更新:2021/06/04
リニアのストッパー車輪について
「リニア新幹線を考える相模原連絡会」に学習会の講演資料として、"リニアで得する人・損する人 ─数字でみる リニアと私たちの暮ら し─" があります。お話をされたのは上岡直見さん。
このPDFファイルの31ページ目から緊急時に使う「ストッパー車輪」(緊急着地輪)について書いてあります。実物はリニア鉄道館や山梨見学センターでみて、なんか心細いものだという印象はもっていました。上岡さんは問題点を詳しく解説しています。
もっとも過酷な条件は時速500㎞で走行している場合。この金属製の車輪は直径30cm。新幹線の車輪が86㎝なのに比べると小さい印象です。33ページに図面があります。図面を見る限り、この車輪は単なるコロで、ブレーキ装置がありません。
超伝導磁石の磁界の中で高速回転するので、当然車輪の中で渦電流が発生して温度が上昇します。そういった場合の耐久性の問題とか、軌道の継ぎ目から受ける衝撃で破損する心配についても指摘しています。軸受のセラミックのボールベアリングの耐衝撃性とか…。
…発明者が自ら課題として示すごとく「従来の緊急着地輪装置は、単なる転動輪からなり、磁場下で転動輪の高速回転に伴い回転部分に発生する渦電流、電食対策、発熱対策及び発熱による固着対策等が十分に考慮されていないため、超高速の使用には耐えられず、耐久性が低かった」としているように、500km/h での高荷重を金属製の「コロ」のようなもので受けるという点そのものにおいて不安の大きいものである。
その後発明者らは、同緊急着地輪において、走行路面の段差通過時等に発生する衝撃力を大幅に軽減とした改良特許を提出しているが、まだ実用状態における実証もされないうちから紙上の改良特許を提出しているようでは、発明者自身が不安を抱いているものと推定される。セラミックベアリングそのものは既に実用化されているものの、今回のような高荷重に対して適用した事例は不明であり、万一セラミックボールの破損等が生じた場合には重大事態になる。
トランスラピッド(上海のリニアモーターカー)では同様の役割のものとして、ソリ(スキッド)が取り付けてあります。車輪は荷重を一点で受けますが、ソリは面で受けます。さらに、摩擦があるので、そのままブレーキの役割もします。飛行機なんか、車輪が出ない場合は、ソリもついてないのに胴体着陸するし。戦時中のロケット戦闘機は、離陸に使った車輪は、離陸直後切り離して、着陸はソリでするようにしていました。
変な場所で止まっちゃったら困るでしょともいえるのですが、まあ、だいたいヤバイ時には止めた方が良いのではないかと思います。リニアだって、この車輪を使う時は、結局止まってしまうことが多いはずです。
山梨県立リニア見学センターに展示されている MLX01-2 のストッパー車輪
名古屋にあるリニア鉄道館で展示されている MLX01-1 のストッパー車輪。常に 3.5cm 飛び出している。山梨のものと形が少し違っているようです。
ストッパー車輪と書いていますが、台車の左右のものについては「案内ストッパ輪」、台車下部のものについては「緊急着地輪」という呼ぶようです。
国交省 > "超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価" 。PDFの30ページ
材質はステンレスのようです。
日本機械 学会論文集(C編) 72巻716号(2006-4) "高速鉄道車両の安全装置の設計手法に関わる研究"