更新:2021/08/18
常電導のリニアモーターカーでは永久磁石は使っていない
聞き違えかも知れませんが、常電導のリニアモーターカー(磁気浮上式鉄道、マグレブ)では「電磁石」と「永久磁石」を使っているという説明を耳にしました。現在、実際に運行しているリニアモーターカーで「永久磁石」を使っているものはないはずです。
トランスラピッド
上海で走っているトランスラピッドは常電導です。普通の鉄道のレールとは形が違いますが、ガイドウェイには櫛形に切り欠きのある鉄のレールがあります。この鉄のレールに、車体側の浮上用コイル(電磁石)が作用して浮上します。ガイドウェイの切り欠き部分に導線を絡げて、これが推進用のコイルになっています。車体側には左右方向を案内するコイル(電磁石)もあります。車体側の浮上用コイル(電磁石)は推進力を得るのにも使っています。
⇒ "Der Transrapid - Werbefilm TyssenKrupp" の2分45秒~
⇒ "Transrapid - Werbefilm der deutschen Magnetschwebebahn (1985)" の1分15秒から
⇒ 正田英介ほか共著『磁気浮上鉄道の技術』(オーム社、1992年)、p182
リニモ(HSST)
名古屋のリニモは、ガイドウェイには鉄のレールとアルミニウム製のリアクションプレートがあります。コイルのような物はありません。リアクションプレートは回転式モーターの回転する部分に相当します。車体側の推進用コイル(電磁石)は、回転式のモーターのケース側に巻いていあるコイルに相当します。交流の誘導電動機を開いて伸ばした、そのまんまの感じです。浮上用コイル(電磁石)は車体側にあって、鉄のレールに引っ付こうとする力で浮上しています。
⇒ "リニモとは - 愛知高速交通"
⇒ 正田英介ほか共著『磁気浮上鉄道の技術』(オーム社、1992年)、p122
トランスラピッドもリニモも浮上用の電磁石や案内用の電磁石は、いずれも電子回路で制御してガイドウェイとの隙間を維持しています。速度と関係なく、停止状態でも浮上出来ます。
磁石の引き付ける力は、相手が磁石でなくても、鉄で間に合うのですから、この方がガイドウェイのコストを抑えることができるはず。鉄のレールがつかえるということです。そういう意味では鉄道の延長上にあります。またエネルギー効率でも従来の鉄道と同じ系列になります。
⇒ "リニアで得する人・損する人" 、p2 「Q4:高速走行のためにどのくらい電力が必要ですか?」
⇒ 西川榮一著『リニア中央新幹線に未来はあるか 鉄道の高速化を考える』(自治体研究社、2016年2月)、P37、図5:カルマン・ガブリエリ線図
超電導リニア
JR東海の超電導リニア(リニア中央新幹線、リニア)は、鉄道で言えばレールにあたる部分の軌道=ガイドウェイに、推進用コイルと浮上・案内用コイルの2種類のコイルがあって、車体側には超電導磁石があります。超電導磁石を超強力な永久磁石として使っているといえばいえなくもないですね。浮上・案内用コイルは巻き始めと終わりショートしてあって、超電導磁石が直前を通り過ぎてはじめて磁石の作用をします。だから、150㎞/h以下では十分な浮力がないので補助車輪が必要です。浮上・案内コイルは、強力な永久磁石や超電導磁石でも良いのですが、それではコストがもっとかかってしまいます。導線を巻いただけのコイルの方が安上りということです。
反発力を利用するので、磁石同士、コイル同士でなくてはなりません。使いやすい鉄のレールを使うというわけにはいきません。
常電導はガイドウェイもシンプル
ガイドウェイの構造は、リニモが一番シンプル。次がトランスラピッドで、超電導リニアは一番複雑です。サイズが大きい(長さが長い)軌道側が複雑であれば、コストが高くつくのは当たり前。その上車体側の超電導磁石が超メンドクサイ仕組みの上に補助車輪とか磁気対策が必要だったりします。
常電導方式で永久磁石を使っているとすれば、いったいどこに使っているのでしょうか? 模型やオモチャならともかく、実物では、現在では永久磁石を使っているものはなさそうです。
⇒ 「東洋経済オンライン」2015/07/14 7:50 "玩具の域超えた!「リニアライナー」開発秘話"