科学教室の「超伝道」リニア実験

 7月22日、「南信州飯田おもしろ科学工房」と地元の住民が作る「松尾サイエンス」が飯田市内の松尾小学校(この地区ではリニアの施設は予定されていない)で5年生を対象にリニア新幹線が走る原理を学ぶ実験など4種類の実験をして見せたそうです(『南信州』23日)。

 記事の最後に「子どもたちは液体窒素で強力なネオジウム磁石を冷やして超伝導体を作り、磁石が浮かび上がる様子を観察していた。」とあります。普通は、この実験では液体窒素で超電導体を冷やし、その上にネオジウム磁石を浮かせます(参考)。あるいは逆に、リニアの列車をかたどった発泡スチロールをかぶせた超電導体(物質)を液体窒素で冷やしてから、ネオジウム磁石を並べたコースの上を走らせます(参考)。記者さんは実験をちゃんと見ていなかったと思います。ネオジウム磁石を冷やすことはありえません。

 また、記者さんは、リニア鉄道の原理をほとんど理解できていないと思います。リニアの浮上原理も推進原理も超電導とは全く関係ありません。実際に山梨県がやっている、リニア見学センターでは、超電導物質を使わずにリニアの模型を浮上させる実験を展示公開しているし、冷やした超電導体の上にネオジウム磁石などの永久磁石が浮く原理とリニア新幹線の浮上原理は全く違うと説明員が明確に説明しています。

ふわっと浮き上がるリニアって本当にすごいの?

 これは大事なことです。リニアは魔法の新技術でもないし、夢の技術でもないし、日本が世界に誇れる最先端技術でもありません。良く調べもせずに、先端技術というキーワードに踊らされているだけです。記者さんはもうすこし勉強すべきです。とはいっても山梨見学センターで超電導コースターの実験を最初から終わりまできちんと見ること、説明をしっかり聞くこと。隣の展示実験をじっくり試して見ること。それだけで十分。


リニア見学センターにて

 実験をやっている場所のすぐそばに、本当の原理がどうなっているか説明する、見学者が自ら体験できる一連の実験装置が展示してあります。浮上するのに相当大きなエネルギーが必要なことが実感できる優れた展示です。なんでリニア誘致に熱心な山梨県がこんなネタバレのような展示をしているのか疑問に思うくらい良くできた展示です。


リニア見学センターにて。

 両側のリングはガイドウェイのかわり。リングを回転させれば車体がガイドウェイの中を走るのと同じです。リングを装置手前のハンドルで一生懸命回転させると車体の模型が浮き上がります。これが本当のリニアの浮上原理。車体が前進しつづけなければ浮いていません。この展示装置には超電導物質は使われていません。前進し続けるには、電力が必要です。

「JRリニアは他の磁気浮上システムとの違いを強調して『超電導リニア』とも呼ばれるが,超電導で走るわけではないので誤解を招く表現である。列車の駆動力は地上コイル(常電導)から供給されるのであって,『超電導だから消費電力が少ない』などというのはまったくの誤りである。」(阿部修治、「エネルギー問題としてのリニア新幹線」、『科学』岩波書店、2013年11月号)

 超電導でふわっと浮き上がっているんだと思わせる。エネルギーを使っていないと思わせる。子ども達に「科学」の名のもとで、先端技術について闇雲にあやまった期待感を持たせることは、戦前戦中の軍国教育と同じで、犯罪行為だと思います。大人だって誤解すると思います。山梨見学センターの説明員さんたちのリニアの本当の原理は違うという念押しは、こういう実験ショーが誤解を招きやすいと分かっているからだと思います。つまりずるい責任逃れです。一方で、言葉の説明よりは、目に見える現象から受ける印象のほうが強いことも理解したうえでやっているのだと思います。

 なお『南信州』は間違いなく「超伝導」と書いています。熱は伝導、力は伝導、伝達で電気は電導。正しくは「超電導」ですね。こういう科学教室はリニア教の伝道活動?。

(2015/07/24)

補足

 山梨見学センターにあるような磁気浮上コースターの原理を説明したページがあったので紹介します。

 最初のほうで「リニア中央新幹線は超伝導磁気浮上ジェットコースターとは違う原理です。」とちゃんと説明しています。

(2015/10/27)