更新:2021/12/08
アメリカ東海岸のリニア計画について
第21回京科学シンポジウム(11月28日)のリニア分科会の報告の中にアメリカ東海岸のリニア計画の現状についての報告がありました。
- 桜井徹 日本大学名誉教授・国士舘大学経営研究所特別研究員「米国におけるリニア建設計画の現段階 環境影響評価 準備書 (DEIS)を中心に」
このサイトで紹介してきた内容のほかに、最近の動きとして、また知らなかった情報として、以下がありました。
- 2001年頃ドイツのトランスラピッドを導入する計画があって、2003年に環境影響評価の準備書(DEIS)の段階まで進んだが、優先代替案であったアムトラック(通常の鉄道)の並行路線が選択されたのでトランスラピッドの採用は中止になった。
- 超電導リニア計画は、2016年にワシントン・ボルチモア・高速鉄道(WBRR)社がメリーランド州に申請。環境影響評価の実施が認められたのには、JR東海と日本政府の働きかけがあった(インフラ輸出戦略)からで、日本政府は調査費用に200万ドルを出していた。また建設費のうち50億ドルの融資を確約した。
- 準備書についてのパブリックコメントの期間が2回延長された。通常45日がまず90日(4月22日締め切り)に次に122日(5月24日締め切り)まで延長された。
- 8月25日に連邦鉄道局(FRA)は計画の評価を行い次の段階に入る作業の中断(pause)を発表
今年に入ってからの動きを整理すると:
- 2月16日、『日経』の静岡県版がワシントン・ボルチモア間のリニア計画の環境影響評価の準備書が公表されたと伝える(2月16日(b))。
- 5月8日、『ワシントンポスト』が「連邦委員会の委員たちはワシントン・ボルチモア間の高速磁気浮上鉄道について疑問を投げかけている」と報じる(5月13日(a))。
- 6月23日、『Capital Gzette Maryland News』が「ボルチモア市は、ワシントン間の北東マグレブの計画に公式に意見を表明し、公平性に関連する問題と事業が環境へ与える影響から建設の反対を勧告した」と報じる(6月26日(f))。
- 8月30日、『THE BALTIMORE SUN』が、ボルチモア市内の43エーカーの土地を開発業者が取得したことについてWBRR社が非難する訴訟を起こしたが訴えが却下されたと伝える(10月9日(c))。
これらの経緯は日本のマスコミはほとんど報道していないと思います。JR東海や日本政府が思うようには進んでいないことは確かなようです。
超電導リニアの対米輸出は真珠湾攻撃に似ている
桜井さんの報告の中で、トランスラピッドのことがありました。トランスラピッドと従来の鉄道(アムトラック)を比べ従来の鉄道が選ばれたのですから、トランスラピッドと超電導リニアのメカニズムの比較がされるはずです。超電導リニアはもともとはアメリカのアイデア。アメリカも開発を手掛けたことがあるのですが結局途中で止めてしまいました。アメリカやドイツ、そして日本航空が超電導を採用しなかったのは筋の良い技術かそうでないのか見通しをつけることができる技術的なセンスの問題だと思います。JR東海と日本政府(安倍政権)がアメリカに輸出しようとしたことは、アメリカとの工業力、技術力の大きな格差を無視して、敢えて総力戦をしかけた、日米開戦に似てるようです。
以下、あまり整理されてなくてわかりづらいですが参考ページです:
補足 2022/02/09
「環境影響評価準備書」という言葉が使われていますが、日米でアセスの制度はまったく違うので日本の準備書段階に近いものとはいっても、これは文書の名前なので現地の言葉のそのままの意味の「下書き」または「案」とするのが適当だと思います。ただし、第21回京科学シンポジウムでの報告者の桜井徹さんが「環境影響評価 準備書」という言葉を使っているので、このページでは「準備書」とします(2022/02/09)。
日本語の「準備書」という言葉は、あらためて説明を聞かないとどういう文書なのか判断できないでしょ。だけど、「下書き(draft)」ならどういう性格の文書なのか、読んでそのまま分かるじゃないですか。ま、そういうことなんですよ。