不便というのは人がこない理由にはならない
― リニア未来シンポジウム、第2回 ―

不便というのは人がこない理由にはならない。本当に来たい人は不便に関係なく必ず来てくれる。企業なんかでも今の時代インターネットがこれだけ普及していれば、ここに来たいと思った企業はリニアが通る前からでもこれる。

 12月14日、「リニア未来シンポジウム&特別講演会〜IIDA2027〜」というイベントの第2回目があって飯田市鼎(かなえ)にある鼎文化センターに行ってきました。真面目な経済関係の話もあるということなのか、会場は満席でした。下の写真は開始前。


 ゲストの慶応大学大学院教授の岸博幸氏の講演の要点は以下のとおり。

 岸氏はリニアを、飯田の経済にプラスになるものというよりは、対処すべきもの、対策を立てるべきものと見ているようです。最後のほうの「企業なんかでも今の時代インターネットがこれだけ普及していれば・・・」という部分はリニア不要論に共通する事実認識だと思います。

 後半の討論から参加した南信州・飯田産業センター地域連携マネージャーという肩書の松島信雄氏は、飯田の企業で作るエアロスペース飯田に関わっていて、これからは中型の旅客機の需要が増えると話されました。ご自分でも触れていましたが、それはちょうどリニアと競合する分野です。また、松島さんが飯田にこられたのはお仕事の関係以外に自然環境と山が気に入ったからだとも話しておられました。現在、名古屋に航空機産業の中心があるので、リニアができれば20分で名古屋までいけるので非常に便利になると、たぶん立場上なのでしょう、そう話されましたが、リニアに触れたのはそれだけのように思いました。名古屋が航空機産業の中心といっても、実際に事業所があるのは名古屋駅周辺ではなく相当各地にちらばっており、愛知県は移動には自動車が不可欠です。とすれば中央高速をつかって直接車でいったほうが便利ではないでしょうか。

 これまで2回のシンポジウムを聞いた範囲では、飯田の経済にとって何が何でもリニアが必要だという説得力のある説明は見えてきません。反対になくてもよいというふうに思えます。

 だからかもしれませんが、「※場内はプレス・関係者以外は。撮影、録音禁止となっております」。飯田市が主催者なのに。

 最後の質疑応答でおもしろいやりとりがありました。飯田コアカレッジの学生が将来やりたい夢があるが現状では地元では実現できない、メディアというか文化的な仕事がしたいのだというと、岸氏は東京にはメディアでは大手が既にあるし、実は文化には大したものがないが、ここにしかない文化があるし、ここでしか伝えられないこともあるから、ここでやったほうが絶対成功すると答えています。やる気になれば市長は応援するだろうという部分は、ちょっと疑問ですが・・・。次の写真のポスターは、彼も含めた飯田コアカレッジの学生が制作したそうです。

≫関連ページ:リニア未来シンポジウム

(2013/12/19)

補足 (2013/12/20)

 岸教授が講演の冒頭で、最初に「リニアについては専門家ではないし何も知らない」と断わっているのですが、このことについて触れるのを忘れていました。中央で活躍する、日本経済や政策について論ずるような人物のなかでもリニアのことをあまり知らない人がいるというのは考えてみると非常におかしなことじゃないでしょうか。推進する立場の人たちは、リニアは日本を変えるなどといって騒いでいるのです(『リニアが日本を改造する本当の理由』)。実は、リニア中央新幹線計画の本当の目的とか経済的な効果というものが、常人をもってしては計り知れないような荒唐無稽すぎる内容なので、ある程度真面目に考える人は端(はな)から相手にしていなかったのではないでしょうか。そして実現の可能性はまずないだろうと踏んでいるからこそ、こんな講演の内容になったのではないかと思います。牧野市長さんはじめ飯田のリニア推進派の方々は少し頭を冷やしたほうが良いのではないかと思います。リニアが長い年月の先にひょっとするともたらすかもしれない利益に比べると、工事がはじまれば即現実となることが確定しているといって良い具体的な、地域社会の分断または破壊、市民、住民の生活環境の破壊、自然環境破壊など不利益のほうがはるかに大きいということを考えるべきだと思います。飯田がよければ、下伊那郡の山ん中や田舎や、同じ飯田でも端っこのほうの座光寺や上郷の住宅地なんかどうでもよいということは許されんのではないですか。