更新:2024/08/31

中国がリニアで攻めてくる?

上海リニアの建設費

 あるレポート(*)を読んでいたら、中国の上海で走っている高速リニアモーターカー(トランスラピッド方式、SMT=上海磁浮交通发展有限公司)の建設費というのが出ていました。上海の路線は全長約30㎞、完成は2002年ころですが、建設費は1560億円だったそうです。1㎞あたりだと、約52億円。

* 長野県不動産鑑定士協会 "「リニア中央新幹線」並びに高速交通網と地価"(寺沢秀文)

 一つだけでは、確かとは言えないので、「上海リニアモーターカー」、「建設費」で検索してみました。

 『東洋経済オンライン』2023/04/12 によれば、中国の高速鉄道の建設コストは2023年現在で1㎞あたり約38億円に対して、上海リニアは建設当時で約58億円だったそうです。独立行政法人経済産業研究所にあったページによると、総工費が89億元。2000年~2004年ころは1元は13~15円だったようですから、中をとって、ざっとで、1246億円、現在のレートで1869億円なので、1㎞あたりは、41億円~62億円。

 ちなみに、リニア中央新幹線の建設費は着工当時は、5兆4000億円といわれていたと思います。全長は286㎞なので、1㎞あたりは約189億円です。東京-大阪間の438㎞の計算ですが、新幹線方式で1㎞あたり162億円、超電導リニア方式で210億円という数字(*)もあります。電気工事の費用が新幹線方式の20億円/kmにたいしてリニアでは62億円/kmと約3倍も高いためだそうです。

* 西川榮一著『リニア中央新幹線に未来はあるか』(時自体研究社、2016年)、p42の表6

中国のリニア開発が気になる?

 検索でヒットしたページを読んで思ったのは、台湾有事が一部政治家の妄想であるのとおなじように、リニア開発で中国より先を行ってる、いや負けているなんていう、そういう競争的な比較や思い込みは役に立たないだろうなということ。上海リニアの今の姿を「他山の石」とすべきということ。日本のリニア中央新幹線も、その建設理由として「世界一」が重要というのがあるという指摘がありますが、上海リニア建設についても同じ指摘があったそうですから…

 中国では、高速の常電導方式と超電導で2つの方式について研究開発している様子を説明しています。

 やっぱり、似たような用途で開発された別のものを比較してみることは大切だと思います。4ページ目の「世界初の高速リニア『上海リニア』開業時の姿」の11枚の写真で、上海リニアはホームから上の部分は従来の鉄道車両と同じで、乗客の乗降りも鉄道と同じであること、自動運転だけれど運転席があること、ガイドウェイを腕で抱え込む構造で地震などでもガイドウェイから脱落しにくいこと、走行装置の構造が非常にシンプルなことなどが分かると思います。

 書いているのは中国人経済学者です。上海リニアを建設した理由は、ナショナリズムと結びついた面もあるとしています。そして、「現実的な外国人は早くからリニアモーターカーの『商業上の罠』を見破っていた。リニアは80年代にすでに成熟した技術であったにもかかわらず、なぜ中心的な技術を供与するドイツを含め世界のどこもリニアモーターカーを作らなかったのかを見ればそのことは明白である。」と指摘。

 上海リニアは「お試し」として建設されて、「お試し」の役割は果たした? … 川勝さんが相模原と甲府間で部分開業をといったのは正解です。

 上海リニアの延伸が実現しなかったのに、今でも、香港と広州を結ぶリニアの構想など出ているけれど採算が取れる保証はないけれど、従来80分かかるのが30分以内になれば人の往来が増えるのではというはなし。

 西南大学の方式について、「車両が電気を必要としていない。路線側に通電することで、車両が浮上をし、誘導され、走行ができる」というのは推進方式についていっているだけで、どうやって浮上するのかは書いていません。この方式は超電導物質のコイルを巻いて磁石として利用するのではなく、超電導状態で起きるマイスナー効果とかピン止め効果を利用しているはずです。山梨見学センターの超電導ラボで実演している超電導コースターと同じ原理。

 上海リニアの経験はどうなったのという感じですが、リニア導入の声が政府や地方政府からでているようです。収益性が低いので、運賃と時間の関係でみても、高速鉄道や飛行機にたいして競争力を得るのは難しいと指摘。それでも研究するのは、必ずしもすぐに実用化されることを目指すものではなく「将来のために技術を蓄積しておく」意味もあるようです。

 全文が読めないのですが、最後のほうの、「リニア技術は政府の強力な支援なしでも有望な輸出項目になるのか疑問を呈するアナリストもいる。…コストをよりうまく正当化できるのかが重要だ」という指摘が重要。中国にしても、日本にしても、リニアの計画には経済的な合理性、必要性よりは、「世界一」でないと気が済まないという動機のほうが強く働いているんじゃないかと思います。それが唯一の正当な理由になっているんじゃないか。

 上海リニアの延伸計画が住民の強い反対によって、上海市が環境影響調査を行った結果、また2007年の共産党大会で党指導部が環境重視を打ち出したこともあり、座礁したとしています。今から15年以上前なんですが中国のほうが日本より環境重視だったことになりますね。

  • 『毎日新聞・経済プレミア』 2021年3月19日 "海外特派員リポート:「時速600キロ」中国のリニア鉄道は日本のライバルか"

     中国では、上海リニアの「お試し」で、浮上式鉄道より従来の鉄道方式の高速列車が選ばれたと書いていますから、文面はともかくとして事実としては、見出しの「ライバル」、つまり「世界一」にならなければということ以外に実利的な開発理由はないことになりますね。もちろん、基礎研究という点で意味は否定できませんが。

     どういうわけかこんなページも出てきました。『日経』の記事を4つ紹介しています。一番目はリンク切れでweb.archive.orgにコピーがありました。二番目はこちら。三番目は見つからず。四番目はこちら。どれも、認可前のもので、「無理じゃないですか」の指摘があります。

    ◆      ◆      ◆      ◆      ◆

     結局、中国のリニア開発が気になってイライラすることは、日本のリニア建設推進の原動力になると思うのです。まあ、ほとんど多くの人たちは気にならないことだろうと思うんですが、推進派の方々は気になるか、日本が一番と思い込んで無視しているかのどちらかかなと思います。リニアの開発や中央新幹線の建設は、JR東海の社員さんに、葛西敬之さんに「無駄じゃないですか」と言えるような社風があったとしたら実現はしなかったと思いますね。

     中国がリニアで攻めてくることはないでしょうね。なによりも磁気浮上式鉄道は「鉄道」的な乗り物では主流とはなれない存在だと思いますね。

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