更新:2021/01/18、01/22 追記
中国の高温超電導方式リニア
最近、中国で高温超電導磁石を使った磁気浮上式鉄道の車両のプロトタイプが完成して公表されたという内容のニュースが流れています。例えば:
- 『AFP BB ニュース』14日 "高温超電導高速磁気浮上式鉄道車両のプロトタイプ公開 設計時速620キロ"
- 『AFP BB ニュース』16日 "時速620キロ、中国の高温超伝導高速リニアモーター試作車が完成"
公表された場所は成都の南西交通大学。HPにこの話題(トップページのバナーのリンク先)がのっていました。
その説明によると、この技術の要点は:
- (1)液体ヘリウムを使わない液体窒素の冷凍機だけで達成できる低温で作動する超電導磁石を用いている
- (2)浮上に関しては制御を伴わない
- (3)浮上量は10~30mmで低いほど指数関数的に支持力が強くなる
- (4)速度に関わりなく浮上している
- (5)推進についてはロングステータ―方式(地上一次方式)
- (6)軌道側には永久磁石を敷き詰める
- (7)ピン止め効果を利用(!?)
- (8)身体への磁界の影響はない
つまり、JR東海のリニアのような、誘導反発方式ではないはず。山梨見学センターにある超電導コースターみたいなものかなと思います。
軌道全線に永久磁石を敷き詰める必要があるようなので、トランスラピッド方式とかリニモ方式よりコストが低減できるかは疑問。将来的には気圧を下げたパイプの中を走らせる構想もあるとか。
中国国内では、一方で「中国中車」がおそらくトランスラピッド方式と共通の方式で時速600㎞で運行する原型車両を2020年から上海の同済大学で走行試験(※)を始めています。
※ 同済大学嘉定キャンパスの試験線で600㎞/h運行予定の磁気浮上列車の原型の試験走行に成功 (Successful test run of 600 km/h maglev prototype train on test trackat Jiading campus of Tongji University)
たぶん南西交通大学のほうはまだ基礎研究の段階に思えます。高温超電導物質で交通機関で実際の使用に耐えうる信頼性のものができたということであれば(※)、JR東海と鉄道技術総合研究所の開発は、トランスラピッドに先を越された上に、また遅れをとったということになりますね。「JR東海寄り」の記事を書いてきた科学技術ライターや鉄道ライターは「そんなことできるはずない」と反論すべきでしょうね。
※ ピン止め効果を利用する場合はクエンチの影響が少ないなんてことがあるのかも知れませんが…
いずれにしても、従来の鉄の車輪を使った鉄道方式以上に優れたのものではないと思います。ヨーロッパではもうそうなっているように、高速鉄道の最高速度が250㎞/h程度で十分という考えが広まれば、そもそも、従来の鉄輪方式で間に合います。浮上式鉄道は不要です。世界の鉄道車両の業界も、最高速度よりは環境性能重視になってきています。
なお、鉄論方式で、従来の新幹線方式で中央新幹線を建設するのであれば、建設の優先順位は一番最後と決まっています。
補足 2021/01/22
高速鉄道に「軍配」が上がった
『東方新報』21日 "中国で高速リニア試験開始 将来の目標は時速1500キロ!" に面白いことが書いてありました。
中国のリニアといえば、最高商業速度430キロを誇る上海市内のリニアが有名だ。ただ、上海リニアは、中国が長距離交通網を全土に整備する際、日本の新幹線のような高速鉄道かリニアにするか検討するために試験的に導入された面があった。上海リニアはドイツの技術を採用している。結局、リニアは高速鉄道の3倍ほどのコストがかかり、技術的な難題もあるため、高速鉄道が採用された。今や高速鉄道網は全土で約3万キロに達し、車体やシステムの国産化が進み、営業最高速度350キロの路線もある。逆に上海リニアは新型コロナウイルスによる需要減などの影響で、営業速度を300キロに落としている。
いわば高速鉄道に「軍配」が上がった中で、リニアの開発を進めているのはなぜか。
… もちろん課題はまだまだ多い。中国科学院の研究者は「レールや車体の材料は安全性の観点から厳しい要求が求められ(*)、建設費や維持費は膨大となる。…
注*: たとえば、従来の鉄道の車輪やレールに相当する、磁石だとかコイルについては、車輪やレールと同じ信頼性や安全性が求められる、というような意味だと思います。