更新:2024/06/08

6月4日、大鹿の説明会 小河内沢の問題は?

 6月3日と4日に大鹿村で、JR東海が南アルプストンネル長野工区と伊那山地トンネル青木川工区の工事の進捗と今後の工事完成までの見通しについて説明会をしました。同時に、要対策土を一部に使用する小渋川非常口のそばの変電所の用地の造成工事についての説明もありました。

 トンネル工事の今後の見通しについては、以前から、工事でいろいろと迷惑を受けている住民から説明を求められていたもの。最近は、2026年後半までの工事完了と説明していたんですが、今回、精査した結果およそ4年伸びるという説明でした。この説明に、住民からは、最初の2027年開業というのは、何だんったんだのという声や、今回の説明も信用できないという声もありました。まあ、そうでしょう。

釜沢非常口と除山非常口のあいだ

 内容については、マスコミがけっこう報道しているので、とりあえず、JR東海があまり説明をしなかった部分でちょっと気になる部分を取り上げて見ます。マスコミは取り上げていない部分です。

「先進坑 ⇒ 本坑 ⇒ 先進坑」と掘削

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 上は6月4日の配布資料の一部。今後の工事予定を説明しています。

 JR東海によれば、釜沢非常口からは品川方面へまず先進坑を掘り始めて、図中④の位置から本坑を掘ってきました。その後、図中②の位置から先進坑を掘り始めています。

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 もともとは、南アルプストンネルは、本坑部分に沿って全長にわたって先進坑を掘削する予定だったはずです。しかし、JR東海は、④と②の間は、長野県企業局の大鹿発電所(小渋川非常口の西隣)の導水トンネルが近くにあって、その工事記録などから地質がよく分かっているからという理由で先進坑は掘らずに本坑を掘っていました。②の位置で先進坑に変更したのは、川の真下の直前になったからだと説明していました。

長野県 > 大鹿発電所大鹿発電所施設詳細情報(PDF)

川の直下、土被り42m

 川の下というのは下の図。これは工事実施計画の申請の時に同時に国交省に提出した図面の一部です。

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 品川起点で157.4kmと157.6㎞の間で、小河内沢の流れの直下を通過するのですが、157.6㎞地点の土被り80.52mをもとに、画像のピクセル値をもとめ川底からトンネル上部までの深さを計算して見ました。約42mとかなり浅いので、素人目にも、かなり湧水があるのではないかと思います。

 この場所は地図では次の図のような場所。左の赤丸がルートと小河内沢の交点付近。右の赤丸の中に品川起点(以下同じ)155㎞地点。ルートの破線は約20m間隔です。

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環境影響評価書の環境関連図の長野県のNo.1図の一部。「●02」は水量の予測位置(およその)。

 ルートと小河内沢の交点付近を拡大したのが次の図。

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(グーグル・マップの航空写真ではこんなかんじの場所)。地理院地図

 この場所は、長野県企業局の大鹿発電所の取水口の少し下流。環境影響評価書で、50~80%の流量減が予想されると評価されたのは大鹿発電所の取水口の上流(図中、「●02」)です。大鹿発電所への影響については「発電用水への影響については、工事完成後の小渋川及び小河内沢川の合計の流量が豊水期で2割程度、渇水期で4割程度減少する可能性がある」といっています。

 もちろん、ただし、最初の図をみれば分かるように、ルートは小河内沢に沿っており、青い丸印の部分でも川と交差しています。だから、予測されている地点「02」の減水は、この場所が原因とは限らないわけです。

 本坑をそのまま掘ったらヤバそうなので、先進坑に変更して地質の状況を調べてみようということなんだろうと思います。50%の減水はけっこう話題になったのに、4日の説明会では、工事が遅れているとか、工事の完了が遅れる原因としては、一つは、伊那山地トンネルの青木川工区で中央構造線部分を掘っていることと、もう一つは、小渋側非常口と釜沢非常口の間、配布資料の③の部分で蛇紋岩の部分を掘っているところ、この2カ所について説明しただけです。報道もこの2カ所だけを取り上げて、「予想以上にもろい地質」で慎重に工事を進めているので遅れているとしています。まあ、JR東海がほとんど説明していないことが原因ですが、掘削が、「先進坑 ⇒ 本坑 ⇒ 先進坑」と進められてきた釜沢非常口から品川方面への掘削について報道関係者は疑問をもたなかったのでしょうか?

 環境影響評価書(長野県)本編8-2-4 水環境 - 水資源。23ページに発電所取水経路と予測地点(02=御所平、01=七釜)の位置。36~40ページに発電用水と釜沢集落の簡易水道水源について書いてあります。予測結果はこんな内容で具体的にどういう方策をとればこのぐらいの数値になるという点はまったく無視しています。静岡県はこういう部分をきちんと説明して欲しいといっているんだろうと思います。だって、具体性がないのですからね。

 規模はともかく、予測方法や発電所の取水口付近であることとか地形の条件なんかが、静岡県の大井川の上流部で毎秒2トン減水するという場所、田代ダムの取水口付近と「ちょっと」似ています。

 あとで本坑を掘るために、水抜きをしてしまえば良いんだろうと思いますが、いやいや上に川が流れているんですからいつまでもたっても流れ続ける。どんな対策をするのかという点は疑問ですが、この説明会の説明の流れからは当然ですが、どういう対策をとるのかという説明はあるはずないです。まあ、触れる必要がないくらいに楽勝なのか、触れたくなかったのか? この点について、住民からの質問は出なかったです。記事やニュースをみるかぎりでは、閉会後の取材で質問した報道機関もなかっただろうと思います。

緊急時の避難経路は

 配布資料で④については「④釜沢-除山間先進坑 将来の避難誘導などを精査し、掘削の要否を検討しています。」と説明しています。釜沢非常口と除山非常口の間は直線で250mも離れていないので避難経路として不要といえなくもないですが、並行して避難経路が全長にわたってあった方が安心じゃないかと思いますね。まあ、それは検討中のようです。静岡県内で緊急停車したらどうなるのという点がけっこう話題になっているんですから、JR東海は静岡県内で止まった場合は長野県の方へ向かって避難してもらおうといってますから、この点も、マスコミは取り上げて良い話題じゃないかと思いますね。避難経路として先進坑は本坑と同じ全長で並行して掘らないの?と。

 この間の先進坑を掘るか掘らないかは今後検討というのは、万が一の時の対策というものを後回しにして、ないがしろにしている、と受け取られても仕方ないだろうと思いますが。やっぱり、かなり慌てて工事をさせているような感じがしますね。

時限爆弾?

 ②から除山斜坑と本坑部分の接続部までの掘削は、配布資料では「釜沢先進坑を品川方に進め除山先進坑に到達させます。(2024年夏)その後…」と説明しています。この「2024年夏」という数字がどうなるか。工事の見通しの次回の説明で、遅れの理由として、この小河内沢との交点の問題が取り上げられるかも知れません。

除山非常口からの掘削は?

 それと、除山非常口からの掘削も小河内沢の流れに沿って掘っていって、土被りが1400mの部分も掘るので、こっちもなかなか大変なところだと思います。配布資料では掘削完了時期は2.5年遅れで2028年いっぱいとなっていますが、ここの地質の状況だとか工事の進み具合についてより具体的な説明はなかったと思います。なお、除山非常口からの掘削について、現在の掘削ペースから考えて掘削完了するのは2031年以降になるのではという指摘をした住民がいました。直近の掘削ペース(54m/月)をもとにすれば掘削完了は2030年いっぱいかかるかなと思います。

 除山非常口からの掘削距離は約7㎞(斜坑1870m+本坑部分4940m)で長野工区では最長です。今回の工事見通しでも、除山の工事完了時期が一番遅くなっています。つまり、この区間の工事期間が長野工区全体の工事期間の目安になるというみかたが意外に当たっているのかなと思います。

 環境影響評価書の資料編の工事工程によれば、除山非常口からの掘削は10~11年かかることになっていました。約7㎞(6810m)を10~11年で掘るには、1カ月あたり平均で約57~52m掘れば良いわけです。除山の掘削開始は、2017年11月1日でした。2023年下旬まで約73カ月(73.6カ月)で約3㎞(2910m)掘っていたようですから、全期間を通しての実績としては1カ月当たり約40m(39.5m)しか掘れていなかったのです。期間としては、約1.4倍かかっていたのです。2020年7月の豪雨災害のあと約半年工事が止まったことがあったとしても、そういう場所で工事をしているのが現実。掘削だけで、14年から15年はかかるはずで、2031年から2032年までかかるだろうと思いますね。開業できるのはさらに2年先です。

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