更新:2025/09/11
赤信号みんなで渡れば怖くない
~本山地縁団体の臨時総会~
本山への要対策土処分は刑法第146条に抵触?
総会が開かれた伴野区民会館
9月11日夜、豊丘村神稲の本山(ほんやま)のリニアの建設残土処分地の所有者である本山地縁団体は臨時総会を開き、本山の一部にヒ素など重金属類が基準値を超えて含まれる有害な残土受入れの承諾を決定しました。JR東海は「要対策土」と呼んでいます。
本山はもともとは、毒なものを含まないというか、毒の含まれる量が基準値以下のという意味なんですが、普通のトンネル残土130万㎥を谷に埋めて処分するという計画でした。リニアを建設しているJR東海は環境保全計画で要対策土は置かないと説明していたのですが、今年の5月に、置きたいと言い出したのです。それで、本山の所有者に承諾してもらいたいということだったのです。
委任状をみると、出席しない人で、受け入れに賛成の人は、役員は賛成だから役員に委任状をだす。開催案内の裏面に役員の名簿があります。反対の人は反対の意見を持つ出席者に委任するという仕組みになっています。民主主義の世の中で通用する方法ではないです。なぜなら、反対の意見を持つ人の名前は分からないからです。地方自治法に違反しているとか言われなくても、かなり無茶なやり方なことは明らかです。
約3時間半と長い会議でしたが、結局賛成が433、反対が29、白票が4という結果で、受け入れは承認されました。
水源地に毒物を入れるのは刑法犯罪
さて、刑法に「飲料水に関する罪」というのがあります。
第十五章 飲料水に関する罪
(浄水汚染)
第百四十二条 人の飲料に供する浄水を汚染し、よって使用することができないようにした者は、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
(水道汚染)
第百四十三条 水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源を汚染し、よって使用することができないようにした者は、六月以上七年以下の拘禁刑に処する。
(浄水毒物等混入)
第百四十四条 人の飲料に供する浄水に毒物その他人の健康を害すべき物を混入した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
(浄水汚染等致死傷)
第百四十五条 前三条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
(水道毒物等混入及び同致死)
第百四十六条 水道により公衆に供給する飲料の浄水又はその水源に毒物その他人の健康を害すべき物を混入した者は、二年以上の有期拘禁刑に処する。よって人を死亡させた者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。
ヒ素を含んだ残土は「不溶化」という処理をしたうえで水を透さないと言われるベントナイトシートでくるんで埋めたてます。「不溶化」とはいっても岩石の表面に有効なだけで、岩石が埋め立て作業の中で割れると不溶化できていない新鮮な面が出てきます。だから、水に溶け出す割合が減るという程度のもの。また、ベントナイトシートについても耐用年数があります。
豊丘村の水道水の水源は9割以上を地下水にたよっているので、奥山である本山は水源で、その水源にヒ素を置いていつかは漏れだすということであれば、水源地にヒ素をうめるJR東海は「刑法第146条」に問われることにならないのか。
本山地縁団体は賛成多数で受け入れを決めたんですが、これって、赤信号みんなで渡れば怖くないなんだろうと思います。赤信号は止まらないと危険だから止まるべきです。ブレーキの壊れたジイさんたちは困りものです。
2025/09/13 補足
9月11日、総会に出席された方のお話を聞く機会がありました。また会場の外で知ったことを補足します。
会議の冒頭で、総会が5年間開始されておらず、この総会を招集した会長が総会で選ばれていないのだから、この総会は無効ではないのかとの指摘があり、そうとうもめたようです。そもそも、不祥事があって、新たに衣替えをした組織の長に、不祥事があったそのときのトップがそのままトップになることは世間一般常識では考えにくいことだと思いますね。
今回の委任状について、いまの世の中で不適切なものではないかとの指摘があったそうです。会長は弁護士に相談したところ適切なものと確認できたと回答。質問者は、さらに、その弁護士は誰なのかと問いただすと、それはいえないの一点張りだったそうです。つまり、弁護士の意見など聞いていないということなのでしょう。
採択の結果について、反対が29あったことは、2017年3月に130万㎥の受け入れを決定した当時比べると、「進歩」があったという声もあるようです。「南信リニア通信」は、会場に入れないので、外部で見ていたのですが、採択より前に帰宅した人もいたので、議場封鎖をせずに採決をしたように思います。
採択の結果:
賛否 | 出席者 | 役員への委任状 | 役員以外への委任状 | 合計 |
---|---|---|---|---|
賛成 | 60 | 367 | 6 | 433 |
反対 | 20 | 0 | 9 | 29 |
無効 | 2 | 0 | 2 | 4 |
総会には、村長と副村長は、会員でもあるので、参加はしても問題はないのですが、村長としての発言と取られる発言もあったようです。取材陣も、終了後、出口で村長に取材をしていましたから、そいう発言があっても不思議はないけれど、まあ、常識として発言は控えるべきだったのではと思いますね。発言内容としては、それはなぜなのという質問にこたえられるかどうかは別として、本当は置いてもらいたくないが、ダンプが里を走るよりは良いじゃないですか、というもの。将来、水道水に毒が入る危険性とどちらが深刻な問題なのかと突っ込めば答えに困る発言ということが分かっていっているのでしょうか。
会員でもない、村の総務課長が出席していたようです。
JR東海からは、約10名ほどが出席し、計画内容を説明。ただし、体重50㎏の人が、70年間毎日2リットル飲み続けても健康に影響ないというのが基準値という説明はしたようです。不溶化処理の雨水暴露試験について、住民説明会で雨水の水素イオン指数(PH)が「7」と回答した点について、素通りの雨について測定した容器に付着していた物質によって、本来「5.8(5.6?)」となるべき数値が「7」になってしまったとの説明があったそうです。住民説明会の説明者が化学や地学の初歩を理解できていなかったこと、実験が杜撰だったことに変わりはないですね。
会場の外でも発言内容がはっきり聞き取れる意見もありました。理路整然としており、発言の時間としてはそれほど長いものではないのに、「演説は止めてくれ」とのヤジが聞こえました。論点は、①地縁団体の運営に問題がある、②世帯代表者だけでなくその家族も個別に発言権を与えるべき問題、③JR東海の説明だけで安全性について判断はできない、県の環境影響評価技術委員会の専門家による審議をまってから決めても良いのではないか、④水源地である本山にヒ素入り残土は置くべきでない、⑤先祖代々守られてきた水資源をJR東海に差し出すことはご先祖様に申し訳が立たない、⑥水の問題は村民全体の問題なので本山地縁団体としては水源地に要対策土をおくべきでないと要求すべきだ、というもの。
JR東海が以前の保全計画で、要対策土は置かないと明記している理由はなんだったのか? 水源地であることを意識してのことだったとしたら、今回の計画変更は、刑法の「飲料水に関する罪」に触れるのではないかと思います。
本山地縁団体の受入れ承諾をもらったとしても、環境保全計画の修正の次の段階の、長野県環境影響評価技術委員会での審議があります。土曽川橋りょうのケーソン基礎に活用する計画については、人の住む場所に危険だからと区分される土砂を置くべきでないと厳しい指摘をした技術委員です。本山の計画は人が飲む水の水源地に置くので、土曽川の問題では2回の審議を重ねた技術委員会がどうなるのか、本山地縁団体の受入れ承諾の決定があって、地元の了解は得ていると説明したとしても、土曽川の場合を上回る厳しい指摘がだされるんじゃないかと思います。
長野県の中央アルプストンネルからでてきた約3700㎥は法令等にもとづき適切に処理できたんですから、JR東海は、ケチらずに最善の要対策土の処理方法を考えるべきです。でなければ、リニア計画全体を断念すべきです。
大阪まで67分で行けるのだから、沿線の田舎に毒をまき散らして良いとはいえないよ。
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