更新:2021/01/18、2021/01/19 補足2021/01/20 補足2021/01/21 補足

除山斜坑でトンネル掘削再開

 南アルプストンネルの長野工区の除山斜坑と釜沢斜坑は、7月豪雨のあと、現場まで行く県道の地滑りや、工事ヤードの被災のため、トンネルの掘削が中断していました。当サイトでは3月末までは再開はできないだろうなどと書いてきました。

 たまたま行き会った釜沢にお住いの方から聞いたのですが、除山斜坑のトンネル掘削が今週から再開されるようです。ということは今日(18日)からなのかどうか。地滑りの対策も続いているし、ヤードの復旧もほとんど進んでいないのにというと。地滑りの場所は何とか通してもらって、できる範囲でやるんだそうです。

こういうニュースは、NHK が元気よく素早く伝えています。『信州 NEWS WEB』"リニア 豪雨で休止の掘削再開へ"。

 なにか、JR東海さんは、困った時に慌てる傾向があるように見えて仕方ないです。県道59号の西下トンネルの大鹿側の出口付近で工事中に山の斜面が崩落する事故がありましたが、この時はどうもJR東海さんが急がせたからだろうと言われています。中津川の陥没事故なんかも。で結局、ずいぶん余計に時間がかかってしまった。

 一般論としてですが、慌てると失敗するから、急がば回れなんていうんです。思わぬ場所でとんでもないこと、今までのところ、出水で困ったという報告はなかったように思いますが、例えば、異常出水とかがあるとも限りません。そういう心配はないのかなと思いますね。

 どうも、JR東海さんは、現場や専門家の声を聞かずに、上の方で、できるはずだという精神主義で押し通そうとするみたいなところ。組織として旧日本軍みたいなところがあるのかな、なんて思います(兵站の専門家の参謀が補給が間に合わないからと反対したインパール作戦、だいたい工業力が20倍のアメリカとの戦争は無理だとの調査結果があったのに開戦してしまったことも)。長野工区のトンネルの掘削ペースは現在だいたい1か月に40m程度ですが、当初予想の3分の2程度で、工事期間が倍はかかるとか3倍かかるよという批判的な予測に対してはけっこう速いと言えないこともない。静岡県の問題が解決しない限り、どうにもならないんですから、もう少し慎重にやった方が良いんじゃないかと思います。ああそうそう、地滑り対策で水抜きをしている山の中をリニアの本線のトンネルが通ります。

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(画像拡大)

 上の地図で集落のある場所をオレンジ色の丸で囲っています。一般に山の集落は湧き水の場所より下にできるようです。この釜沢集落の水源も集落より上にあるのではないかと思います。ということは、この山はそこそこか、多量にか分かりませんが水を含んでいるという可能性もあるのではないかと思います。

 山の湧水というのは、山の中に水瓶のような部分、があって、それは、粘土層で囲まれた破砕帯なんかですね。そういう場所が、水をためていて、所々から湧き水としてしみ出していても、入ってくる雨水の量との釣り合いで水が出続けているそうです。ところが、トンネル工事などで水瓶みたいな部分に穴をあけてしまうと一気に水が出てしまって、収支のバランスが崩れてこれまで出ていた水源が枯れてしまう。トンネルによる水枯れの仕組みはおよそそんな感じのようです。

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 釜沢地区の水源(所沢)については渇水を心配して代替水源を確保した上で釜沢斜坑は工事を始めたはずです。どちらも同じ山から出てくる水です。そして同じ山の中をトンネルが通る。どっちも枯れてしまう可能性もあることはないのか心配です。JR東海さんはそんな事気にしてないと思いますが、現場で工事をしている人たちは心配しているんじゃないでしょうか。新聞社の記者さんたちはそんなことは考えないのかなと思います。

 まさかとは、思いますが、考えているうちに心配になってきましたよ。現場から無理だという声があったらJR東海さんはちゃんと聞かなきゃダメだと思います。

 水枯れの心配があるということは、トンネルに水が出てくる心配があるということ。上越新幹線の中山トンネルでは、山の中にあった巨大な水瓶を避けるためにトンネルを大きく迂回させた結果急カーブになって新幹線なのにスピードを160㎞に抑えて走っているそうです。


NHKの報道について

 NHKのHP『信州 NEWS WEB』のニュースは動画付き。この動画の中で使われた映像は、JR東海のリニア中央新幹線のページにあるルート地図と、JR東海提供の2枚の写真。つまり、NHKは現地を取材していない可能性が非常に高いです。地滑り箇所の水抜き工事はまだおこなわれているはずで、完全に復旧したわけでないのに、NHKは、県道の復旧が終わり安全が確認できたとしてJR東海によりますと、県道の復旧が終わり、工事用車両が通るうえでの安全性も確認できたため、18日から資材の運搬を再開し、19日からトンネルの掘削作業を再開するということです と書いています。ページ冒頭で書いた住民の方の「何とか通してもらって」という言葉と随分印象が違います。

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JR東海のHPにあるルート地図からNHKが引用したもの

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JR東海提供の写真。三岐通運のセメント運搬車がうっすら雪の積もった道路を走っています。トンネル内で使うコンクリートは工事ヤードのプラントで練るので粉セメントが必要です。この場所が県道の地滑り箇所なのかはちょっとわかりません。

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JR東海提供の写真。NHKは説明していませんがこれは釜沢斜坑。

リニア 豪雨で休止の掘削再開へ

信州 NEWS WEB 2021年01月18日 17時25分

 リニア中央新幹線は、去年7月の豪雨で県道が損壊するなどした影響で、大鹿村での作業用のトンネルの工事が休止となっていましたが、県道の復旧が終わり安全が確認できたとして、19日から掘削作業が再開されることになりました。

 大鹿村では、リニア中央新幹線の開業後に非常口として使われる作業用トンネルの掘削工事が4か所で行われていますが、去年7月の豪雨で工事用車両が通行する県道が損壊し、JR東海は除山と釜沢の2か所で工事を休止していました。

 JR東海によりますと、県道の復旧が終わり、工事用車両が通るうえでの安全性も確認できたため、18日から資材の運搬を再開し、19日からトンネルの掘削作業を再開するということです。

 リニア中央新幹線は、JR東海と静岡県の協議が難航し、2027年の開業が難しくなっていますが、JR東海は「長野県内の工事については基本の工程を念頭にペースを緩めることなく進めていく」としています。

 また、19日工事を再開する2か所については、「作業の工程に大きな影響が出ないよう県とともに県道の復旧を行ってきた。引き続き全力で工事に取り組んでいく」としています。


信毎の記事

大幅に遅れている

 『信毎』は19日2面に "大鹿の作業坑口 半年ぶり掘削再開"(web版) を掲載。

同事務所(長野県飯田建設事務所)によると、県道一帯では現在、地滑りの兆候は見られず、県とJRが地滑り対策工事を続ける。県は来年度までに約5億円をかけ、地滑りを防ぐために地下水を抜く設備の整備を進める。

 つまり、まだ地滑り対策の工事は進行中。

 JR東海によると、本線に向けて掘り進む除山非常口の作業用トンネルは全長1870メートルのうち約7割、釜沢非常口の作業用トンネルは350メートルのうち約3割が、それぞれ掘削を終えている。…同社は2016年、村内で開いた工事説明会で、両非常口について18年度当初までの掘削完了を予定するとしていたが、大幅に遅れている。

 除山は、実質的には2017年11月1日から掘削を開始しているので、2020年7月13日(被災の前日)までの985日で1870mの7割の1309mを掘削したことになります。1か月当り約39.9mのペースになります。1月19日までの日数1175日で計算すると、約33.4m。記事が書いている、2016年の説明会で「18年度当初」までの掘削終了というのは、どう考えても掘削期間は2年までです。1870mを24か月で割ると1月当たり77.9m。2016年当時にされたという、18年当初に斜坑部分の掘削終了という説明も、12月14日の宇野護副社長の静岡工区の工事期間は7年8か月と同様、そもそも一番最初の1月約60m弱という見込みを大きく外れた予測(希望的観測)だったといえます。

 JR東海にはこれだけの大事業の計画全体について見通す能力がないのではないかと思います。

 『南信州』19日1面 "除山と釜沢の掘削再開 リニア南アトンネル 7月豪雨災害から中断" も:

県飯田建設事務所によると、一部の工事は継続中だが、14日に現地確認、15日に協議を行い、地すべりが安定化していること、同県道を工事車両が通行しても安全上問題がないことを確認した

 と書いているので、「何とか通してもらって」というわけです。

 『信毎』、『南信州』の報道に比べると常日頃リニアについて取材していないNHKのニュースは不正確といえます。


『中日』の記事

 『中日』20日13面 "7月豪雨 県道被災で中断 大鹿2カ所で掘削再開 JR東海"(web版) は:

県飯田建設事務所によると…昨年の七月豪雨で付近の県道が被災し、大型の工事車両が通行できず、約半年間中断していた。
…県道は同八月に応急の復旧工事を終え、一般車両のみ通行可能となっていた。その後、県とJRが協力して道路の再建や斜面下への盛り土、水抜きボーリングなどの対策工事を進め、今月十八日から大型車両が通れるようにした。県は数年後をめどに、地下水を抜くなどの地滑り対策工事を続ける。

 と、『NHK』の地滑りが起きたあとの対策工事のいきさつについての「あっさりした」書き方では、わからない部分まで書いています。「県は数年後をめどに、地下水を抜くなどの地滑り対策工事を続ける」といっていますから、たまたまではなくて、いつでも地すべりなどが起こり得る、そういう場所で工事をやっている。そういう事実が『NHK』のニュースでは分かりません。

 これで、『NHK』、『信毎』、『南信州』、『中日』の記事が揃いましたが、『NHK』以外の3社はどこも長野県飯田建設事務所に取材していますが、『NHK』が基づいているのはJR東海の発表だけと理解せざるを得ません。