更新:2022/10/01

「エネルギー問題としてのリニア新幹線」(阿部修治氏)

 『中日』30面に "リニア輸送力アップ 愛知万博並みに ジブリパーク11月1日開園 17年ぶり9編成へ" という記事がのっていました。

 「リニモ」(HSST方式)は日本でただひとつ実用化され営業運転されている磁気浮上式鉄道で上海のトランスラピッドとは常電導吸引磁気方式(EMS)という点で共通する部分があります。

 記事によると、「愛・地球博」にむけ2005年に開業した当時の9編成中、愛知高速交通が所有していた8編成はこれまで使われ続けて来たのですが、日本国際博覧会協会が所有していた1編成は、「海外への売却を視野に商社に譲渡された。海外への売り込みは実らず、輸出向け都市交通インフラの研究開発を目指していた三菱重工の手に渡った」けれど、地球博跡地にジブリパークができることで輸送力増強のため愛知県が三菱重工から30万円で購入し3億円かけて整備。新規につくると1編成(3両、定員244名)10億かかるのであきらめていたところへ、三菱から「研究開発の見直しにより」いらなくなったとの連絡があったとのこと。中国(北京、長沙など)や韓国(仁川)でもほぼ同じ方式の磁気浮上式鉄道が営業運転をしているので、海外への売り込みはなかなか難しいところもあるのだろうと思います。また、超電導方式(EDS)に比べれば、技術的には広がりがあったのだろうと思います。

「許容」は「本来は許せないことを、大目に見て許すこと」

 で、思い出したのが『科学』2013年11月掲載の阿部修治さんの "エネルギー問題としてのリニア新幹線"。

少し引用します。

「筋の良い技術」とは、市場に受入れられ、多くの経験をふまえて改良され、社会に定着してゆく技術である(p1290)
… トランスラピッドやHSSTは技術的には完成したにもかかわらず、高コストという壁を打ち破ることができず、普及しないまま現在に至っている。わずかに採用された例は、…高コストが許容される特殊な場合で、しかも短距離に限られている。いずれも独立採算事業として成立しているとはいえない。(p1291)
工学的に率直な方式で開発が先行したトランスラピッドやHSSTですら普及していないのに、より複雑で高コストな技術であるJRリニアが普及できるかどうかは大いに疑問である(p1291)

 阿部修治さんの文章は、2013年11月に掲載されたんですから、論理的には、2014年10月の国交大臣が、ほぼ実用性のない技術で走行するリニア中央新幹線建設の認可したことは、かなり疑問です。

 「許容」には「本来は許せないことを、大目に見て許すこと」という意味があるんですね。

 静岡県の川勝知事が主張する橋本と甲府間の部分開業は「高コストが許容される特殊な場合で、しかも短距離に限られている」にあたるということもできるわけで、川勝さんはデタラメをいっているようにみえますが、きわめて当たり前で妥当な発言ですね。