカーブがかなりあることや、台車(モジュール)が車体の下側全体に配置されている様子などが良くわかります。
車体下部のカバーを外して走っています。ムカデの足のように見える腕の先に浮上用コイルがあって(台車/モジュール)、ガイドウェイ下部の鉄のレールを吸い寄せています。車体の全長にわたって4つの台車があります。
600㎞で走っていなかったんだと安心した方も中にはいるかと思いますが、上海の浦東空港から龍陽路までの区間で2003年11月に時速501キロで走った実績の上でのテストです。超電導リニアと中国のこの方式(トランスラピッド)とどちらが優れているかといえば、よりシンプルな技術で高速走行を実現したトランスラピッドに軍配を上げざるを得ないのではないでしょうか。
日本は、将来の営業線になるようにと、山梨実験線を建設しました。中国の方式は、1970年代から、ミュンヘンやエムスランドの実験線でテストしてきたし、ハンブルグの見本市会場でも体験乗車の路線を設置したこともあるし、上海で営業路線も敷設されたのに、さらにテストコースを設けて実験している。日本の場合はズクがないのか、金がないのか、システムが重厚長大過ぎるのか、知恵があるようでないのかのいずれではないかと思います。
驚いたことに、『産経』26日も "中国製リニアが時速600キロを記録し日本に迫る 国産の事業化へ開発急ぐ" :
【北京=三塚聖平】中国製リニアモーターカーが26日までに、時速600キロのテスト走行に成功した。2015年にJR東海が高速走行試験で記録した時速603キロに迫っており、中国は高速の国産リニアの事業化へ向けて開発作業を急いでいる。
『産経』は「中国紙、科技日報(電子版)によると」と書いています。共同は「国営通信の新華社などによる…人民日報は…」などと書いていますがこれは、『人民網日本語版』と同系列のはず。なぜなんでしょう。