更新:2020/07/07

そもそも無理だった超電導リニア

"時速500キロで営業運転できる「リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)」を開発してね" という課題の正解は超電導リニアではなくトランスラピッド(上海リニア)。常電導など一般的な技術を組み合わせ、よりシンプルに、より速やかに課題を解いたトランスラピッド。

 超電導の磁気浮上式鉄道への応用はもともとはアメリカのアイデア(1967年)でした。JR東海は日本の発想だと言っていますが、実はそうじゃない。超電導方式の開発を手掛けたのは、主なところでは、ドイツのジーメンス社とテレフンケンとスイスのブラウン・ボベリのグループ、日本の国鉄、アメリカのスタンフォード大、マサチューセッツ工科大学、グラマン・ノースロップなど。日本以外は開発を途中で止めてしまいました。アメリカは自動車と飛行機の国と言うけれど、実は約29万キロの鉄道の営業距離は世界第一。役に立たない鉄道(リニアモーターカー)は不要というのがアメリカの感覚ではないかと思います。常電導のHSSTを開発した日本航空も超電導方式を排しています。

 ドイツは1920年頃から基礎的な研究をはじめ1935年頃に常電導方式の基本的な実験に成功し、戦後1970年代から、クラウスマッハイ社、メッサーシュミット・ベルコウ・ブロム社などが実用化に向け本格的な開発をはじめました。1970年代終わりごろ、ジーメンスなどの超電導開発グループも常電導の開発に合流。1980年代半ばにはほぼ実用化を完成(トランスラピッド方式)。その後、2000年ころまでに中国への売り込みに成功。上海のリニアは2004年1月から正式の営業運転を始めました。

 国鉄が分割民営化した1987年の12月、葛西敬之さんはドイツのトランスラピッドの実験線を視察しておられます。当時、日本のリニアの開発状況は、まだ宮崎実験線の時代でトランスラピッドよりはるかに遅れていたにも関わらず超電導方式の開発は続けられました。

 トランスラピッドは、初期のICE(ドイツの新幹線車両)より電力消費が少なく環境面でも配慮があったようで、もちろん超電導リニアより少ない電力消費です。常に浮上しているので、補助車輪が不要。冷凍機やヘリウムも不要。路線の構造物に鉄が自由に使える。常電導のため、磁気対策が容易で客室空間が大で、特殊な乗降装置も不要、軌道への衝撃も少ない。カーブに強く(最少カーブ半径400m)、登坂力も超電導リニアより大きくて、日本の複雑な地形に向いています。営業運転の最高速度は500㎞/hと超電導リニアに比べて遜色はない。中国が同じ方式で時速600㎞運転の車両を開発、走行試験を始めています。

 しかし、省エネを重視すれば、はやり鉄輪式の鉄道に、更に、もう高速は求めないというのが世界の潮流。中国だって急拡大した高速鉄道は全部標準軌の従来の鉄道方式。ネットワーク構成に必須の分岐器の構造が浮上式鉄道では複雑、巨大でコストがかかり、ネックになると数十年前からの指摘がある。トランスラピッドも最近のICEや日本の新幹線に比べるとやはり電力消費は大で、「重い列車を持ち上げて走る無理」という素朴にすぎる指摘を克服できなかったのが浮上式鉄道と言えます。

 リニアについて日本の技術が進んでいると思うのは錯覚。実は1980年代までに、国鉄とJR東海が技術の可能性についての見通しを誤ったのだといえます。その誤りを国交省もたださなかった。ほとんど直線しか走れないから、南アルプスを通過するしかない乗り物は日本向きではないです。60年もかけて、なんで、こんな開発を続けて来たのかと思います。一方、近年、そして今年も、各地で大水害、国土交通省はもっとほかにやることがあっただろうに。

※ 1年前にも似たようなことを書いていたのを思い出しました。ただし、JR東海さんにとって、状況は格段に不利になってきてしまったと思います。 ⇒ 無理に無理を重ねる超電導リニア