更新:2022/08/31
なぜ、10㎝浮上なのか?
矢崎節夫著『世界ノンフィクション全集17 スピードへの限りなき挑戦』(ぎょうせい、1985年6月10日)という本をたまたま見つけました。どこで入手したか忘れましたが図書館の除籍本のようです。ルビのふりかたからみて、たぶん小中学生向けの本だと思います。
日本の鉄道の発展をスピードの向上という点を中心に描いたもので、序章と第5章で超電導リニアについてふれる構成になっています。
第5章では、宮崎実験線の職員さんにインタービューをしています。10㎝浮上について、おもしろい説明をしています。
― …リニアモーターカーの浮上は100ミリと聞いていますが。
「そうです、それ以上は反発力があって、浮かび上がりません。
それに、ガイドウェイはコンクリートで作ってあるので、鉄と違ってでこぼこの差を10ミリ以内におさえることは難しいのです。
だから、浮上があまり少ないと危険でもあります。100ミリ浮上すれば、少しぐらいでこぼこがあっても大丈夫ということです。」
― 将来、リニアモータカーが実用化した時も、ガイドウェイはコンクリートで作るのでしょうか、鉄ではいけないのですか。
「将来もコンクリートで作ることになると思います。鉄だと、磁力の問題がでてきますから。」(p225~226)
「 超電導磁石を使うので鉄は磁力の問題で使えない ⇒ コンクリートでは精密な軌道が作れない ⇒ だから10㎝浮上させる ⇒ 10㎝浮上させるには超電導磁石が必要 」 という無限ループになっています。
ほかに、U字型のガイドウェイだから脱線しないとか、「磁気バネ」だから乗り心地が良いとか説明されています(p226)。
省エネについて、MLU-001タイプの実験車両では磁石に流す電流が3000ボルトなので新幹線の2万5千ボルトに比べ「大変少なくてすむ」と説明しています。
現在の時点で、事実としては、時速300キロで1人の乗客を1㎞運ぶときの電力消費は新幹線が28Wh/座席・キロでリニアが54Wh/座席・キロといわれています。つまり、リニアは新幹線の約2倍の電力を消費しますが、この時代には少年少女向けならこんな説明が通用していたんですね。
リニアの場合は推進コイルに加える電圧の最大値が3000ボルトということだろうとおもいます。新幹線は架線の電圧が2万5千ボルトですが、新幹線の架線の電圧が高いのは電流を少なくして集電効率を高めるため。リニアの推進コイルにあたるモーターの界磁コイルに流す電圧はもっと低いと思います。
リニアはガイドウェイの中で「磁気バネ」に支えられているので、車体に働く遠心力や車体の重量でガイドウェイの中で左右、上下に中心位置からズレます。そのズレる量を確保するため10㎝浮上しなくてはならないのですが、当時はガイドウェイがコンクリート製なので正確なものができないとも考えられていたのでしょう。現在でも事情はそれほど変わってはいないと思います。