更新:2025/02/17

リニア中央新幹線に係る令和5年度環境調査結果等の報告書に対するJR東海への助言
~ 蛇足の検証 ~

 2月14日、長野県は、JR東海の2023年度の「環境調査結果等の報告書」に対して助言を送付しました。ちょうど、「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」が土曽川橋りょうのケーソン基礎へ要対策土を使用する変更を含む長野県駅工事の保全計画に対する長野県の「助言」の送付(1月27日)について抗議文を提出した日です。

 2月14日の「助言」は以下で読めます。

 長野県のページには、JR東海に送付した「助言」のPDFファイルと「プレスリリース資料」というPDFファイルがあります。

 1月27日の土曽川橋りょうの工事方法の変更を含む長野県駅工事の保全計画に対する助言の送付についても「助言」と「プレスリリース資料」というのがあります。

 2月14日と1月27日の2つの「プレスリリース資料」を比較すると、その内容がちょっと雰囲気が違うことが分かると思います。2月14日の「プレスリリース資料」は、「助言」の要約ですが、1月27日の場合は、「助言」の要点と逆の見解が書かれています。

 報道機関は、プレスリリースに書いていあることを、公表された文書の要点として記事をかくことがあるようです。1月27日の「助言」の送付について新聞記事をみると、そういうこともあるのかと納得出来ました。

 1月27日の「『助言』だけ」から読み取れることは、「助言」は、長野県環境影響評価技術委員会(環境評価について審議する専門家の委員会)の2回に渡った審議で委員が指摘した重要な点を含んでいます。委員会の指摘の重要な点は:

 「助言」は、使用する場合に検討すべき内容も述べていますが、「助言」の土曽川橋りょうに関する部分の前文で、つまり憲法でも前文が重要なのですが、当初の計画通りに、現場で発生する残土を使用することが基本と書いたあとに、「その上で、要対策土の使用に当たっては、環境保全計画書に記載している内容に加え、以下アからサに記載の対策を講じること。」と続けています。しかも、ウ)は地下水の流れる方向についての調査不足を指摘、カ)、キ)、ケ)では基礎部が土石流災害や地震で破損する可能性を前提に、地域への連絡や、破損カ所の修復や有害物質の除去などの対策などを検討すべきと、ク)では、「橋脚基礎部において要対策土を使用するに至った経緯」について保全計画書に追記するよう求めています。

 一方、「プレスリリース資料」では、2ページ目の「別紙」に「助言の概要」という説明があるのですが、「橋脚基礎部において要対策土を使用するに至った経緯」について追記することは抜けています。

 また、「助言のポイント」として、「橋脚基礎部は、構造的に十二分な対策がとられていることを県においてもチェックしています。」と書いています。この点は、「助言」そのものには書いてないし、「助言」を要約してもこういうことは出てこないはずです。

 1月28日には『信濃毎日』、29日には『南信州』が、「『助言』の送付」について記事を掲載しました。両紙は「助言」について、それぞれ、次のように書いています。

『南信州』

…県は27日、JR東海が示した環境保全計画に対する「助言」を同社に通知した…
 要対策土について①「本来は当初計画通り、現地発生土の使用が好ましいと考えられる」としながらも、橋脚基礎部に関して②「構造的に十二分な対策が取られていることをチェックしている」とした。…

『信濃毎日新聞』1月28日

 助言は、保全計画を審議した県環境影響評価技術委員会の議論や飯田市と住民の意見を基にまとめた。…
 技術委や住民が示した、要対策土を外部から市街地に持ち込むことへの懸念に関し①「本来は現地発生土の使用が好ましい」とした一方、橋脚基礎部に関して②「設計図などから構造的に十二分な対策が取られていることを確認した」ともした。…

 どちらを読んでも、①、②の部分が両方とも「助言」に書いてあると誤解するんじゃないかと思います。①は「助言」に書いてありますが、②は「プレスリリース資料」の「別紙」に書いている。

 ところで、『信濃毎日』の記事は次のようなことも書いている。

…県は「かなり深い検討をした」(環境政策課)と自負したが … 「『安全寄り』の助言になっている」。県環境政策課の担当者は、地下水の…といった計11項目を助言したほか、別紙で要点を示すなど…
 …県担当者は「助言は(要対策土使用に)許可や不許可をするものではない。(環境影響の回避を目指し対策を検討する)アセス制度の原点に立ち返った」と趣旨を強調する。…

 JR東海が「助言」に「真摯」(しんし=まじめに)に従うなら、要対策土の使用をやめ現場の土砂を使うはずで、それが「安全より」の意味でしょう。少なくとも「助言」の文面からは。担当者が、技術委員会の基本的にダメという意見を最大限取り入れようとした跡が見えます。長野県のリニア推進の姿勢との板挟みになって、苦労されたのだと思います。結果としては、注意深く読めば、「助言」そのものは妥当といえるものじゃないかと思います。その点では「アセス制度の原点に立ち返った」といえるでしょう。

 しかし、せっかく苦心してまとめた「助言」だったのに、「プレスリリース資料」の「別紙」は、巳年最初の蛇足だった。

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