更新:2022/07/06

ハイパーループとリニアの無限ループ

 ハイパーループは、ざっといえば、真空のチューブ(パイプ)の中を時速1000㎞以上のスピードで走ることを目指している乗り物。超電導リニアの時速500㎞をはるかにしのぐ乗り物で、もはや超電導リニアも時代遅れという方が時におられます。世界最速のリニアに期待し夢を抱いている人たちにそういう「事実」を知らせて考え方を改めてほしいということらしいのです。しかし、そういう理屈はちょっとおかしいと、私は思います。

 社会はもやはリニアのようなスピードの乗り物は必要としていないと主張する一方で、もっと速いハイパーループがあるんですよ、リニアは時代遅れですなんてちょっと矛盾してませんか?

 まず、ハイパーループについて批判的な見解を紹介します。たぶん、ハイパーループについては、冷静にみればだいたいこんな評価になるだろうと思います。

 ハイパーループの実際の最近の開発段階はどうなってるのかという点。つまり「事実」に関することです。

 どちらも2020年秋の話。『CNN』の記事は、ネバダ州ラスベガスの全長500mの実験線で2名乗車で時速160㎞程度の最高速度(平均120㎞/h)で走行できたと伝えています。『ニューズウィーク』のほうは、韓国鉄道技術研究所が実用化段階で想定される車両の約6%(=1/17)のサイズの模型で時速1019㎞を達成したという話。つまり、人が乗って時速1000㎞以上のスピードで走行することはいまだに実現できていないというのが「事実」とみてよいでしょう。

 500mの距離のテストコースで時速1000㎞で走った事実があると思い込んでいる方もいるようなんですが、有人走行の場合は極端に急な加速はできないので、人がまいってしまいますから、加速のために長い距離が、また減速するにも長い距離が必要です。速いスピードを実現するには長い距離の実験線やテストコースが必要です。ちょっと考えれば分かること、また、もちろんですが、ニュース記事をきちんと読めばわかることでしょう。

 「事実」でないこと、また、まだ実現する「見通し」もないハイパーループを持ち出して「超電導リニアも時代遅れ」というのは、「事実」に基づかない、「虚偽」にあたるといっても良いと思います。本当にそうなのかきちんと確認せずにものをいうということはしない方がよいのです。

 超電導リニアの技術的な点について、超電導磁石の信頼性が確立できていないのに、実用段階にあると評価した国交省の技術評価委員会の判断。浮上量が多くなれば、原理的に非接触給電が困難になってしまうのに、最初からその問題を解決することなく、車上の電源をディーゼル発電機やガスタービン発電機でまかなってきたこと、つまりごまかしてきたこと。そしておそらく現在でも非接触給電が全面的に使用できる状況になっていないことなど見ても「実用化」までの道のりはまだはるかに遠いわけです。

 そういうリニアにたいする見方を、ハイパーループについても同じようにしてみると、ハイパーループの前途は暗いというしかないです。そういうハイパーループを持ち出して「リニアは時代遅れ」といっても、誰に対しても説得力があるものではないと思います。

 リニアに期待する人達への説得には有効だと考えることができるとおっしゃる方もいますが、悪意がないとしても、それは「事実」に基づかない「虚偽」だと思います。

 JR東海グループの出版社ウェッジ社が運営するサイト、『WEDGE ONLINE』の記事が「ハイパーループが未来の公共交通機関として…将来が楽しみな技術であることは間違いない」なんて書いているところを見ると、ハイパーループに期待するひとと、リニアに期待するするひとは重なるんじゃないかと思います。だとすれば、もっと速いハイパーループがあるんですよ、リニアは時代遅れですよ、なんていうのはムダ。

来年のフルスケール走行実験が成功すれば、ハイパーループが未来の公共交通機関として大きな前進を果たすことになるだろう。中東でのシステム導入が果たされれば、世界中の交通網に大きな影響を与える存在となる。世界中をハイパーループ網が結ぶ日は来るのか。将来が楽しみな技術であることは間違いない。(『WEDGE ONLINE』2016年11月26日 "世界の経済圏を変える乗り物"(土方細秩子・ジャーナリスト))

関連ぺージ