更新:2022/02/03、2022/04/24 訂正
リニア新幹線と石原慎太郎氏
いまだに「直線での運転ならば実用化段階」
2月1日に、元東京都知事で作家の石原慎太郎氏が亡くなりました。石原氏は1987年11月から運輸大臣を務めていて、宮崎にあったリニア実験線を山梨に新たに建設させるなどリニア推進に貢献していました。
[2022/05/08 補足] 下の『J-CAST ニュース』より、分かりやすい参考ページがありました。『ダイヤモンド』2022年2月5日 "石原慎太郎氏の経済政策を回顧、ディーゼル規制・リニア等で賛否も成否も分かれる"
『ダイヤモンド』によれば:
- 1987年12月 石原運輸大臣が宮崎実験線を視察
- 1988年 石原運輸大臣は宮崎実験線について「豚小屋と鶏小屋の間を走っているようなもの」と表現
- 2011年8月13日、産経新聞紙上で葛西敬之氏と対談
石原都知事が旧運輸相時代、「ブタ小屋、トリ小屋の間を(リニアモーターカーの宮崎県内の実験線が)走っており、日本の技術力を世界に示すにはふさわしくない」と発言
(『J-CAST ニュース』2007年05月01日21時29分 "「田舎もん」宮崎県民 石原都知事発言に不快感")
石原氏は1988年1月21日の記者会見で、二年後に、千歳・札幌間に実用線を、中央線(東京・甲府)に実験線を同時に着工させたい
(*) と述べています。
この会見で石原氏は、日本のリニアは、直線での運転ならば実用化段階にきている
(*) ともいっていました。
* 『毎日新聞』1988年1月22日 "リニアモーターカー実用線 「札幌-千歳に」"
訂正(2022/04/24):石原運輸大臣の記者会見を1989年としていましたがまちがいで、1988年が正しいです。『毎日新聞』の日付も1988年です。
宮崎実験線も山梨実験線もカーブらしいカーブはなくほぼ直線という点は同じです。トランスラピッドの実験線が、半径1㎞と1.7㎞のループを直線コースの両端に設けているのと比べると、直線を走ることだけを考えて開発されてきたといえると思います。つまり、今現在でも石原氏がいったように「直線での運転ならば実用化段階」ということなのだろうと思います。
「北山敏和の鉄道いまむかし」の「山梨リニアの仕掛人 天野光三京大教授」というページによれば、天野氏は、土木工学の専門家で、『リニアモータカーと私の拡都論』(1988年)という論文を書いています。
天野氏は、リニアモーターカーの開発は、現在ではもはや西ドィツに追い抜かれようとしています。 そのうちには西ドイツも超電導に切り替えてくるのではないかということも考えられます。
と書いています。これは1988年の論文なのですが、このころドイツでは、エムスランドの実験線で営業路線用の原形車両「トランスラピッドTR-06型」の実験をしていたころです。2004年に開業した中国の上海リニアモーターカーがトランスラピッド方式です。
実はドイツは1970年代にシーメンス、テレフンケン、ブラウン・ボベリが共同で超電導方式の車上一次、地上一次の2方式の試験車をエルランゲンのシーメンスの研究所内のテストコースで試験走行させるなど開発をしていました。しかし、超電導方式は採用されることはなく(**)、1977年にシーメンスはクラウスマッハイ社、メッサーシュミット・ベルコウ・ブロム社など常電導のトランスラピッド方式の開発グループに合流しました。
** 常電導方式が選ばれた理由は、超電導磁石を用いたリニアモーターカーの研究で明らかになった、経済的・技術的デメリットが原因であった。… 当時の結論は1987年に再度見直され、1977年の選択は間違っていなかったことが確認された。
(大塚邦夫著『西独トランスラピッドMaglev―世界のリニアモーターカー』公共投資ジャーナル社、1989年、37ページ。この書籍は、トランスラピッドの売り込みのため出版されたものと思われます。「…」の部分で示された欠点は超電導リニアでも解決できていません。)
高速の磁気浮上式鉄道の開発競争で、超電導リニアが常電導のトランスラピッドに負けたことは明らかだと思います。
さて、リニアの「環境影響評価書」に対する環境大臣意見(2014年)は:
技術の発展の歴史を俯瞰すれば、環境の保全を内部化しない技術に未来はない
と指摘しています。静岡県の大井川直下のように、どうしてもよけなくてならない場所は、カーブでよけることになると思います。ところがリニアはそれが自在にできるわけではない。カーブを曲がるということを重点において開発されてこなかった。「減水の可能性のある場所をよけること」=「環境の保全」が考えてない。つまり「環境の保全を内部化」していない技術なので未来はない。長い距離のあいだに建設する乗り物であればカーブが自由に曲がれなくてはならないはず。
直線しか走れないのでトンネルが多くなる。そのために大量の残土が出てくる。それを処理する場所がないということもあります(***)。
*** 石原伸晃環境相は3日の閣議後の記者会見で、東海旅客鉄道(JR東海)が2027年に品川―名古屋間での開業を目指すリニア中央新幹線の環境影響審査について「掘削によって発生する土砂は莫大で、最終処分や仮置き場も決まっていない。ここがポイントだ」と述べた。
(『日経』2014年6月3日 "リニア新幹線「土砂処理が焦点」 影響審査で環境相")
環境大臣意見を書いたのは、環境省の職員だと思うのですが、このときの環境大臣は石原慎太郎氏の長男である石原伸晃氏でした。
北山さんは、天野さんは土木専門家であって、新幹線やリニアについて専門的な知識はないはずと指摘しています。しかし、直線しか走れない列車の実用路線を建設することになれば、超電導リニアは、鉄道技術というよりはどこまでもまっすぐにルートを建設するという土木技術そのものだと思います。
中止も視野にはいってきたリニア。リニアへの貢献について書いた石原慎太郎氏の死亡関連記事があったかのかどうか。