更新:2023/09/20
アメリカのリニア計画はどうなっているか?(5)
ボルチモア市の反対はリニア計画に打撃
アメリカ東部のリニア計画について、ボルチモア市が建設反対の意見書を出したことについてはこちらでふれました。その意見書と思われるものを見つけたので紹介します。
ボルチモアの意見書についての記事は、いずれも現地の報道機関のもので:
『Baltimore Sun』Jun 23, 2021 at 3:57 pm "Baltimore City recommends against building proposed $10 billion high-speed Maglev train to Washington"
(ワシントン間の10億ドルの高速リニア建設の提案にボルチモア市は反対を勧告)
『ボルチモア・サン』HP (拡大)
(上記と同じ記事)『Capital Gzette』Sun Jun 23, 2021 "Baltimore City recommends against building proposed $10 billion high-speed Maglev train to Washington"
(ワシントン間の10億ドルの高速リニア建設の提案にボルチモア市は反対を勧告)
『キャピタル・ガゼット』のHP(拡大)
『Washington Post』June 24, 2021,"Baltimore cites ‘equity, environmental justice’ in saying no to high-speed maglev train project"
(ボルチモア市は「公平性と環境正義」を理由に高速リニアモーターカー計画にノーを表明)
『ワシントンポスト』のHP(拡大)
ネットメディアだと思いますが、『MARYLAND MATTERS (Nonprofit. Nonpartisan. News you can trust.)』June 25, 2021 "Baltimore Officials’ Rejection of Maglev is Latest Blow for Proposed High-Speed Rail"
(ボルチモア市当局者のリニア拒否は、リニア計画の打撃に)
(拡大)
この記事は、「ボルチモアとワシントンD.C.間の高速鉄道計画の支持者らは、このプロジェクトが両都市とメリーランド州経済に恩恵をもたらすと宣伝している」が、ボルチモア市のブランドン・M・スコット市政はそのようには考えておらず、「スコット氏のチームの上級メンバー2人は、メリーランド州計画局に宛てた5月14日付の書簡で、州と連邦の運輸当局に対し、このプロジェクトを拒否するよう促した。」としています。
そして、元ワシントンDC議会議員のジャック・エヴァンス氏は、日本でリニアに試乗してリニアの仕組みや利点についてよく知っていて、実現可能なものだが、ボルチモア市の建設反対の決定は、「反対を克服するのに苦労してきたこの計画にとってさらなる打撃であることを認めた」と書いています。
『ワシントンポスト』が記事にしているんですから、リニアルートの一方の端のボルチモア市が建設反対と言いだしたことは、日本でも報道されて良いはずなのに、『朝日』、『日経』、『信毎』、『中日』、『南信州』、『NHK』などは、おそらく記事にしていなかったと思います。
シエラクラブの声明
ついでに、日本でほとんど報道されてこなかったと思われるニュースは「シエラクラブ」のメリーランド支部のワシントン・ボルチモア間のリニア計画に対する声明。
"Sierra Club Statement on the Proposed Baltimore - Washington DC Maglev Project"
(ボルチモア - ワシントン DC リニアモーターカープロジェクトに関するシエラクラブの声明)
要点は:
- シエラクラブは「ボルチモア・ワシントンDCリニア・プロジェクト」への反対を表明し、プロジェクトの根本的な不公平さ、その不可逆的な悪影響が、考えられるいかなる利益よりもはるかに大きいとして、環境影響報告書草案の「建設しないオプション」(No-Build option)を支持する予定である。
- シエラクラブは、以下の理由によって、磁気浮上式鉄道ではなくて、北東回廊の高速鉄道計画を支持する
- ルートの中間にはBWI空港以外に駅がなく、建設と運行で影響を受ける人々に恩恵がなく不平等である。沿線の住民の7割が有色人種で13%が低所得層。約8割の土地が環境正義コミュニティ内にある。推定運賃の60ドルは既存のMARC鉄道の8ドル、アムトラックの46ドルより高く、富裕層のみが利用できるもので多くの人々には手の届かないもの。
- 既存の公共交通機関の改良への投資を危機にさらす。シエラクラブは遠距離の自動車旅行の鉄道利用への転換を支持しているが、リニアが自動車旅行に重大な影響(減少させる)を与える明確な証拠がない。アセス草稿によれば、ペン・カムデン線のMARC年間乗客数の約32%がリニアに移行するとされる。
- 州および連邦の保護地域に対する影響の規模が重大。公有地、特にパタクセント研究保護区とベルツビル農業研究センター、そしてボルチモア・ワシントン・パークウェイ沿いの国立公園地とグリーンベルト森林に及ぼす取り返しのつかない悪影響の規模を大いに懸念している。アセス草稿によれば、リニア計画により輸送エネルギーの正味消費量は約 3兆Btus(英熱量単位) 増加するが、自動車、バス、鉄道交通をリニアに転用することでエネルギー消費の減少は増える分を相殺できると予測していない。
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