晩秋の風景に初夏の風景を合成する

― 諏訪森中州のフォトモンタージュは幾何学的に間違っている ―

 このページはもとは、パノラマ画面と35mmの画角の違い 神奈川編(爆笑編)の補足説明ですから、そちらを先に読んでいただいたほうがわかりやすいかと思います。

(追加説明) 下の画像について説明します。上半分はJR東海の評価書、神奈川編(2014年4月)の本編の景観の影響の予測(PDF)で使われたフォトモンタージュ(ページ 8-5-1-25 の 図8-5-1-3(3))から切り抜いたもの。下半分は同じ評価書の資料編(PDF、高架橋や橋梁のデザインを論じた部分)にあった小倉橋付近の追加のフォトモンタージュ(ページ 環 22-2-3の 図22-2-3-2)から切り抜いたものです。赤い縦線の位置で大きさをそろえています。(2014/05/25)


 上部のもとの写真が撮影されたのは、評価書によれば24年の5月だそうです。下部はいつ撮影されたのか記載はありませんが、秋から冬だろうと思われます(※)。オレンジの矢印部分の木の葉の様子や一番手前の枯れ草の様子からわかりますね。山の色も秋から冬の様子です。オレンジの丸で囲った部分に注目、なにか赤い色のものがぼんやりと見えます。上部の同じ位置には赤い花が写っています。(※2)

※1 この新たなフォトモンタージュは平成25年12月25日の第7回神奈川県環境影響評価審査会に資料として提示されています。第6回が11月25日開催だったので背景の風景は、おそらく11月から12月にかけての時期に撮影されたと思います。(参考: 平成25年度の神奈川県環境影響評価審査会等の議事録)(2014/06/17)

※2 黄色の矢印の部分に白っぽい家々が見えていますが、上部の初夏の写真では木の葉に隠れてほとんどみえません。(2014/06/17)

 そして、左下、赤いカギ印をした部分の右部分なにか変ではありませんか。枯れ草がこんなにまっすぐにカットされているはずはありません。橋梁の下に見える家の並びも途中でなくなっています。そう思ってよく見ると橋梁の部分が背景とは別のこんな形


になっているのがわかりませんか。このパノラマのフォトモンタージュは、他のフォトモンタージュとは違った方法で行われたのではないでしょうか。一番古い小倉橋がリニアの橋梁の下に見える部分、小倉橋の背景の森の緑は晩秋や冬の様子ではありません。どうも晩秋の風景に初夏の風景が合成されているようです。そして初夏の風景はおそらく評価書や準備書の本編に使われていたものと思われます。普通なら、構造物だけの映像を晩秋の風景の中に重ね合わせることができたはずです。このパノラマ写真にはそういう技術が使われていない。パノラマ写真のサイズがやけに小さいのはこのあたりにも原因があるのかもしれません。印刷した紙面ではわからないと思いますが、PDFをパソコン画面で拡大すればわかってしまうことなのに、JR東海さん手抜きは駄目ですよ。国民を舐めていませんか?

 これでは撮影位置が少し変化しているなんてことはわかりませんね。

 茶化していてばかりではいけないので、すこしまじめな観点から補足します。

 小倉橋がリニアの橋梁の下に見える部分では、背景つまり小倉橋とリニアの橋梁の橋脚との位置関係は評価書本編の写真(このページの写真の上半分)と同じです。しかし、下部の赤いカギ印の右側の白い壁の家の位置を上部と比べるとずっと左によっていることがわかります。橋梁の右側に注目すると、右端の形が違っているのですが、フード部分の一番太い横のラインの右端は上下で確認できます。このラインの右端の位置を比べると下部のほうが右にずれています。つまり、横幅全体は上部の本編に掲載されたものよりは大きいのです。

 撮影位置が、上部と下部で違っているとすれば、一番遠方の背景、送電鉄塔(赤い縦線)に対して橋梁の橋脚の位置が変化しても不思議はありません。この場合であれば、ざっといって、下部のほうがより近づいて撮影したことになります。

 ところが、下部の小倉橋とリニア橋梁との位置関係は上部のそれと同じです。ということは、撮影位置は変わっていないということです。下部つまり新たに公表されたパノラマ写真では同じ画面のなかに違った撮影位置の画像がはいっているということになります。

 つまり、このフォトモンタージュは幾何学的に間違っています。訂正の必要があります。

 さらに、赤い丸で囲んだ部分では山の稜線や、左の方では林の形が不連続な部分があります。左と中央左よりでは山の高さが食い違っています。中央右よりでは山の稜線の形が上部と異なっています。右側でも山の高さが食い違っています。背景となる晩秋の風景の写真のパノラマ合成に失敗しているようです。これはちょっとひどすぎるのではありませんか。

 このパノラマ写真の掲載されている資料編によれば、橋梁部分の幅は撮影位置=予測地点からみて角度で45度なので、画面の全体の幅は130度程度になるはずです。環境省の推薦するアセスメントのマニュアルによれば人間の視覚に近い60度程度の画角の35mmレンズを使用することになっていますからこの数字はかなり逸脱をしている。(※) 神奈川県分は準備書段階まではパノラマ画面を使わなかったのですから、準備書段階のフォトモンタージュと評価書の資料編に付け加えられたものは違う担当者が違うやり方で行った可能性もあるのかなとも思います。左右で空の色が違っている点などは、順光の部分から逆光に近い部分まで写しているわけですから、パノラマ写真としてもやや無理があるようです。

※(訂正):しかし、神奈川県の審議委員会の議事録を読むとこの視点で別により広い視覚で左右に広がる緑地との関係を示せないかというような審議委員の注文に応じて作成したように思えます。とすれば、「景観資源や視点の特性を視覚的に紹介するための写真や、事業地一帯の主要な景観要素をとらえ現場の雰囲気をより正確に伝えるための写真等々」も掲載すべきという『自然環境アセスメント技術マニュアル』の指示に沿うものです。(2014/06/21)

(追加 2014/06/05) 一つ気がついたことを追加します。まず、橋梁部分は初夏の撮影で、背景はおそらく冬ですから、約半年の季節の違いがあるので同じ時刻でも太陽の高度はかなり異なるはずです。もうひとつは、橋梁部分の影のでき方は、小倉橋の橋脚の影の方向、あまりはっきりしないのですが切り抜き元の本編写真の手前の草むらの中の影のでき方からすると、どちらかというと午前中の様子です。これはパノラマ写真ですから影の向きについては簡単に判断できませんし、さらに橋梁の合成された部分には影がほとんどありません。しかし左側の道路にできている影は地図(図 22-2-3-1)を参考にすると東北に伸びていますから、おおよそ午後撮影されたものと思われます。とすれば、新たにできる構造物=橋梁部分の光線状態と背景の光線状況はかなり条件が違うことが予想できます。画面が小さいとはいえ、こういったことは、景観の変化を正しく評価しようとする場合、ものの大小よりは印象に対する影響は大きいのではないかと思います。

 ちなみに、次のパノラマ写真も合成に失敗してます。


(「評価書・神奈川・資料編 22景観」 ページ 環 22-2-3(pdf p12)の 図22-2-3-4)

中央少し右寄りの位置で食い違いがあるだけでなく、カメラの傾きが変ってしまっています。川の傾斜が下流に向かって上がっていくように見えます。これと、橋梁の影のつけ方が橋梁が倒壊しそうに見える原因だと思います。パノラマを撮影するときはカメラを水平に構えて一定の高さで振らなくてはならないことは素人カメラマンであっても知っていると思います。

 それと、これは、もとのPDFを拡大して見ないとわからないかもしれませんが、橋梁の左側がなにかつぎはぎしたような跡がみえます。また、橋梁の輪郭線が他のフォトモンタージュと異なって、いかにも切り抜きましたという感じがします。コンピュータに入れた橋梁の設計図のデータから橋梁の画像を作ればこんな風にはならないと思います。まさか、資料編の相模川橋梁の写真(ページ環 22-1-5 図 22-1-2-5)の左右をひっくり返して切り抜いて、長さの足りない部分は似た部分を継ぎ足したなんてことはしていないとは思うのですが。図 22-1-2-5 も倒れそうな感じがするのでちょっとそんなことを思いました。(追加説明)

 なおこのパノラマ形式のフォトモンタージュは中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書(神奈川県)評価書資料編にあるこのPDFの12ページ目にあります。パソコン画面で拡大してみてください。ページの横幅をA4縦の横幅と同じ程度に拡大した程度ではわかりませんが、つまり印刷した場合は虫眼鏡で見ても多分わからない、400%程度に拡大するとわかります。

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(2014/05/20)


(補足:2014/06/16)

(1) 東濃リニア通信によると「ストップリニアニュース」に平成25年12月25日の神奈川県環境影響評価審査会の席上配布された資料の写真ということで、当ページでは評価書、神奈川県分の資料編に掲載されている(環 22-2-3の 図22-2-3-2)と説明している写真が掲載されています。再度、平成25年度第7回神奈川県環境影響評価審査会審議結果のページを見ると、資料2-2の53~76ページ [PDFファイル/7.33MB]の70ページに同じ写真がありました。次は、評価書掲載分と審議会配布分の写真から橋梁を中心に切り出して並べたものです。


画面をクリックすると拡大できます

 拡大して比べると、審議委員会で提示したほうは、長方形の貼り付けた部分がわりあい目立たないのに、評価書のほうははっきりしていることが分かると思います。印刷の想定サイズは、それぞれ左下に出ていますから、ほぼ同じなのですが、JR東海さんはどういう意図でこういう操作をしたのかよく分かりません。神奈川県の審査委員会はこれで誤魔化せた?のに。

(2014/06/21 補足)リニアの相模川橋梁は下の写真では上よりぼんやりした感じに見えます。しかし小倉橋は意外にくっきり見えます。これは、相模川橋梁のデザインが野暮ったく鈍いためだと思います。こんなものが手前に見えたのでは景観が台無しだと思います。地面近くを煙がたなびいているようなものです。

(2) 写真の全体を紹介してなかったので次に示します


 左の道路にできている影の向きと、右端の手前の木の影の方向、地図で見ると道路と川の流れはほとんど平行ですから川岸と木の影の角度と道路の影の角度の違いはパノラマ合成による湾曲を考えてもちょっと変かなとも思いますが、簡単に現地へ出かけて確かめるわけには行きません。

7月16日 補足

ちょっと不思議な部分を見つけたので追加説明します。下の写真は相模川橋梁と画面左の林の部分を拡大したものです。


 左側の赤丸の中の林の木の幹に光はどちら側からあたっているでしょうか。そして、右側の赤丸の中の橋梁の橋脚にはどちらから光があたっているでしょうか。赤丸内の橋脚も木の幹もどちらも円形ですから影のでき方は同じになるはずです。なお橋脚の左側の方の2本は角柱です。