更新:2023/08/25
川島冷三さんの常電導方式フェールアウト論について
著名な鉄道評論家である川島冷三さんは『徹底詳解 リニア中央新幹線のすべて』(廣済堂出版、2012年)の中で、上海のリニアモーターカー(トランスラピッド)や名古屋のリニモ(HSST)などの常電導方式(吸引磁気方式)について次のように述べています。
(常電導方式では)重力と吸引力のバランスで浮上しているのだが、バランスが崩れて重力のほうが勝ってしまうと、軌道と浮上装置が離れてしまうから、余計に吸引力が落ちてしまい軌道と車両が接触してしまう。設計的にはフェールセーフになっていないのである。(p29)
川島冷三さんのいっているのは、磁石の引き合う力は距離が近いほど大きくなる性質があること、逆に距離が離れると弱くなって行く。常電導では引き合う力と重力のつり合いで浮上しているので、磁石とガイドウェイの間隔が大きくなると引き合う力はどんどん弱くなるのに、重力の作用は同じなので、落下してしまうということです。だから常電導(吸引磁気方式、EMS方式)は「フェールセーフ」になっていない(フェールアウト)と。これは、小学校で磁石の性質を学ぶレベルの問題を工学的な問題にそのまま持ち込む乱暴な理屈だと思います。
超電導リニアが利用している反発力についていえば、次の写真を見てください。
ドーナツ型の磁石同士が反発力で浮いています。上の磁石を押さえつけると、下の磁石にくっついてしまいます(動画)。つまり、超電導リニアでは、定員以上のお客さんが乗車したりすれば浮き上がらないことだってあるはずなので、川島さん流にいえば「フェールセーフ」ではない。「定員」をネット予約で管理するからそうじゃないという理屈はないと思いますよ。常電導だって乗車の人数制限ができるはずですから。
リニモは愛地球博の始まったころに、すし詰めで動けなかったことがありました。超電導リニアの場合は、発車から車輪で走行しはじめて、時速150㎞で車輪を引っ込めたら、車体がガイドウェイの高さまで落ちて初めて定員オーバーに気が付くという「間抜け」が起きる可能性があります。リニモのように動く前に、重すぎて動けないとわかるのとどっちが良いでしょうか。さいわい、リニモは基本的に利用者が少ないので、重すぎて発車できなということはほとんどないようですが…。
技術や工学の関係で「フェールセーフ」というのは何かあっても常に安全な側にコケて行くということ。何かあっても事故にならないようになっている、そうなっていないのを「フェールアウト」というわけです。なので、磁石の作用の吸引力と反発力の違いだけで、どうのこうのといえるものじゃないのです。
それよりは、浮上する高さ(隙間)を一定に保つ仕組みが重要です。超電導磁石は「冷凍機」と「真空を利用した保温技術(魔法瓶)」であるのに対して、常電導では「エレクトロニクス」であるという違いがあります。どちらが信頼性が高いかという違いがありますね。エレクトロニクスの方がいろいろな分野で随分と前から機械的な仕組みに変わって採用されていることから考えると信頼性については、「冷凍機」と「真空を利用した保温技術(魔法瓶)」の組み合わせより高いといえると思います。
車体がガイドウェイの上にあるのは、超電導も常電導も同じ
ガイドウエイがあって、その上を列車が走るのは、超伝導も常電導も同じです。つまり、磁力がなくなった場合、車体はガイドウェイに落ちるという点は全く同じです。
超電導リニアの場合は、磁力がなくなった場合は7~10㎝程度の高さからガイドウエイに墜落する。一方、常電導(トランスラピッド、リニモ)の場合は1㎝の高さからガイドウェイに墜落する。高さが高いほうが車体に加わる衝撃は大きくなるという違いがあります。
だから、浮上する間隔を保つための肝心の技術の信頼性が問題になるはずです。
川島さんの、常電導は「フェールセーフになっていない」という説明は、短絡的というのか、ちょっとまやかし的なところがあると思います。
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