更新:2020/09/12

異議意見書

 豊丘村神稲のジンガ洞へのトンネル残土埋め立てに関連して、JR東海は水源涵養保安林指定の解除を申請し、農林水産大臣が解除の予告を出したので、異議意見書を提出しました。(このページでは住所、氏名等は非表示にしています)


13 規則第51条の意見書様式

異 議 意 見 書

20年9月11日

農林水産大臣 殿

住所 **********

氏名 ******** 印

 次の森林に係る森林法第30条(第33条の3において準用する同法第30条、第44条において準用する同法第30条)の告示の内容について異議があるので、意見書を提出します。

都道府県 市郡 町村 大字 地番 面積 実測又は見込 備考
長野県 下伊那郡 豊丘村 神稲
12521の329 3筆について保安林解除合計面積は、9.155ha 3筆について保安林解除調査地図(森林計画図写し)に示された部分に限る
長野県 下伊那郡 豊丘村 神稲
12521の330
長野県 下伊那郡 豊丘村 神稲
12521の440

異議意見書の内容及びその理由

○ 保安林指定の解除はすべきでない。

○ 以下理由を5点述べます。

(1)盛土の安全性への不安と恒久的管理の困難

 長野県内において、谷に100万立米を超える大量の土砂を埋め立てる開発は、おそらくこれが開闢以来はじめてのことと思います。治山治水の上で想定外のことと思います。谷が現在の地形になるのに何千、何万年の時間を要したかを考えると、保全部会での審議内容やこれまでの説明会におけるJR東海の説明では、県民として安心はできません。また生態系に対する影響も心配です。

 谷を埋め立てるということは、自然の摂理に逆らうことであるので、本来行わない方が良いと指摘する治山や土木の専門家がいます。少量を分散して安全に置ける場所はないではないが、大量の土砂をまとめておくのは論外と指摘する専門家もいます。

 JR東海は、これまでの何回かの説明の中で設計を変更しています。つまり完全な設計というものがあり得るのでしょうか。6月9日の保全部会のおり、現状で考え得る対策は強化されていると評価した保全部会の専門家も、「解除を適切と判断したのは、JRが工事後も管理を行うとの認識が前提だ」(『信濃毎日』6月10日)といっています。それは、JR東海が企業として未来永劫に継続することを前提としていると思いますが、そんなことはあり得るでしょうか。

 指定を解除せず、現状のように水源涵養保安林として管理を続ける、安全面、財政面でもこれまでのノウハウが活かせること、継続性の点でこれに勝るものはないでしょう。保安林として指定することの公益性はこの点にこそあると思います。JR東海は4-6月期で赤字に転落しました。新型コロナに関連してこのままの経済状況が続けば、JR各社の赤字の総額は年度末までに、国鉄分割民営化直前のレベルに達するという予測もあります(『日経ビジネス』8月24日 「JR、国鉄末期並みの赤字 苦肉の策の半額切符」)。経済状況に左右される民間企業が防災上の安全のために恒久的に管理を継続しうる可能性はないと判断すべきです。保全部会の解除は適切という判断は妥当ではありません。

(2)「一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業」ではない

 今回の解除については、森林法第26条2項に基づくもので、公益上の理由で解除が必要な場合で、具体的な判断としては、土地収用法の適用申請が可能な事業で、「イ.国等以外の者が実施する事業のうち、別表3(※)に掲げる事業に該当するもの」で鉄道事業法による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業にあたると説明されています。

 今回、JR東海から解除申請が出された地域は工事期間中のトンネル残土の処分場であるので「一般の需要に応ずるものの用に供する施設」にあたるとはいえません。開業後は使いません。もともとJR東海は残土を埋め立てる間だけ借りてあとは返すといってきました。つまり、リニア新幹線開業後に鉄道事業の「一般の需要に応ずるものの用に供する施設」にあたらないことは明白です。

※ 『保安林林地開発許可業務必携 基本法令通知編』= 「保安林及び保安施設地区の指定、解除等の取扱いについて」(45林野治第921号 昭和45年6月2日)

(3)本山でなければという理由はない

 解除の要件に、「当該転用の目的及びその性格等にかんがみ、その土地以外にほかに適地を求めることができないか、又は著しく困難なこと。」とありますが、JR東海によれば残土処分先の候補地は発生量以上にあるとしています。谷は長野県内にはいくらでもあります。少量を分散しておけば安全に置けないことはないという見解もあります。リニアの建設工事関連のほかにも道路整備等の公共工事での使用の可能性もあります。JR東海はトンネル発生土(残土)は有用な建設材料だとも言っています。そんな有用な資材を谷に捨てなくとも、利用先を見つけることもできるはずです。また、天竜川は佐久間ダムなどにより砂が海に流れないので、愛知県から静岡県にかけての太平洋側の砂浜がやせてしまいました。自社の線路を使い海辺へ運び砂浜の復興に資する方法もあるはずです。住民が嫌がる、客観的には水源涵養保安林の有する公益性を損なうことになるジンガ洞への残土埋め立てに「その土地以外にほかに適地を求めることができないか、又は著しく困難」という理由は適用できないといえます。

(4)地権者の受入れの決定に疑義がある

 本山については地権者の本山生産森林組合が一旦受け入れを決定したものの、長野県は決定の過程に問題があるとして、決定を白紙に戻したという経緯がありました。設立以来の運営の不適切も判明し組合の立て直しがはかられました。さらに、組織を地縁団体に組織替えをしました。各段階では不正を正そうとする人々の意見がことごとく潰されてきました。また受け入れに対する反対の意見も押さえつけられてきました。民主的な話し合いによって事が決まったとは言えない状況があったと思われます。不適切な運営が行われていた当時の組合長が地縁団体の会長におさまっていることは、一般通念上理解しがたい状況であり、この間の経緯は全てが残土受け入れのために行われたと推察できます。これは、理由の第1項目から第3項目で述べたことがらを議論の俎上にのせないためであったともいえます。

(5)実現の確実性は盤石とはいえない

 JR東海は実現の確実性の一つの証拠として国交大臣による建設工事の認可書を示しています。この認可については認可取り消し訴訟が東京地裁で係争中です。林務課は「鉄道事業法」という言葉を使っていますが、国交省はリニア新幹線は全幹法のみで認可が可能だとしています。鉄道事業法で規定されているような、運行上の安全性とか事業の採算性などを担保する規定は全幹法にはありません。磁気浮上式鉄道については法的には名古屋のリニモ(吸引磁気方式)を念頭とした規定があるだけで、まったく方式がことなる超電導リニア(超電導磁石を用いた磁気誘導反発方式)については規定がありません。安定的な運行に不可欠のものとして、液体ヘリウムが不要な高温超電導の導入が課題とされているのにいまだに実現できていないなど、いまだに技術上開発途中にあるのですから当たり前のことです。原告側は鉄道事業法に基づかない認可は不当だと主張しています。裁判所は、全幹法で認可できるとしても、安全性を保証するとことは必要であり、認可に至る各段階において瑕疵があれば自動的に認可は違法とするという枠組みで審理することを提案しています。

 リニア新幹線の技術を評価した「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会」の議事録は公表されていないし、一部については開催時期も記録がありません。交通政策審議会の中央新幹線小員会においては、国交省側により、委員に対して明らかに誤った情報提供がなされた場面もありました。今後の訴訟の進行の過程で認可に至る各段階における瑕疵が提起される可能性もあります。

 現在、南アルプストンネルの静岡工区はトンネル掘削に着工できない状態にあります。大井川の減水問題についての静岡県とJR東海の協議も解決に至る見込みは立っていません。水資源への影響回避のためにルート変更の声も出始めています。ルート変更となれば、伊那山地トンネルが、ひいては本山の残土置場が不要となる可能性もあります。

 南アルプストンネル長野工区について、当初、JR東海はトンネル掘削の期間として約10年を想定していました。そのためには、トンネルを1月当たり約57m掘削しないと10年で終了しません。しかし、現状において、掘削のペースは40m程度です。トンネルの掘削の完了までには、いまのペースが維持できたとして2032年頃までかかるでしょう。2027年の開業目標は静岡県の問題がなかったとしても限りなく無理に近いものでした。これは、JR東海の建設計画に先立つ調査不足、準備不足が原因です。工期がのびれば、経済情勢も変わることは、当初から指摘のあったことですが、新型コロナの感染拡大で急速に現実のものとなってきました。鉄道事業は多額の負債を抱え込むような事業投資が可能な事業でないことは、国鉄が多額の赤字を生んだことから学んだ教訓です。国交大臣や豊丘村村長などの紙片だけで実現の確実性を証明することはできません。

(結論) 県民として谷埋め盛土についての心配は拭えたとは思えません。一民間会社の継続性を考えた時、結局は最終的には長野県が維持管理にあたることになるし、予定地より下流部分の対策等も長野県がすることになり県財政にこれまでと違った負担が将来生じる可能性があるでしょう。残土処分場は鉄道事業の「一般の需要に応ずるものの用に供する施設」とは言えないうえに、ジンガ洞でなければという確たる理由もありません。以前から指摘されていた事業の実現の確実性への懸念は現在現実味をおびてきました。したがって、保安林指定の解除はすべきでないです。リニア工事の残土置き場としての公益性と水源涵養保安林の公益性を秤量すれば、水源涵養保安林の公益性が圧倒的に上回るのは明白です。さらに、このまま解除されるとすれば、地権者の受入れの決定過程に多くの疑義があったことも豊丘村の住民の間に将来の禍根を残すことになると思います。

なお、長野県の林務課は異議意見書の提出の資格について、土地などの権利にに限っているように思えましたが、異議意見書は行政処分に対する審査請求書と同等のものと考えられるので、当方に林務課のいうような資格はないですが、虻川と天竜川の合流点の対岸に住み毎朝虻川の谷を眺め暮らす長野県民の提出した書面として受理願いたいと思います。ただし、幾分か関連があるとすれば、下伊那漁業協同組合の組合員であるので、下伊那漁業協同組合出資証券の写しと住民票を添付します。遊漁者として、昨今、天竜川本流での魚影はほとんど見られず、渓流に釣行することになります。虻川もその対象の一つであり、その環境が変わることは残念です。組合の入漁料収入にも影響が出るはずです。

以上。