不便というのは人がこない理由にはならない
― リニア未来シンポジウム、第2回 ―
不便というのは人がこない理由にはならない。本当に来たい人は不便に関係なく必ず来てくれる。企業なんかでも今の時代インターネットがこれだけ普及していれば、ここに来たいと思った企業はリニアが通る前からでもこれる。
12月14日、「リニア未来シンポジウム&特別講演会〜IIDA2027〜」というイベントの第2回目があって飯田市鼎(かなえ)にある鼎文化センターに行ってきました。真面目な経済関係の話もあるということなのか、会場は満席でした。下の写真は開始前。
ゲストの慶応大学大学院教授の岸博幸氏の講演の要点は以下のとおり。
- リニアについては専門家ではないし何も知らない
- リニアが通るということはこれはすごく大きなチャンスであると同時にリスクもある
- 新幹線などが地域の活性化につながると考えられているが実際には途中の都市はあまりかわらなかったし廃れたところもあった
- リニアができたとき、その段階で飯田市がどうなっているか、それ次第で、外から来る人は飯田を通り過ぎるかも知れない、便利になったことで若い人たちなどが地元の外へ動き出すかもしれない
- 地方都市の活性化の成功例はヨーロッパに多い。狭いヨーロッパのなかには車で数時間の距離に地方都市がいろんな地方都市がある。成功例は北欧、スペイン、ドイツ、イタリアとかいろんな地域にある。地域活性化の成功例に共通していえることは、地元の文化と環境を再生するということ。人が、来たり住みたいと思う町を作ること。他の都市にない自分の都市の強みはなにか。ヨーロッパは歴史も文化も伝統も非常にながく、地域ごとに違う。強みは文化と環境ということになる。「来たい」は観光に「住みたい」は企業、産業、雇用、につながる。
- たとえば、スペイン、バスク地方のビルバオは、スペインの大きな都市からは1時間くらい、車だと何時間もかかる大変な田舎である。かって鉄鋼業で栄えたがアジアの振興によって企業が出て行って寂れた。バスク地方の文化を再生し、工場による環境破壊を再生した。中世から続く特有の町並みを再現した。さらに、アメリカの有名な美術館の分館を誘致した。非常に不便な場所だが観光客はたくさん来るようになった。さらに奥のサンセバスチャンは食ベものが有名でそれだけで世界中から人をひきつけている。(注:ウィキペディアによれば、ビルバオへの首都マドリードからの長距離列車は、1日1便で6時間かかる)
- 日本はヨーロッパと同じように狭い国土でも地域により歴史、伝統、文化、自然環境は全然違う。飯田にも飯田にしかないものがあるはず。そういうものを強化しないと、リニアが通って人が降りたいと思うか、企業が来たいと思うか、飯田の企業がここに留まって頑張ろうと思うかは、リニアが通るということだけではだめで、この地域の独自の魅力、文化とか環境とかを再生する、そのうえに企業とか経済活動がのっかているとリニアの力を最大限に使えるようになる。日本の地方活性化はヨーロッパ型のほうがよいが、そういう正しいアプローチをやっているところは少ない。
- 日本経済は15年間低迷したのは、政策とか政治が悪いからだけでなく、半分は民間や地方によるイノベーションがなかったから。イノベーションの本来の意味は技術革新に限らず、企業がビジネスのやり方を変える、ビジネスモデルを変える、製品とサービスの組み合わせを変える、マーケティング、広告宣伝で新しいアプローチをするといったこともイノベーションである。地方活性化が上手くいっていないところは地元からイノベーションを作り出すということができていない。その結果、人口減少や高齢化が進んで経済規模が小さくなる悪循環にはいっている。
- 飯田は精密機械とか強い分野がありイノベーションはできるだろうがそれに限定しないで他のいろいろな産業、ビジネス、文化環境の延長で観光を含めまだいろいろな創意工夫ができるはず。
- 地元で長年その分野で頑張ってきた高齢の方の力だけでなく、イノベーションを作り出すには若者の力を利用する必要がある。
- 飯田は、小宮さんもいったように、みなさんわかっていないだけで、外の人間から見たら、おーと思うものがたくさんある。文化も環境も産業もいっぱいあるはず。それをリニアが通るまでにどう輝かせるか。ついでに、もう一ついえば、リニアが通るのは2027年、だいぶ先のことだが、ゆっくりやろうと思わないこと。逆に2027年までにどれだけできるかが勝負だと思う。
- スペインのビルバオが典型例で、不便というのは人がこない理由にはならない。本当に来たい人は不便に関係なく必ず来てくれる。企業なんかでも今の時代インターネットがこれだけ普及していれば、ここに来たいと思った企業はリニアが通る前からでもこれる。そう考えると、2020年、3倍に増える外国人観光客も含めどれだけの人、企業がこの地域に来たいか、地元で事業を続けたいと思う企業がどれだけあるか、ここで働きたいと思う若者がどれだけいるか、これがある程度実現できておれば、2027年リニアの段階でも大丈夫。
岸氏はリニアを、飯田の経済にプラスになるものというよりは、対処すべきもの、対策を立てるべきものと見ているようです。最後のほうの「企業なんかでも今の時代インターネットがこれだけ普及していれば・・・」という部分はリニア不要論に共通する事実認識だと思います。
後半の討論から参加した南信州・飯田産業センター地域連携マネージャーという肩書の松島信雄氏は、飯田の企業で作るエアロスペース飯田に関わっていて、これからは中型の旅客機の需要が増えると話されました。ご自分でも触れていましたが、それはちょうどリニアと競合する分野です。また、松島さんが飯田にこられたのはお仕事の関係以外に自然環境と山が気に入ったからだとも話しておられました。現在、名古屋に航空機産業の中心があるので、リニアができれば20分で名古屋までいけるので非常に便利になると、たぶん立場上なのでしょう、そう話されましたが、リニアに触れたのはそれだけのように思いました。名古屋が航空機産業の中心といっても、実際に事業所があるのは名古屋駅周辺ではなく相当各地にちらばっており、愛知県は移動には自動車が不可欠です。とすれば中央高速をつかって直接車でいったほうが便利ではないでしょうか。
これまで2回のシンポジウムを聞いた範囲では、飯田の経済にとって何が何でもリニアが必要だという説得力のある説明は見えてきません。反対になくてもよいというふうに思えます。
だからかもしれませんが、「※場内はプレス・関係者以外は。撮影、録音禁止となっております」。飯田市が主催者なのに。
最後の質疑応答でおもしろいやりとりがありました。飯田コアカレッジの学生が将来やりたい夢があるが現状では地元では実現できない、メディアというか文化的な仕事がしたいのだというと、岸氏は東京にはメディアでは大手が既にあるし、実は文化には大したものがないが、ここにしかない文化があるし、ここでしか伝えられないこともあるから、ここでやったほうが絶対成功すると答えています。やる気になれば市長は応援するだろうという部分は、ちょっと疑問ですが・・・。次の写真のポスターは、彼も含めた飯田コアカレッジの学生が制作したそうです。
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(2013/12/19)
補足 (2013/12/20)
岸教授が講演の冒頭で、最初に「リニアについては専門家ではないし何も知らない」と断わっているのですが、このことについて触れるのを忘れていました。中央で活躍する、日本経済や政策について論ずるような人物のなかでもリニアのことをあまり知らない人がいるというのは考えてみると非常におかしなことじゃないでしょうか。推進する立場の人たちは、リニアは日本を変えるなどといって騒いでいるのです(『リニアが日本を改造する本当の理由』)。実は、リニア中央新幹線計画の本当の目的とか経済的な効果というものが、常人をもってしては計り知れないような荒唐無稽すぎる内容なので、ある程度真面目に考える人は端(はな)から相手にしていなかったのではないでしょうか。そして実現の可能性はまずないだろうと踏んでいるからこそ、こんな講演の内容になったのではないかと思います。牧野市長さんはじめ飯田のリニア推進派の方々は少し頭を冷やしたほうが良いのではないかと思います。リニアが長い年月の先にひょっとするともたらすかもしれない利益に比べると、工事がはじまれば即現実となることが確定しているといって良い具体的な、地域社会の分断または破壊、市民、住民の生活環境の破壊、自然環境破壊など不利益のほうがはるかに大きいということを考えるべきだと思います。飯田がよければ、下伊那郡の山ん中や田舎や、同じ飯田でも端っこのほうの座光寺や上郷の住宅地なんかどうでもよいということは許されんのではないですか。